第3話・人工少女は液体窒素風呂に自分から入る

 次の日──実験体の人工少女は、開発者の男から液体窒素の風呂に自分から入るコトを命じられた。


「液体窒素の温度は、およそマイナス196度……月の影の温度はマイナス170度、太陽光が当っている部分の表面温度はプラス110度だとか、これなら月面温度を再現できるな」


 人工美少女は透明なバスタブの中に満たされた、湯気の出ている液体窒素の前に立つ。

 ガラスで仕切られた実験部屋の外から、スピーカーを通して男の『液体窒素の中に入れ』の声が聞こえてきた。


 少女はマイナス190度の超低温風呂に入る。

 男の『どんな感じだ?』の質問に少女は答えない。顔や髪が凍結して白くなっているのを確認した男は、巨大な実験用のマジックハンドで、凍りついた人工少女を液体窒素の中から引き上げて常温の室内に放置した。


 入浴した状態の膝抱え座りをしたポーズで、凍っている少女の体が解凍してくると。

 少女は両目をパチッパチッさせた。

「蘇生したか……冷凍実験は成功だな、少し休んだら今度は高温実験だ……おまえは、熱いサウナに入るんだ」

「はい、あたしはどんな実験も拒否しません」


  ◇◇◇◇◇◇


 人工少女は男に命じられて、施設内にある熱めのサウナに、銀色の金属箱を抱えて全裸で入室した。

 一緒にサウナに入った男が、顔の汗をタオルで拭きながら言った。


「一般的なサウナの温度は90度前後、人間は体温が50度を越えると全身の細胞が死滅して死に至る……過去の高温実験でプラス127度で二十分間人間が耐えらたと、いう記録がある……おまえには、それ以上の高温に耐えてもらう」


 男が少女に持たせた金属箱を指差して言った。

「その、箱の中には生卵と生肉が入っている、高温サウナの中で卵は茹で上がり、肉はカリカリに焼けると聞いたコトがあるので、ついでに実験してみる…どんなに箱が熱くなっても持ち続けろ」

「あのぅ、股間とかを隠すタオルは?」

「そんなの、実験体のおまえに必要無いだろ」

「そうですよね……モルモットには隠す必要なんて無いですよね」

 少女は少し悲しそうな表情をしたが、男はまったく気づく様子もなくサウナ室を出ていった。


 サウナ室の温度が急上昇して、人間が限界の127度を軽く越える──人工少女は一時間以上、超高温サウナに入れられた。


 男の『外に出てもいいぞデータは取れた』のスピーカー声に、サウナ室から出た少女は、驚くほどのテカる汗だく状態で、そのまま床に倒れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る