新学期の懸案

「入ってきてくれるかな……」


 新学期の実力考査が済み、昼食を摂取しながら僕はポツリと呟いた。


「……またあの子の話?」


 そんな僕の様子を見かねて、目の前でともに食事を摂っている幼馴染は呆れたように口にするのである。


「またって……。そんなに何回もしてないだろ……」

「二回もやったら十分多い」


 そして、幼馴染は拗ねたようにそっぽを向くのであった。


 さて、僕らは何の話をしているのか。


 その前に。まずは我々について軽く話しておこう。


 僕の名前は速水はやみまこと。まあ、平均値から大きくは離れてない普通の高校二年生だ。昨年、この県立西高等学校に新たにクイズ研究会・通称WHQSフークス(West High-school Quiz Society)を設立し、その会長を務めている。

 加えて、目の前で一緒に弁当を食べているのが、日浦ひうら千佳ちかである。小学校以来の幼馴染であり、WHQSの会員でもある。


 そして、僕らはWHQSに新入生を獲得できるかということを話題に挙げているのだ。

 いや、それだとあまりにも抽象的だ。

 具体的には、をWHQSに迎えることができるのかということを考えているのである。


「大体、あんな小さい女の子のどこがいいって言うの……?」


 千佳はぼんやりと呟いているのだが、それはブーメランというやつであろう。

 というのも、千佳も150センチを少し超えた程度の背丈に過ぎないからだ。おまけに童顔で、胸の方も控えめである。

 左側だけ三つ編みにしている肩にかかる程度の長さの髪は隔世遺伝だか何だかで生まれつき透き通るような銀髪であり、海のように深く澄んだ瞳が嵌め込まれた人形のように可愛らしい顔つきや色白な肌などの特徴も相まって、異性人気もまああるのだが、幼女枠としてみなされることも多々あるのが千佳である。

 まあ、そんなことを口にしようものなら千佳の機嫌が大きく損なわれるので、敢えて口にするようなことはしない。千佳は子供っぽくみられるのがコンプレックスなのである。だから、底が高めのショートブーツを愛用していたりするというのはここだけの話である。


「僕は別に外見で評価してるわけじゃないって。才能を感じたから評価してるんだよ」


 話は件の少女に戻る。

 その少女と会ったのはたった一度だけだが、その一度だけで、クイズの才覚を感じ取れるほどであった。その時の彼女はまだ中学三年生だったが、きらきらとした瞳をしてWHQSに入りたいと言ってくれたのだ。

 だからこそ、僕も今の今まで気にかけているのである。


 とはいえ、彼女が本当に入って来てくれるかというのは、また別の話だ。

 そもそも、県立西高等学校というのは、この辺りでは「御三家」に数えられるほどの進学校である。ちゃんと、入試をパスしなければ、WHQSに入る資格すら与えられない。それに、彼女が今も同じ気持ちでいてくれているのかというのも問題だ。半年もあれば、人間の気持ちというのは変化しても何らおかしくはないのだ。


「真はあんまり他の女の子のことを見ない方がいいと思うの……」

「何でだよ」

「……何でも。それくらい自分で考えろ……」


 ただ、千佳はやはり不機嫌そうであった。

 そして、僕らは昼食を摂り終わった後、各々クイズの問題集を読み込むのであった。

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