迷子
細身で季節に合わない長袖を着た少年は商店街の傍で一人佇んでいた。そのような光景を無視できない私は少年に声をかけた。すると少年は「ここがどこだかわからない」「逃げてきたの」とわからないことを言う。話すうちに泣き始めたので抱き抱えてみると「痛い痛い」と言う。逃げてきたと言っても親との喧嘩か何かだろう。と思い両親が見つかるまで一緒にいてやることにした。商店街は年に一度だと言う夏祭りを催していていつもより人で賑わっている。こどもは愚か彼女すらいない自分にとって子供を連れて歩くと言うのは初めての感覚で少し不安はあったが、少年が物欲しそうに眺めていた出店のたい焼きを買ってやるととても嬉しそうにしていた。しかしそのたい焼きに全く手をつけないので聞いてみると「もったいないから」と言う。それほど大切に思ってくれているのだろうと少し嬉しい気持ちになった。数分ほど歩いていると危機迫る顔でこちらに走ってくる女性が一人。あの人がこの少年の親なのだろう。楽しかったが仕方ない。と女性の近くまで行くと、こちらも見ずに少年に対して「勝手なことをするな」と罵声を浴びせた。たいそう教育熱心だと思ったが少年の私があげたたい焼きを持つ手は震えている。私に対してもいくつかの問答があったのち、少年は母親と思しきに手を引かれ帰って行った。
引かれていく腕の少しずり落ちた長袖からは赤い痣が見え隠れしている。私は今日のこの時間を忘れ捨てるかのように帰路についた。
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