第12話 聖母様
女神は相変わらず美味しそうにクレープを食べている。
辺りはすっかり暗くなっていた。
宿までの道は裏路地を通るのでかなり静かだった。
すると突然…
「お兄さんめっちゃいい趣味してるね」
後ろから声をかけられて振り向くとそこには人が立っていた。
ローブを着ており顔はフードで見えないが、声と身長からして恐らく少年のようだ。
口元は不敵な笑みを浮かべている。
すると横にいた女神が突然叫んだ。
「キャッーー!!」
女神の背後にはいつの間にか人が立っており、女神を羽交い締めにしていた。
まだ食べきっていないクレープが地面に落ちる。
「クレープがぁぁぁ!!」
自分の身よりクレープを心配する女神
後ろにいる奴は身長が女神とほぼ同じくらいで、少年と同じローブを着ていて顔はフードで隠れている。
「お兄さん、手荒な真似はしたくないから動かない方がいいよ」
少年が歩いて近づいてくる。
「お兄さんも僕と
「同じ道だと?」
少年は女神をじっくりと隅々まで観察しているようだ。
「ハァハァ……!これはすごい!僕は今とても興奮しているよ!!」
「玲王、この人めっちゃヤバイ奴だよ!早く助けて!!」
助けようにも女神はすでに捕らわれており、安易にエクスカリバーを使えば女神も巻き込んでしまうかもしれない。
それに二人同時に倒さなければどの道女神に危害が及んでしまう。
「お前の目的はなんだ」
慎重に尋ねる玲王
「自己紹介がまだだったね!」
そう言いながら少年はフードを取った。
月夜に照らされた髪は綺麗な銀髪で、まだあどけなさが残るがとても端正な顔立ちをしていた。
美少年だ。
「……僕は【
首を傾げながら微笑むユウ。
まさかこんな所で一番ヤバい組織の教祖に出くわすとは最悪だ。
「そんな大物が俺達に何の用だ?」
「僕を弟子にしてほしい!」
「は?」
「お兄様、これを見てください!」
急に態度が変わるユウに戸惑う玲王。
女神を羽交い締めにしていた人がローブのフードを取った。
「!?」
フードの下には女神マリアにそっくりな木製の人形の顔があった。
髪の色やスタイルはかなり近しいが、木製の人形の顔は似ても似つかない程だ。
しかもカクカクとぎこちなく動いているのがとても恐ろしかった。
「めっっっちゃキモいんですけどっ!!!!」
どストレートに言う女神
(確かにキモい)
「ハァハァ、本当に凄い!!こんなにリアルな質感、スムーズに動く身体、豊かな表情!!正しく僕が追い求めてきた理想だよ!!!!」
ユウは女神をまじまじと舐めるように見つめていた。
「僕は転生したときに、女神様を一目見て魅了されてしまった!!
あの優しいオーラ、人を魅了する美しい瞳、気品がありつつもどこか可愛らしさが残る顔!
そして僕に新しい人生を与えてくれたその慈悲の心!」
「それ程じゃないわよー、えへへ」
(なんでこいつはこの状況でも照れたりできるんだ。)
「そう!女神様こそ僕が追い求めてきた理想の女性像なんだ!!」
「それが俺達となんの関係があるんだ?」
「それはね」
そう言って木製人形に向けて指を振った。
カタカタと音を鳴らしながら人形が女神の体中を弄りはじめる。
「や、やめなさい、何をするの……!」
「僕の魔法は、人形にプログラムを書き込むことで動かすことができるんだ」
人形が動き出して、女神の手をバンザイにした状態で抑えた。
「僕はどうしてもまた女神様に会いたくて沢山考えた。
そして考えて考えて考えて思いついたんだ。
……そう、僕が女神様を再現したらいいんだって」
そう言ってユウはポケットからメジャーを取り出した。
「怖すぎるわよ、なんかのホラーですか!?」
(女神もこの状況でよくツッコめるな……。)
「でも僕にはどうしても女神様を再現することは出来なかった。
何故なら……
前世で女性を触った経験が無いんだから!」
(こいつも拗らせていたか)
「だから、僕は夜な夜な街の女性を解析した。
体の質感や体積を求め理想の女神様を作る為にね」
(お前がこの街を騒がしている痴漢だったのか)
メジャーを伸ばし、女神の体を測るために近づくユウ
「それに教団には、【物質生成魔法】や【造形魔法】を使える信徒が加わった。
それにより、よりリアルな質感とよりリアルな造形を作ることが可能!!
