第2話・人工少女は硫酸の水槽に入れられる

 次の日──実験室で天井から鎖を背中で交差した、タスキ掛けのような格好で吊られた。全裸の人工少女の姿があった。

 白衣コートの男が手元の、コントローラーのボタンを操作すると。

 少女の体は横移動して、濃硫酸が満たされた透明な水槽の上に異動する。

「普通の人間だったら、肉と骨がドロドロに溶けてしまう危険な硫酸だ……これから、この液体の中に、おまえを入れる」

「はい、お願いします……一つだけ聞いてもいいですか、どうしてあたしこんなコトされているんですか?」


「何度も話しただろう、記憶障害が起こっているのか……おまえは、普通の人間には絶対行えない非人道的な耐性実験をするために、わたしが作ったのだと……データを取るだけなら、ロボットでも良かったが強化生体の方が、より生々しいデータが得られるからな」


「データを取ってどうするんですか?」

「こういったデータを欲しがっている国の軍部に売り込む……もう、いいだろう、濃硫酸に入れるぞ」


 鎖が下がってきて、実験少女の足先が劇薬に触れと白い煙が出た。

「ぎゃあぁぁぁ!」

 暴れる少女の体は、そのまま水槽の中に頭まで漬けられた。

 硫酸液の水面が大きく波打ち、溢れた液が実験室の床に飛び散り白煙が上がる。

 マッドサイエンティストの男は、慌てて人工少女を水槽から引き上げた。

 うつ向いた状態で上がってきた、少女の裸体から風呂上がりのような湯気が昇っていた。

 男が少女に向って言った。

「生きているか?」

「はぁはぁはぁ……はい、生きています」

「長時間、水中に放置した時も生きていたな……液体系の実験はこれで終了だ、明日は高圧と減圧実験を別の部屋で行う。深海の高圧から真空宇宙の減圧まで──おまえの体を使って一気に行う」

「はぁはぁはぁ……お願いします」


  ◇◇◇◇◇◇


 その夜──人工の実験少女は、与えられた牢獄のような部屋で、床に直接裸体を横たえて、小さな窓から見える月をうつ伏せの姿勢で眺めていた。

 衣服は与えられず、裸のまま。わずかな食料だけを与えられるだけだった。

(あたし、いったいなんのために生まれてきたんだろう……なんのために生きているんだろ)


 少女は今まで、開発者の男からされた実験を思い起こす。

 巨大なクレーン鉄球を体に激突させられて、肉体の衝撃耐性を調べられる実験が、記憶に残っている最初の人体実験だった。


 裸で野外に連れ出され、クレーン鉄球で崖に激突させられた。

「がはっ!」少女の腹や内臓、肋骨への衝撃も少女は平気だった。


 クレーン鉄球の次は、そのまま野外実験ということで。

 手足を大の字に広げた格好で磔台はりつけだいに固定されての、マシンガン弾丸の耐性実験だった。

 秒速で発射される弾丸を少女の体は、弾力ですべて弾いた。

「あぁぁぁぁぁぁ!」

 人工少女の体は、実験の内容によって、男から手を加えられて体質が変えられていた。


 少女の目から涙がこぼれる。

(あたしは、人間じゃない……作られた生体モルモット、モルモットだから服は与えられない)

 非人道的な実験が許される世界パラレルワールドの、殺風景な部屋で少女は眠りについた。


  ◇◇◇◇◇◇


 次の日──人工少女は圧力カプセルの中に入れられた。

 男が言った。

「これから、おまえの、体に深海の圧力をかける。その後に一気に気圧を減圧して真空の宇宙空間状態を作り出す……耐えろ」

「はい、お願いします」


 深海海溝の状態──カップ麺の容器が、半分以下にまで圧縮される水圧状態に、少女の体は耐える。

 そして、一気に減圧して今度は宇宙空間の環境の体の内側から膨張して、口から内臓が飛び出しそう環境にも少女は耐えた。


 カプセルから出た少女が床に倒れる、少女はクマムシのような生命力で生きていた。

 男が倒れた少女を見て呟く。


「酸素10%以下の無酸素に近い状態と、有害な放射線にも耐えたか……素晴らしい肉体だ、少し肉体構造を変えて。明日は液体窒素のマイナス実験と、灼熱実験を行う……ふふっ、人間が裸で月に行けばどうなるかのデータが取れる」


「はぐっ、明日も実験お願いします」

 少女は過酷な人体実験に、悦楽のような感情を覚えはじめていた。

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