第1章14話 雷闇魔将ヴァルガス
俺たちの目の前にいる大男は、自らを
「アクイラさん、あの人の魔力…………昔を思い出すの」
俺はルーナに落ち着くように促すとベラトリックスさんに詳しく話を聞くことにした。
「つまりベラトリックスさん達はあの大男に負けたってことですか?」
俺が問うとベラトリックスさんはゆっくり頷いた。ランクルビーにランクエメラルドがいるパーティで負けた。そんな様子を見た大男は答える。
「そうだ
そうか、今俺たちはこいつと戦わないといけないのか。カイラさんもいるからそこまで劣勢とは思っていないが、俺はもう消耗しきっているし、ルーナはなぜか異常なまでに怯えている。そう思ったが、ルーナが前に出た。
「あ、あの…………ひ、人を灰にして殺したことは…………ありますか?」
ルーナは怯えるような声で尋ねる。その死に方は、ルーナの両親の死に方だ。ルーナはこの大男が殺したのではないかと考えたのだろう。
「
かなり好戦的なやつだな。仕方がないけど戦うしかないみたいだ。それにあいつの強さを見る必要がある。
次の瞬間、ヴァルガスは吹き飛んだが、ヴァルガスの立っていた場所では、カイラさんが感電していた。
「うわああああああああ!?」
「カイラさん!! 大丈夫ですか!?」
「はぁ…………はぁ、差し違えるつもりだったん…………だけどな」
俺は慌ててカイラさんに近寄るが、既に状態異常回復魔法をかけてあったため少しビリビリしているだけで大きな外傷はなかった。カイラさんは雷撃に気付いていながら、ダメージ覚悟の一撃を放っていたようだ。
「あの男……どんな威力の雷撃なんだ」
相手に触れるだけで感電してしまう。魔法を使わない上に、直接攻撃しか攻撃手段のないカイラさんとは尋常じゃないくらい相性が悪いじゃないか。
その上、カイラさんは手足が痺れているのか碌に動けそうにない。ヴァルガスを吹き飛ばしてくれたけど、できればこの一撃で決着がついていると助かるのだが。そう思い、ヴァルガスの方を見ると、奴はダメージは入っていたものの、立ち上がった。
「
そして再びバチバチと帯電する。カイラさんはいつも一撃必殺だ。自分の攻撃は必ず当てるし、相手の攻撃は絶対に当たらない。そんなカイラさんだからこそ、攻撃を受けることに慣れていないんだ。
「仕方ありません…………私も戦います」
カイラさん抜きの状況で、俺とルーナの他に唯一いたのはずっと拘束されていて、碌に体力の回復が出来ていない地の聖女だけ。三対一と考えても圧倒的に不利だ。
「不利だと思いましたねアクイラさん。安心してください、私は一度、彼と戦っていますので…………戦い方は熟知しているつもりです」
そういった地の聖女は、大地に手を付けて詠唱を始めた。
「大地の恵みよ、我が仲間を癒やし、育てよ。
彼女が大地に手を当てると、俺たち三人の目の前には芽が伸び、一瞬で果実がなった。
「さあお食べください」
俺とルーナはそれを食べ、地の聖女は痺れて動けないカイラさんに口移しで食べさせてあげていた。なんで俺痺れてなかったんだろ?
甘すぎるような果実を食べると、先ほどまで失っていたはずの魔力が一気に回復したどころか、疲労まで飛んだような気がする。
カイラさんも立ち上がれるくらいには回復していた。
「ほう? 前も見たが面白い魔法だな。だが魔族には及ばん。魔法とはそもそも魔に連なる者の法則に従った力よ!
