才能との邂逅

 僕はふと、彼女と初めて出会った時のことを思い出していた。


 それは、県立西高等学校の文化祭の日のことであった。


 WHQSは一般人向けにクイズ体験の催しを開いていた。

 僕らがとあるテレビ番組のクイズ大会に出場していたこともあり、たくさんの方に参加していただいた。

 その中に、彼女もいたのだ。


 あの時も、今と同じように千佳が問読みをしていたっけ。


「問題 桜島、守口、聖護院といった品種がある、冬に旬を迎える野菜は何でしょう/?」

「ダイコン」


「問題 場合の数を数え上げるために書かれる、植物のように枝分かれした図を/」

「樹形図」


 僕はその様子を見ながら、まあ普通はそんなものだよなとか思っていた。ボタンを押し慣れていない人がボタンを押す速度なんて、そんなものだ。言葉を選ばないのであれば、早押しには特殊な訓練というものがある。普通の人は、超人的な押しを披露することはできないし、まあ一般人にも解説できる程度の押ししかできない。

 それに、物怖じというのもある。これだけ人がいる中で誤答してしまったら、なんてことを考えてしまうと、分かる問題でも押せなかったりするものだ。慣れると誤答に対する恐怖心が取り除かれてしまうのだが、慣れなければそこが一つのハードルになってしまう。


 彼女もまた、そんなであった。……そのはずだった。


 しかし、そのセットの最終問題で、その認識が一転した。


「問題 マルチエンディングのゲー/」


 予想だにしないタイミングで、ボタンが光ったのだ。赤い右眼が特徴的な小柄な少女が、赤いボタンを光らせていたのだ、


 押されてみて、ハッと気が付いた。確かに、論理を尽くせば、そこで押せるかもしれない。

 でも、人がそこで押せるのか……?


 周りの怪訝な視線を集めながら、彼女は小さな右手を特徴的に赤く光る右眼にあてがいながら、シンキングタイムをギリギリまで使って、答えを出すのであった。


「トゥルーエンド」


 その答えは、見事正解だった。辺りが困惑に包まれる中、僕は一人で拍手していた。

(マルチエンディングのゲームで、物語として理想であると制作者によって意図された真のエンディングを何というでしょう?)


 今の押しは、今の正解は、偶然なのか必然なのか。普通に考えれば、偶然だ。単なるラッキーパンチにしか思えない。今の今まで、彼女は手練れたる素振りを何一つ見せていなかったのだ。


 しかし、ボタンを押してからの彼女の態度は、偶然を引き寄せるような態度には見えなかったのだ。確かな論理でもって答えを導き出すような、そんな表情に見えたのだ。


 もし、今の正解が本当に彼女の力によって引き寄せられたのだとしたら……。


 僕は思わず、彼女のもとへと駆け寄っていた。

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