第1章10話 ベラトリックス再び
翌日、ギルドに向かう準備を整えた。早朝の光が窓から差し込む中、ルーナとの会話を交わし、彼女もまた調査に同行するとの返事をくれた。危険であることを理解していても、彼女の決意に俺は感心せずにはいられなかった。それにしても、ルーナの俺に対する依存は少しずつ解消しなければならないな。
右手にはルーナの手がしっかりと絡みつき、左手はカイラさんの手に握られたままだ。俺は二人と共に街を歩く。まるで街中の注目の的となっているかのようで、周囲の視線が俺たちを追っているのがわかった。
ギルドに到着すると、受付のリズさんが親しげな笑顔で迎えてくれた。
「アクイラさん、今日は何かご用ですか?」
「すみません、大事な話がありますので、ギルドマスターのところに通してもらえますか?」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
リズさんが俺たちをギルドマスターの部屋へ案内してくれた。部屋の中には、一人の女性が優雅な立ち姿で待っていた。
その女性の存在感に、俺は一瞬言葉を失った。彼女の黒髪は光を吸い込み、灰色の瞳は深い知性を秘めているように見えた。
彼女の装いは、ギルドマスターとしての責任感と知性を反映している。彼女が身に着けているダークグレーのロングコートは、シンプルでありながらも知的で優雅な印象を与える。金の刺繍や装飾が施された襟元や袖口は、彼女の高貴さを際立たせる。彼女のブラックのスリムフィットパンツは、動きやすさと洗練された雰囲気を同時に持っている。ブラウスやパンツもシンプルながらも上品なデザインで、彼女の知的な魅力を引き立てている。彼女の足元には、ブラックのローヒールブーツが調和した印象を与えている。彼女のアクセサリーであるシルバーのペンダントは、彼女の魔法の研究への情熱を象徴している。彼女の服装は、知性と責任感を持つ女性としての印象を強く残した。
ギルドマスターのレアさんが笑顔で迎えてくれる。
「さて、何かご用ですか、アクイラ君? そして、カイラ君と、新しい仲間のルーナ君も一緒ですね」
「はい、ギルドマスター」
俺は一呼吸おいてから話始める。
「昨日、リズさんから聖女様の失踪に関する情報をいただきました。まず第一になぜ
「それは君が適任と判断したからだ」
「このギルドに常駐している傭兵は
ギルドマスターはテーブルの上にあったコーヒーを一口飲むと、真剣な面持ちで答えた。
「それは君にしかできないことがあるからだよ、アクイラ君」
ギルドマスターは真っ直ぐに俺の目を見つめながらそう答えた。俺は彼女の言葉に心を動かされていた。自分以外に適任がいないと言われたことに嬉しさすら感じたのだ。俺は深呼吸をしてからゆっくりと口を開く。
「わかりました、お受けしましょう。それから一つお聞きしたいことがありまして」
「なんだね?」
「聖女様の失踪情報はギルドマスター経由でリズさん、そして俺へと来たと思いますが…………ギルドへ報告した者は誰ですか?」
「それは機密事項扱いだ」
ギルドマスターが俺の質問に答えてくれた。俺が知りたいのは聖女様失踪の情報がギルドへ報告される前に、誰がそれを知り得ていたかということだ。
「そうですか」
一番知りたいことを知ることはできなかったが、問題ない。ギルドマスターの部屋を出てリズさんに挨拶をすると俺たちはすぐに出発の準備を始める。まずは聖女失踪の情報をギルドへ報告した人物を探すことにする。
俺たちは街を出て草原を進んでいく。草原にはさまざまな魔獣が住み着いており、その姿を時折見かける。俺たちはその魔獣を倒しながら、役立つ素材を回収していった。
「ルーナ、魔獣を倒すだけでなく、解体することも大切だ。解体の技術は知識と経験が必要だが、まずは見本を見て学ぼう」
俺の言葉に彼女は首をかしげる。
俺はリュックから大きめのナイフを取り出して地面に置く。俺は解体用のナイフをルーナに手渡した。彼女は興味津々の様子でナイフを受け取った。
「解体用のナイフだ。俺が手本を見せてやるからよく見ていろ」
そう言って、俺は狼型魔獣を解体していく。ルーナはその様子をじっと見つめていた。
「いいか? まずこの部分からナイフを入れて、こうするんだ」
俺がそう言いながら魔獣の毛皮を剥いでいくと、彼女は感心したようにうなずいた。それから俺は魔獣たちを次々に解体していった。最後の1匹を終えた時、ルーナは興奮気味に拍手をした。
「すごい! こんなに簡単にできるなんて!」
彼女の喜ぶ姿に俺も嬉しくなった。
「だろう? だがな、これはあくまで手本だ。自分でやると結構難しいんだぞ」
俺の言葉にルーナは目を輝かせて言った。
「じゃあ、私にもできるかな?」
その言葉に俺は思わず笑ってしまった。ルーナが解体に興味を持ってくれるとは思わなかったからだ。彼女は俺の反応を見て頬を膨らませる。
「なんで笑うの?」
「いや、別に馬鹿にした訳じゃないんだ。ただ、お前が興味を持つとは思わなかったから」
俺の言葉を聞いてもなお、彼女は不満げな表情を浮かべている。そんな様子もまた可愛らしいと思った。
そして俺たち三人はベラと出会った洞窟までたどり着いたのだった。
「ここですカイラさん」
俺がそういうと、抱き着いているルーナも頷く。
「この洞窟は聖女様失踪の情報と同じころに俺たちが地の聖女を名乗る女性と会った場所です」
俺の説明を聞きながらカイラさんは洞窟の中へと入って行く。俺もそれに続いて中へと入る。奥に進んでいくとそこには大きな空洞があった。道中、魔獣たちがいくつかいたが、カイラさんの蹴りで落ちなかった魔獣などいない。
「ここでベラ…………地の聖女と会いました」
俺はそう言いながら周囲を見渡す。以前のまま…………ではないな。俺はルーナの手を引っ張り身を隠す。カイラさんは何事かというリアクションをしていたので小声で話しかけた。
「そこに倒れている人がいるのでカイラさんだけでお話してください」
「わかった」
カイラさんが近づくと、それは美しい黒髪の女性だった。しばらくすると彼女は目を覚ましたようだ。
「ううっ……ここは一体」
その様子はまるで洞窟の魔獣に襲われたかのようだ。
「気が付いたか?」
身体を起こし周囲を確認する彼女を見てほっと胸を撫で下ろす。どうやら命に別状はないらしい。年齢は二十歳くらいだろうか? 長い黒髪を後ろで一つにまとめていて、顔立ちはとても整っていた。服装はボロボロに破れていているせいで露出度の高くなった黒と赤の衣装を身につけており、破れた胸元は大きく開いているため谷間が見えてしまっているし、破れたスカート丈もかなり短くなっており、太ももがほとんど露わになっている状態だった。そして何よりも目を引いたのは彼女の瞳だった。まるで宝石のように美しく透き通っていて吸い込まれそうな感覚に陥るほどだった。そんなことを考えている間に彼女が口を開いた。
「助けていただいてありがとうございます」
礼儀正しく頭を下げる彼女に俺は…………疑念を抱くことしかできなかった。
「気にするな、君は何者だい?」
「私の名前はベラトリックスと申します」
自己紹介をした彼女だったが、その名前を聞いた瞬間俺は疑念が確信に変わった。
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