「本当にそうか? 人間は別に魔とつかないが、魔法は使える。勝手に奢って自分らの種族名に魔ってつけてる痛い種族と違って謙虚なだけだ」
俺たちはそう言いながら再び立ち上がった。俺たち三人はほぼほぼ完全回復している。地の聖女は先ほどの魔法で消耗しきっているみたいなので休んでもらおう。
とにかくこいつには加減は不要じゃない。加減できやしない。
「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。
俺は全身を炎で包み込んだ。それに続いてヴァルガスも詠唱を始める。
「轟く雷よ、我が身に守りを与え、鎧となれ。
奴は常時帯電していたにも関わらず、更に雷の鎧を作り出し、自身を覆った。どうやら同じ鎧使いの様だ。雷の強さを見る限り、もう直接触るなんてことはできない。カイラさんはもう下げるべきだろう。なんならいまだに隷属の刻印が消えていない三人をこの部屋から連れ出してもらった方が良いかもしれない。
しかし、そうなると今この場にいる戦力は
しかしカイラさんは何かを試案しているようで下がる雰囲気はない。そして次の瞬間には俺の視界から消えヴァルガスの頭部には岩が叩きつけられていた。その岩には人ひとり分の足型までついている。
「ぐわぁ!?」
「これなら蹴れるな」
カイラさんは自慢げな表情をしているが、向こうもダメージはあるもの全然余裕そうだ。倒しきる前に岩がなくなるだろう。そう考えたら、やはり俺たちで決定打を作り出す必要がある。
「行くぞルーナ!」
「うん!」
俺とルーナはヴァルガスに向けて駆けた。カイラさんも遅れて追ってくる。俺は走りながら火焔を纏わせ、ルーナはロッドに水球を纏わせる。そして俺の腕は炎の腕、ロッドは水のハンマーとなる。俺たちは左右から挟撃する形でヴァルガスの腕にそれぞれの一撃を叩き込んだがやはり避けられてしまった。しかしそれが本命じゃない!!
避けた先には既にカイラさんが待ち構えており、クラマトタエムの死骸を足で叩きつけた。
「甘いわ!!」
しかし、ヴァルガスの雷の鎧の範囲が広がり、カイラさんは雷が届く前に回避してしまい、ダメージを与える前に離脱してしまった。そして奴は前進してルーナと俺を同時に殴りかかる。
俺は両腕を前に出し、炎の出力を上げて盾を作る。ルーナは殴られた身体が水に変わり別の場所から現れ今度はロッドの先に水の刃を作り切りかかっていた。しかし、そのどちらもヴァルガスの纏う雷に弾かれてしまった。
「ふむ……つまらんな。やはり家畜。我の元で労働することに残りの生を費やすと良い」
さらに奴は俺の腕を無理やり掴んだ。俺は全力で炎を灯し、奴は全力で雷を生じさせた。先に鎧がなくなった方がダメージを受ける。俺は掴まれた腕に全身の鎧を集中させた。奴も掴んだ腕に全身の雷を集中させる。
その一瞬が命取りだというのに。
たとえ、一瞬でも、そこに雷の鎧がなければ感電することになろうと彼女は差し違えるつもりで蹴る。
洞窟の床と天井にヒビが入ると同時に、ヴァルガスの脳天にカイラさんのかかと落としが炸裂する。ヴァルガスはダメージの大きさに鎧を解除してしまい、今度は掴んでいた腕が焼けた。
「ぐううううううううううううおおおおおおおおお!?」
ヴァルガスが苦痛に悶える。ところで俺の足場が大量の水で隆起する。サンキュールーナ!
「喰らいやがれ!!!」
すべての炎の鎧を右足の裏に集中させて俺は跳ね上がってヴァルガスに飛び蹴りを決めた。
「うおおおおおおおおおおお!!」
「ぐああああああああああああああ!!!!」
俺は着地し、よろける。俺の炎がヴァルガスを包み込む。そしてついにヴァルガスが膝をついた。
「面白かったぞ
ヴァルガスは最後まで笑いながら燃え尽きた。その強さには驚愕だ。
「勝った…………のか」
「はぁ……はぁ……やりましたねアクイラさん」
ルーナが俺の回復を始める。カイラさんも地の聖女に治療してもらっていた。確認したところ、地の聖女と同行していたシルヴィアさんたちの隷属の刻印もちゃんと消えていたようだ。
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