第1章3話 ゴブリン退治
朝の傭兵ギルドは、陽光が差し込み、活気に満ちていた。窓から差し込む陽光が、部屋全体を明るく照らし出している。傭兵たちが次々と出入りし、依頼の受付や準備をする姿が見られる。一角では訓練用の場所で、剣を振るう音や魔法の光が幻想的な光景を作り出している。
俺は入口でパーティメンバーであるルーナと待ち合わせてをしていた。俺はギルドのやかましい賑やかさに包まれながら、次の依頼を何にしようかじっくり考えていた今のルーナなら森に出る小型魔獣までなら一方的に勝てる。中型なら倒せなくもない。小型魔獣でも数によっては厳しい。そんなレベルだ。
ルーナが遅れてやってくることに気付き、俺は彼女に向かって小さく手をあげて挨拶をすると、彼女は彼女なりのペースで駆け寄ってくれた。俺たち二人の間には互いの期待と信頼が交わされているかのようだった。
冒険者ギルドに到着し、リズさんに挨拶をする。彼女は俺たちを見つけるとにっこり笑って出迎えてくれた。彼女の周りでは、他の冒険者たちも活気にあふれていた。ギルドの中は熱気に満ち、期待と興奮が漂っているようだった。
あいかわらず暑苦しいギルドだが、まあそういうとこも嫌いではない。
「おはようございます」
リズさんが挨拶をしてくれる。俺もそれに応えるように挨拶を返す。そして早速依頼の話を始めることにした。まずは掲示板の中から手頃な難易度の依頼を探していくが、なかなか見つからない……するとルーナが声をかけてきた。
「あの、アクイラさん。私、この依頼を受けたいです」
そう言ってルーナは一枚の紙を差し出してきた。それはゴブリン討伐の依頼書だった。
「ルーナ、ゴブリンは女子供を襲う。簡単な依頼かもしれないが、あまり女の子が行くべき依頼ではない。その……襲われるというか……とにかく他のにしないか? もっと安全な仕事を選ぼう」
俺は言った。正直、ゴブリンくらい遅れをとるなんてことはない。ルーナでも勝てるだろう。だがこれから向かうのはゴブリンの巣。奴らのテリトリーである以上、慢心はできない。
もしルーナがゴブリンに襲われたなんて想像するだけで…………想像するだけで…………ルーナって結構大きんだよな。考えているうちに俺の視線は彼女の胸部に集中していた。しばらくそのままじっと見つめていたが、ルーナは気にしていないのか気付いていないのか。
そしてルーナは真剣な表情で答えた。
「でも、私は強くなりたいんです! お願いします!」
彼女の言葉は真剣だった。どうやら決意は固いようだ。仕方がないと思い、ゴブリン討伐の依頼を受けることにする。何より、他にちょうどいいレベルの依頼も出ていなかったからな。依頼書を受け取り、受付に向かうことにした。そしてリズさんにそれを見せると、彼女は微笑みながら対応してくれた。
今回の仕事は俺たちの住んでいる森とは別の森の奥地にある洞窟に潜むゴブリンの群れを討伐するというものだ。しかし油断は禁物だ。危険な相手であることは間違いないのだから慎重に行動しなければならないだろう……そう思いつつも準備をして出発することにしたのだった。
森の中に入ると、木々が生い茂り日差しを遮る場所も多くあるため、薄暗くなっていた。しかし周囲の空気が重く感じられるような雰囲気が漂っているように感じた。まるで怪物が潜む森のような不気味さが漂っていた。
そんな危険な場所に俺たちは足を踏み入れているのだろう。
リズさんが道案内のために簡略的な地図をくれたおかげで、迷うことなく目的地に到着できたようだ。そこは小さな洞窟で、奥からは何か生き物の鳴き声のようなものが聞こえてきた。おそらくこれがゴブリンの巣だろう。中は暗くて見えないものの、臭いや気配などからして間違いないはずだ。ルーナにもそのことを伝えると、彼女は緊張した面持ちで頷いた。
「よし、入るぞ」
俺が言うとルーナが頷き返す。そして俺たちはゆっくりと洞窟の中に足を踏み入れたのだった。
