7〇3×の大接戦

「問題 アニメ『とっとこハム太郎』のオープニング/」


 光ったのは坂島のボタンだ。また、攻め気味の押しである。


「……ヒマワリのタネ」


 しかし、今度の攻めは見事正解であった。


(アニメ『とっとこハム太郎』のオープニング曲『ハム太郎とっとこうた』の歌詞で、「大すきなのは」と歌われている食べ物は何でしょう?)


 これで、2○0×vs2○1×。


「問題 夏は高温乾燥、冬は/」

「地中海性気候」

(夏は高温乾燥、冬は温暖湿潤であることが特徴的な、記号Csで表されるケッペンの気候区分の1つは何でしょう?)


「問題 ストリートビューの画像/」

「……『GeoGuessr』」

(ストリートビューの画像に映る情報から地図上の座標を推測して正確性を競う、2013年にリリースされたブラウザゲームは何でしょう?)


 それから、僕が二問連続で奪取。2○差をつける。


 とはいえ、差が離れれば坂島が猛追を仕掛けてくるのも自明のことだ。こちらも気を引き締めなければならない。


「問題 6面あるサイコロを3つ同時に/」


 ここで光るのは坂島のボタンである。まだ確定していないだろうし、僕の指もまだ動いていない。


 坂島は天井を見上げ、頭を回す素振りを見せる。


「……36分の1」


 鳴らされるのは正解の判定音であった。

 坂島は胸をなでおろすかのように一つ息を吐くのである。

(6面あるサイコロを3つ同時に振ったとき、出た目が全て等しくなる確率はいくらになるでしょう?)


「よく通したな……」

「まあ、一番妥当性が高いでしょ」


 勿論、坂島とて確証があったわけではなかろうが、彼が言う「妥当性が高い」というのもなんとなく理解できる。早押し形式のクイズで聞くなら、そこに落ちるのも納得なのだ。強いて言うなら、「ピンゾロになる確率→216分の1」みたいな可能性があり得るくらいであろうか。


 などと感心しつつも、千佳の言葉にまた耳を傾ける。


「問題 日常的に鏡文字を使用して/」


 今度は僕も負けじとボタンを押す。


 ……確証はない。

 鏡文字を使用している人と言われて思いつくのは、レオナルド・ダ・ヴィンチか、ルイス・キャロルか。とはいえ、日常的に使用していたかということについては、記憶が曖昧だ。だから、現時点でも二択。難易度帯を考えても、どちらを出題されても納得である。


「……ルイス・キャロル」


 直感に頼るしかなかったが、しかし、無残に響くのは誤答のブザーであった。


「日常的に鏡文字を使用していたことでも知られる、建築、科学、芸術など幅広い分野での活躍を見せたルネサンス三大巨匠の1人は、ということでレオナルド・ダ・ヴィンチでした」

「そっちか……」

「二択外した感じ?」


 千佳の共感に対し、僕はこくりと頷く。僕が何を考えていたのか、千佳にはわかっていたらしい。千佳も人文系は得意なので、なんとなく通じる部分はあるのだろう。


 これで4○1×。とはいえ、まだ2×分の猶予はある。


「問題 普通、指切りを/」


 指は動いたが、光ったのは坂島のボタン。


「小指」


 坂島が飄々と答えれば、正解を告げることが聞こえる。

 坂島はこういう「やわらかい問題」に対する反応が早い。というより、全体的に反射神経が良い。だからこそ、この傾向の問題だと苦戦する相手なのだ。


 これで両者4○1×。


「問題 室町時代になってからも」


 ジャンルは日本史。得意ジャンルだから攻め気味に……!


「……基本法/」


 一か八かボタンを押せば、ちょうど特徴的なワードが千佳の口から漏れ出たところであった。

 ……。室町時代になってからも基本法として用いられたもの……。


「御成敗式目」


 確かに正解音が鳴らされ、これで5○目。

(室町時代になってからも基本法典として用いられた、1232年に北条泰時らによって制定された武家法は何でしょう?)


「問題 底がガラス張りであるスカイウォーク/」


 光るのは手元のボタン。

 ……これは、聞き覚えのある情報だ。確か、以前観光サイトを調べたことがある。

 脳細胞をこねくり回して、その記憶を引っ張り出す。


「グランドキャニオン」


 ピンポン

 その音を聞いて息を吐く。正しい記憶を引き出せたことに対する安堵と、脳味噌をフルで回転させたことに対する慰め。その二つがどっと押し寄せる。


 これで6○、リーチ。

 とはいえ、坂島もまたチャージをかけてくるだろう。攻め気味の押しが飛び出てくるはずだ。そして、この問題群の傾向は、坂島が得意な短文基本傾向。調子に乗らせたら厄介だ。

 ……なら、こちらも攻めるに越したことはない。


「問題 YouTubeのスー/」


 カチャリという音が響く。コンマ数秒の差で僕に解答権が渡る。


 YouTubeのスー……。……スーパーチャットの話か。それが分かったとて、問題文の続きは分からぬ。

 なら、とにかく可能性のあるワードを言うしかないか……。


「赤」


 10000円以上のスーパーチャットの色を答えてみたが、あえなく誤答であった。


「YouTubeのスーパーチャットで、コメントを入力するためには……ということで200円が正解でした」

「そうか……」


 そのパターンは頭に思い浮かんでなかったし、そもそも普通に知識としても曖昧なところであった。


 とにかく、6〇2×、ダブルリーチである。攻めも重要だが、失格にも気を付けねばならない頃合いだ。


 6〇2×対4〇1×。勝負はまだ分からない……。

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