夜行バス
もう何時間になるだろうか。夜行バスに揺られてはや数時間。数曲のお気に入りを入れたプレイリストはもう何周も同じ曲をイヤホンから耳に垂れ流している。私の横に座った老人はバスが動き始めてからずっと寝ている。
ミュージシャンになると親の反対を押し切ってこの春上京する私は、夢を追うことのできる高揚感と知らない土地での生活という不安感が入り混じりバスが動いてから結局一睡もできずにいた。さっき最後の休憩地点を出発したから東京まではもうあとちょっとと言うところまできているのだろう。そんなことを考えていると、さっきまでぴくりとも動かず寝ていた老人が徐に起き上がって私に
「なにか夢を追っているのかい」
と一言。静かな空間に響いたその声に私は辺りを見回したが誰も反応している様子はない。そんな老人の言葉に戸惑っているとまた一言。
「夢を聞かせてくれないかい」
と私に投げかけた。やはり静まり返っている。そんな不思議な状況に乗せられてか私はとうとう話し始めてしまった。ミュージシャンを目指していること、親と喧嘩したこと、不安と高揚感でいっぱいだと言うこと。老人はそんな私の話に相槌を打ったり時に質問をしたりして親切に話を聞いてくれた。私はその状況が不思議と心地よいものだと感じた。そして話をしたあと老人は私に
「若いうちだよ」と一言。
突如目に入った光に驚き目を開くとカーテンの隙間から朝日がのぞいていた。いつの間にか寝てしまっていたのだろうか。横にいる老人は寝ている。もうすぐ目的地に着くらしい。夢だったのか否かはわからない。今は新しい生活がただ待ち遠しい。
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