第1章11話 隷属の刻印
地の聖女、ベラトリックスを名乗る彼女が偽物か否かはっきりしないが、少なくとも俺たちは何か嘘をつかれていたことが分かった。
「お前は何者だ? なぜ嘘をついた」
俺は物陰から飛び出し、ベラトリックスに声をかける。ベラトリックスは目を見開き、驚いた様子だったが、すぐに冷静さを取り戻し、こう答えた。一週間前に出会った俺たちと同じ場所で出会ったのだ。しかもまた一人で。
「私は…………」
「華の射手エリス…………
カイラさんの言葉にベラトリックスの身体がピクリと動く。彼女は俯き何も言わない。俺は警戒しながらもさらに問いかけることにした。
「目的はなんだ?」
その問いに答えが返ってくることはなかった。しばらく沈黙が続く中、ようやく口を開いたのは彼女の方からだった。そして予想通りの言葉を口にする。
「私は……エリスです」
やはりそうか。俺は舌打ちをすると同時にカイラさんが彼女に掴みかかった。彼女は抵抗する素振りを見せず、ただ静かに地面に倒れるだけだった。どうやら観念したらしいのか、それとも別の理由なのか俺には分からなかったが、どちらにせよ彼女が敵であることは間違いないだろう。
「ベラトリックス……いやエリスか」
俺がそう呼ぶと彼女は小さく反応を示した。だがそれ以上は何も喋らず、ただ黙って地面を見つめていた。
「なぜ地の聖女の名前を語った」
「それは……」
彼女はそこで一度言葉を切る。そして意を決したかのように話を始めた。
「その前に脱いで良いですか? リラックスできませんので?」
彼女は以前同様ボロボロの服。しかし、なぜこのタイミングで脱ぎたがるんだ。裸でも見せたいのか? と疑問に思いながらも了承することにした。どうせ拒否しても勝手に脱ぐだろうからな。彼女は服を脱ぎ去ると、均整の取れた美しい裸体が露わになる。俺もそうだが、ベラトリックス改めエリスは自分の身体を見て何か考え事をしている様子だ。そしてしばらくしてからこう切り出してきたのだ。
「それで私がなぜここに来たかということですよね」
俺は黙って頷くことで肯定の意を示す。すると彼女はゆっくりと語り出した。その内容は以前と全く同じだった。聞くだけ無駄。何がしたいんだこいつは…………
「ふむ…………アクイラ、お前本当に彼女の下着姿をじっくり見たのか?」
「無論だ! 胸と腰と尻、太もものラインがすごく美しいです」
脱ぎ去っておきながらエリスは顔を紅くし、手で胸部を覆う。それでも、下を隠そうとはしなかった。
「いや、そういう話はしていない。彼女の身体を見て何か気づいたことはないか?」
カイラさんは俺に質問を投げかけてきた。俺はエリスの下着姿を改めて観察する。胸元は隠されてしまった為、おなか回りから目を凝らして観察するとよく見ればへその近くに薄く紋様がある。
「これ…………」
「ああ、魔族が使う。隷属の刻印だ」
「!?」
「わざと女が見せにくい部位を選んだのだろう。私なら尻に刻むな。下着で覆えるし」
なるほど、以前も今回も脈絡もなく脱ぎだしたのは変な癖でも痴女でもなく、魔族の意に反する発言をせずに、紋様に気付いてもらえるようにする作戦か。
あと魔族なんで尻とか下着の下にしなかったんだよ。それを見せるために下着を脱いでくれた可能性があるってことじゃねーか。
つまりエリスは隷属の刻印がある限り、魔族に意に反した発言や行動が出来ないんだ。そして目的はこの先へ通さないことだろう。
「なら街まで連れて行った時に留まって…………いやあの時は確か」
街に行ったがすぐに戻っていた。ここから離れすぎたのが問題で刻印から命令が来ていたと考えるのが無難か。
「ちなみに私がベラトリックス様じゃないとバレた場合なんですけどね…………死ぬまで…………この門を護るんですよ」
彼女は震えながら銃を抜き出す。隷属の刻印のせいで無理やり戦わされるのだろう。俺が
「華の射手エリス。二つ名の由来は高い射撃センスと華やかな容姿それに加え血の華を咲かせることからついた異名か」
「え? 思ったより物騒」
カイラさんは二つ名の由来を知っていたみたいだが、想像よりも物騒でびっくりした。しかし、下着姿のまま臨戦態勢に入られたなら、こっちもそのまま戦うしかないだろう。
そういって俺が前に出ようとする前にルーナが前に出た。
「アクイラさん、ここは私に任せていただけませんか?」
「任せるって? せっかくの人数有利だ、それに相手は
「そうかもしれない。でも、この先が危険ならなおさら二人を負傷させられない。だから私がやる」
ルーナは強い意志を持った瞳で俺を見つめてくる。だが、いくら彼女が戦えてもやはり無理だ。銃を持った相手との戦い方なんて教えていない。
「アクイラ。ルーナ君の成長を見ようじゃないか」
「…………危ないと思ったらすぐに割って入りますよ?」
「君より先に私が入るさ」
カイラさんが俺の肩に手を置き、そういうので、俺はルーナを止めるのを止めた。そして俺はルーナに告げる。
「いいぜ、ただし勝てよ」
「ん! 頑張る!」
ルーナはロッドを手にして前に出る。エリスがルーナに銃口を向ける。
「あと一歩でも近づけば撃ちます」
エリスの言葉にルーナはピタリと足を止めた。そしてゆっくりとエリスに歩みよっていく。エリスは近づいてくるルーナに対して引き金を引くが、ロッドにより防がれる。そのまま彼女は徐々に間合いを詰めていく。
「馬鹿な人ですね! 自分から撃たれにきた!」
そう言って再び銃を撃つと今度は腕に命中したようだ。ルーナは痛みに耐えながらも前に進む。
「澄み渡る水よ、癒しの泉となりて我が仲間を包め。
ルーナは魔法で自己治癒をしながら突進しだしたのだ! エリスは慌てて銃を撃つが、その弾丸はルーナに当らない。
「だったら戦法を変えるまで!!」
なんとエリスも銃を持って突進をし始めたのだ。ルーナは慌てて回避しようとするが、腕にダメージを受けたせいで反応が遅れる!
「あっ!」
ついにエリスはルーナの目の前まで行くとルーナの顔にほぼゼロ距離で銃口を向ける。
「ごめんなさい、隷属の刻印がなければ…………貴女とも友達になれたのかな?」
「ルーナ!!」
エリスが銃口を引くと、ルーナの頭部は吹き飛び、噴水のように血…………にしては透明な液体が噴き出した。
「な!?」
エリスが驚くのも無理はないだろう、ルーナの身体が突然溶け出したのだから。その場には水たまり。ルーナはいなくなっていた。そして本物のルーナはエリスの後ろにいたのだ。
「流れよ、清らかな水の泉よ。我が杖に力を与え、水珠を創り出さん。
水球をロッドの先に作り思いっきりエリスにスイングする。その水球でエリスは思いっきり吹き飛ばされた。
「なっ!? あっ…………どう、して?」
エリスは水球で頭を打たれ、地面に倒れこむ。
「無詠唱ですが
「よくやったぞルーナ!」
「まるで幻想の巫女だな」
そしてエリスは完全に気絶してしまった。カイラさんと話し合い、一旦拘束して身を隠してあげることにして俺たちは改めてこの先に進むことにした。
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