唐揚げ

そして、今に至る。

その後の1週間の生活で色々分かったのだが、まず玲の姿は取り憑かれている俺以外には見えないし、声も聞こえないという事。

俺も玲以外の幽霊は見えないし、声も聞こえないという事。

と、ここまでは想定の範囲内だったのだが…。

「はは〜ん、お腹が空いてるんですね?今日の晩御飯は特製の唐揚げです!先ご飯にしますか?」

そう、幽霊のくせにこいつは何故か飲み食いが出来る上に、俺や俺の私物になら触れる事が出来るのだ。

そして今日"の"晩御飯は、と言っていたが今日"も"晩御飯は唐揚げである。

玲が来てからの1週間毎日が唐揚げだ。

こいつは自分を死に至らしめた原因である唐揚げを毎日美味そうにむしゃむしゃと食べている。

だが、悔しい事に玲の作る唐揚げは絶品だ。レパートリーが豊富で全く飽きがこない。

玲が来てくれて唯一よかった点かもしれない。

「はぁ〜…、じゃあ先ご飯もらうよ」

「承りました!」

嬉しそうにキッチンにかけて行く玲の後ろ姿を見送り。俺は電気をつけ、風呂場に寄り、追い炊きのボタンを押し、線香を回収し、手を洗ってからキッチンへ向かった。

「今日は何か収穫あったか?」

俺は唐揚げを1つ口に放り込み玲に尋ねる。

うん。やはり美味い。

何をどうやったらこんなに美味い唐揚げが出来るんだ?甘辛のタレが絶妙にマッチしていていくらでも食べれそうだ。

「ん〜、そうですね〜。やっぱり老衰が1番苦しくない、という意見が多かったです。他には自動車事故も打ち所が悪ければ苦しまずにいけるみたいです」

言いながら玲も唐揚げを1つ頬張り、幸せそうに顔をほころばせる。

幽霊が何故物を食えるのか、食べた物はどこに消えているのか、という疑問はとりあえず置いておく。

「成程な〜」

この一週間、玲に苦しまない死に方を聞いて回って貰っているのだが、これと言った成果は得られていない。

苦しくない死に方をした人は、未練を残さずに成仏してしまっているのかもしれない。

「真栗さんはお仕事どうでしたか?」

「まあ、いつも通りって感じだな」

上司からは嫌味を言われ、先輩や同僚からは陰口を叩かれ、後輩からは馬鹿にされ。うん、いつも通りだな。

ふと、視線を感じてそちらを見ると、玲がじっとこちらを見ていた。

「どうかしたか?」

「いえ、なんだか真栗さんの生命力がいつになく希薄なので、何かあったのかな、と思いまして」

こいつは生命力なんてものも見えるのか。俺の死にたい、という気持ちが強まると生命力に影響を与えてしまうのかもしれない。

「なんでもないよ」

「いやでも…」

「なんでもないって!!」

少し強い口調になってしまい自省する。

「ごめんなさい…」

玲が小さな声で謝罪してくるが、その姿をみて自己嫌悪に拍車がかかる。

「いや、俺の方こそ悪かったよ、冷めないうちに唐揚げ食べようぜ」

「…はい…」

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絶望くんと自爆れい 砂歩 @tadanopost

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