第1章13話 炎焔の鎧

 俺の魔法で蔦は即座に燃やしきることができるが、すぐに生えてくる。蔦を燃やすだけじゃだめだ。本体を焼き尽くす。叫び声に耐え、伸びる蔦を焼く。両手を炎の鎧で守っていたため、蔦は俺の腹部を貫こうとしてくる。


 俺はとっさに両腕でそれを護ろうとしたが、クラマトタエムが叫び声をあげる。とっさに俺は耳を塞ごうとしてしまい、蔦は俺の腹部に当たった。


「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧エンフレクス・アルマ!!」


 炎焔の鎧エンフレクス・アルマは何も手足だけを覆うものではない。魔力消費が激しいから全身を覆わなかっただけだ。俺は全身を紅い炎で包み込んだ。腹部の蔦は燃やしてやった。相手の物理攻撃は実質、無効化できたが叫び声がどうもダメだ。回避もできないし耐えるしかない。


 全身を燃やせる時間は短い。足の炎を噴き出し、推進力を挙げたキックでクラマトタエム本体を蹴り砕く。そのあとは背中から炎を噴き出し、前方に移動しながら別のクラマトタエムの元に行き殴り倒す。それでもクラマトタエムは出てくる。きりがない。


 出現している魔法陣をなんとかしよう。俺は炎の力で空中に飛び、クラマトタエムの一番上の部分を足場代わりに飛び、魔法陣向かって全身を紅く燃やしながら飛び蹴りをした。


「焼き消えろ!!!!」


 魔法陣は焼き後で一部が消えて効力がなくなった。クラマトタエムは鳴き叫んだあと、文字通り消えてなくなった。俺はかなり消耗していた。


「アクイラさん!」


 ルーナが俺の元に駆け付けてくる。カイラさんは地の聖女様の拘束を解除してくれていた。


「大丈夫?」


 ルーナは心配そうな表情だ。俺はそんなルーナの頭を優しく撫でると彼女は嬉しそうに目を細めた。


「ちょっと疲れたかな。ひとまず聖女様を救ったら休憩しよう」


 俺の提案にみんな同意してくれる。俺たちは少し休むことにした。カイラさんが地の聖女様の拘束を解除し、隷属の刻印がないことを確認してからルーナが治療する。


 ルーナの治療で地の聖女様が目覚めた。


「ありがとうございます。私の名前はベラトリックス。地の聖女といえばお分かりになりますでしょうか?」


 地の聖女様がお礼を言う。どうやら、俺たちが事前に彼女の仲間たちと会っていたことを知らないみたいで、律儀に名乗ってくれた。もっとも、彼女の仲間たちは隷属の刻印のせいでしばらくは拘束状態となっているのだが。


「いえ、私は治療しただけですので」


 ルーナが謙遜して頬をかくと彼女は微笑んだ。


「皆さんは強いのですね。あの男に勝ったのですか?」


 そういいながら彼女は立ち上がり、スカートについた土を払うと俺の方を見る。そして深々と頭を下げる。


 あの男? ここまでの道中で戦ったのは隷属の刻印が付いた女の傭兵たちと魔獣だけ。男なんていなかったぞ。


「あの、ベラトリックスさん、あの男とは誰の事を言っているのでしょうか?」


 俺が質問をすると彼女は少し不思議そうな顔をしたが答えてくれる。


「…………? ですが、私をここに繋いだ男はいませんし、倒されたのでは?」


 俺はカイラさんの顔をみる。しかし彼女は首を横に振った。やはり、そんな男と呼べる人間なんて最初からいなかった。


「とりあえずこちらも自己紹介させていただきます。俺の名前はアクイラです」

「私はルーナ」

「私は森姫のカイラだ」


 三人それぞれ名乗ると、ルーナが俺に耳打ちをした。


「どうして森姫とか華の射手って名乗るの?」

「ああ、二つ名だな。ギルドで依頼を出す際に傭兵を指名する場合があるんだけど、名前被りとかがあるから二つ名をつけて呼ぶんだよ。平民は家名がない上に同じ名前の奴なんてたくさんいるからな」


 まあ、貴族の傭兵も普通に家名じゃなくて二つ名を名乗ってるけどな。俺たちが話しているとカイラさんが俺たちの間に割り込んできた。


「ルーナも名乗るといい。先ほどの戦いから幻想の巫女なんてどうだ?」


 カイラさんがなぜか勝手にルーナの二つ名を決め、ルーナも首を縦に振る。


「ん。幻想の巫女ルーナ」


 ルーナは二つ名に慣れていないのか多少恥ずかしそうにしていたがすぐに受け入れた。俺にも勝手につけられた二つ名があるがアクイラという名前が珍しかったのであまり名乗っていない。


「それでベラトリックスさん、あの男とは誰のことなのですか? 俺たちはここに入ってきて一度も男にあっていません」


 俺が話を戻すと、ベラトリックスさんは思案する様子を見せると意外な名前を口にする。


「その者は自らを魔の九将マギス・ノナとか名乗っていました」


 俺たちは一瞬反応に困ったがすぐにカイラさんがその名前に驚いた。


魔の九将マギス・ノナ…………それは確かか?」

「ええ、我々協会の調査結果により、この地域の魔獣の活性化の原因は魔王復活のための副作用のようなものです。そして魔王を復活させるために動いている九人の魔族が自分たちのことを表す名前として名乗っているのが魔の九将マギス・ノナ


 魔の九将マギス・ノナか、少し危険な気がするが俺たちがすぐに手を出す問題でもないだろうし一度ギルドに報告して依頼として出してもらう方がいいな。


「とりあえず、ベラトリックスさん、俺たちはこのことを報告するためにも一旦街に戻るので一緒に来てもらってもいいですか?」


俺がそういうと彼女は頷いた。俺たちが立ち上がろうとした瞬間、ものすごい魔力が洞窟内に充満した。あまりの魔力の重さに一瞬俺はふらついてしまった。


「え? 嫌!? 怖いよアクイラさん」


 ルーナは、異常に怖がっているのか俺の服の裾を掴む。魔力が一点に集まると、それは魔熊ウルシウスよりも大きな筋肉質の男が現れた。黒髪に金色の瞳で黒い肌の大男。服装はとにかく黒。黒いジャケットに黒いボトムスを履いて全体的に黒い。


「うおぉぉっといかんいかん。我が眠っている間に、聖女魔力路が剝ぎ取られてるではないか!!」


 大男はバチバチと帯電しているのがわかるくらい身体から電気が漏れているのが分かった。

 そしてベラトリックス様がつぶやいた。


魔の九将マギス・ノナ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る