洞窟の中は肌寒くて薄暗かった。足を踏み入れると同時に足音が響き渡る。周囲にいるゴブリンに気づかれてしまうのではないかと心配になったが、幸いなことに襲ってくる気配はなかった。この洞窟の奥に何が待ち構えているのか分からなかったため、警戒しながら進んでいくことにしたのだが、狭い通路はとても入り組んでおり迷路のようだった。そのため迷子にならないようにしっかりと確認しながら進んでいく必要があったのだ。
しばらく進むと少しだけ広い空間にたどり着いた。そこには複数のゴブリンがいたのだが、明らかに様子がおかしかった。まるで何かに取り憑かれたような様子だったのだ。そして奇妙なことに、彼ら全員が虚ろな目でこちらを見つめていたのだ。異様な光景に戸惑っていると、ルーナが口を開いた。
「アクイラさん……ゴブリンは初めてなのですが……あれは正常なのですか?」
真剣な表情で言う彼女の言葉に頷いて答える。ゴブリンは知性を持つモンスターである。だからこちらの様子を窺う姿勢は理解できるが、襲う様子もなければ仲間を呼ぶ様子もない。これは見たことないケースだ。
「アクイラさん! 私に任せてください!」
ルーナが前に出て杖を構える。俺が万が一のために構えると、彼女は力強く叫んだ。
「流れの力よ、我が杖に宿れ。水の刃を鋭くし、槍としての姿を与えん。
杖の先から水が噴き出し、その形を槍に変化させる。そしてそのまま勢いよく前方に突き出すと、水でできた刃がゴブリンたちを切り裂く。悲鳴を上げながら倒れる仲間を見て他のゴブリンたちは逃げ出した。
今のルーナならゴブリンに勝つことくらいは難しくはなさそうだ。問題はここが狭くて視界の悪い洞窟であること。そして大量のゴブリンがいること。
「アクイラさん。大丈夫そうです、行きます」
意気込むルーナを見て俺は大きく頷いた。これから何が起こるかわからないが、それでも俺たちは進むしかないんだ。そんな覚悟を胸に秘めて、俺とルーナは洞窟の奥へと進んでいった。
そしてそれなりに広さのある空間に出たのだが、そこには多くのゴブリンがいた。どうやらここが巣の中心らしい。しかしここで引き返すわけにはいかないため戦うしかなかったのだ。俺は拳を構える。そしてルーナも杖を構えると、ゴブリンの群れに飛び込んでいった。
「流れの力よ、我が杖に宿れ!水の刃を鋭くし、槍としての姿を与えん。
呪文を唱えながら杖を振りかざした瞬間、先端の水が鋭い刃へと変わりゴブリンたちを切り裂いた。切られた個体は悲鳴を上げて倒れるが、次々と新手が襲いかかってくるため休む暇もない状態だ。
「炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。
普段なら詠唱破棄するところだが、今は仲間もいるし、本来の力を出せるように詠唱しよう。炎を纏った左足でゴブリンたちを薙ぎ払う。すると、ゴブリンたちは悲鳴をあげて燃えていった。そして俺は一気に群れに飛び込むと、そのまま連続で拳を繰り出した。一撃ごとに肉が潰れるような音が響き渡り、骨が砕ける感触が拳から伝わってくる。最後の一体を蹴り飛ばしたところでようやく戦闘が終わったようだ。
ルーナの方も無事に敵を倒し終えたようで安堵していた。杖を下ろすと彼女は大きく息を吐き出すのだった。
「アクイラさん! 私やりましたよ!」
嬉しそうに駆け寄ってくるルーナの頭を撫でてやる。すると彼女は気持ちよさそうに目を細めた。そんな様子を見ているとなんだか心が癒されるような気がした。しかしまだここは敵の拠点の中なのだ。油断はできない。
「ここが最深部かと思ったが、まだ先があるみたいだな」
広場の向こうにまだ道がある。一応見ていこうか。
その後しばらくの間はゴブリンたちの襲撃が続いたものの、ルーナと協力して対処することができたため無事に切り抜けることができた。そしてついに最深部と思われる場所までたどり着いたのだ。そこは先ほどの広場よりは狭いが天井も高い。周囲には大きな柱が並んでいるため死角が多いように思えた。
「アクイラさん、ここが一番奥? んー?」
ルーナが言うので俺は静かに頷く。奥から何かの気配を感じる。ピリピリした感じが肌に伝わる。俺はルーナを生きて帰せるだろうか。
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