あとは女神様に近い女性のデータを集めるだけだ!!」
そう言って女神に近寄るユウ。
目が血走っていて怖い。
「話はわかった
だがこいつを好き勝手させるわけにはいかない」
(こんなやつでも守っておかないと後で何を言われるかわからないからな)
玲王が女神の前に立ちはだかる。
「れ、玲王様ぁぁぁぁ!」
守ってもらえたことに感動する女神
「お前の魔法はもうわかった。そして一度冷静になれ」
そう言って人形に向かって手をかざす。
「ディスペル」
光に包まれる人形。
魔法が消されて魂が抜けたように崩れ落ちる。
ガシャーン
「あぁぁぁぁぁあ!!僕の女神様がぁ!!!!」
膝から崩れ落ち号泣しだしたユウ
「うぇぇぇぇぇーーーーん、やっと女神様を再現出来ると思ったのに……」
人形を抱えて泣きじゃくるユウ
思った以上に泣いていたので、少し申し訳ない事をした気がした。
「何故、そこまで女神に執着するんだ?」
「……グスン、僕の……ママの面影を感じるんだ」
泣きながら話しだしたユウ。
「ママは僕が16歳の時に亡くなった......。
それから僕はママのように愛情を注いでくれる女性を探し求め続けた、
でもママが死んでから僕に愛情を注いでくれる人は現れなかった。
本当に優しくて僕に無償の愛を注いでくれて、まるで
そしてこの世界に転生した時に女神様とお会いして、僕は衝撃を受けた。
僕が探し求めていた人に出会えたと直感で感じたんだ!」
(めちゃくちゃマザコンのこじらせ系ってことか……)
「なんていい話なの!わかったわ!私が人肌脱ぎましょう!!」
ユウの話を聞いて感動のあまり号泣している女神がそう言って手を差し伸べる。
「私は本物の女神よ!今は訳アリで地上にいるの!」
「えええぇぇぇ!!女神様、ほんとに本物ですか!?!?」
とても驚くユウ
「お兄さんはてっきり僕と同志で、とてもリアルな女神様を作り上げた凄い方かと思ってました……!」
「そういう風に見えるのか?」
少しショックを受ける玲王
「はい!多分うちの教団の人達からは尊敬されると思います!」
(それはとても困る)
「で、具体的に私は何をすればいいの?」
「是非、型採りをさせてください!!」
「え、型採り?!さすがにそれはちょっと……」
ドン引きする女神
壊れた人形の顔を手に取り悲しげな顔をするユウ
「ママにもう会えないんだ……」
「わ、わかったわよ!!」
協力すると言ってしまったことを少し後悔する女神であった。
「では今すぐ教団の本部に案内するので来てください!!」
「悪いが今からは用事があるから、また後日でもいいか?」
(今からお婆さんの家で説明をしなければいけないのでさすがに今からは難しい)
「そうですか……では明日はいかがでしょうか!?」
「わかった。」
「では明日の12時に正門までお迎えを手配します!夕方には終わらせますので!!」
「あぁ」
手を振って走り去っていくユウ
また玲王達の方を向き、手を振っている。
「また明日ーー!!」
危険視されている教団の教祖に好かれてしまった玲王達であった。
__________
やっとお婆さんの家に着いた玲王
扉をノックすると、すごい勢いでルナが出てくる。
「遅いよっ!二人で何してたのっ!?ってあれ、あの女の人はどこ!?」
あとで説明しやすいように女神には瞳の中に戻ってもらっている。
「あぁ、遅くなってすまない。それもすべて説明する」
そう言って家に入る玲王
なんだかんだ1週間ぶりくらいで懐かしい。
そう思いながらリビングに行くと、机にロウソクの明かりだけが照らされていてかなり暗かった。
お婆さんとおばさんが神妙な顔をして座っていた。
しかもいつもは付けていない眼鏡をしていて、レンズには反射したロウソクの光が揺らめいていた。
「それでは裁判を始めます」
(聞き間違いか?おばさんが裁判と言ったぞ)
「被告人はそこにお座りください。」
おばさんがそう言って対面の席を指した。
「何かのコントか?」
そう言いながら椅子に座る玲王
「では尋問を開始します。」
(尋問!?)
「被告人は、やるべき事があると言いルナがついていくのを拒んだというのは本当でしょうか?」
(おばさん楽しんでるだろ…)
「……あぁ」
「では被告人のやるべき事とは、とても美人な女性とクレープの食べさせ合いをする事でしょうか?」
問い詰めるおばさん。
「それにあの女の人とは、もう身も心も一緒になったって……!!」
泣きだすルナ。
お婆さんとおばさんは玲王を睨みつける。
女性陣の完璧な連携プレーで場は完全にルナの味方だった。
「それは誤解だ。」
「ほう、どういった誤解でしょうか?」
眼鏡をくいッと上げながら聞き返すおばさん
「事と次第によっちゃただじゃおかないよ!?」
眼鏡をくいッと上げながらお婆さんも追撃する。
「そ、それは見てもらった方が早い」
少し気圧されながらも女神を呼ぶ玲王
(おい、出てきてくれ)
(......ちょっと待って!!さっきのいざこざで髪がボサボサなの!
髪の毛直してるからちょっと待ってて!)
(おい!タイミング的に今出てきてくれないと、俺が変な事を言ってるみたいに思われるだろ……!)
「まだかい?」
眼鏡をくいッとするお婆さんとおばさん
「……ちょっと待っててくれ」
(もういいわよ!)
そう言うと玲王の左目が光り輝きだした。
そして玲王の横に女神が現れた。
「えっー!?!?」
一同が驚いている。
「はじめまして、私は女神マリアです。
いつもは天界からこの世界の守護をしているのだけど、
今は理由あって玲王の体に宿らせてもらってるの!」
「め、め、め女神様!?!?」
ルナが驚く
「女神様だって知らずに失礼な事を言ってごめんなさい」
頭を下げるルナ
「あなたはルナね。
いつも玲王の目を通して見ていたわ、とても可愛いね」
そう言って微笑みながら女神はルナの頭を撫でた。
(こいつ外面はすごくいいんだよな……)
玲王は唯一、女神の素を知っている。
「女神様、疑ってごめんなさい!!」
また深々と頭を下げるルナを、女神は腕で優しく包み込んだ。
ルナの顔が恍惚としている。
「女神様だいしゅき……」
あっという間に懐柔されたルナだった。
ルナの頭を撫でながら、女神は語りだした。
「今この世界には危険が迫っています。
私は最後の力を振り絞り、勇者として玲王を召喚しました。
そこで私も力を使い果たし、一時的に玲王に体を貸してもらっていたのです」
(勝手に入ってきたの間違いだろ……)
玲王は心で呟いた。
「そうだったんだね、レお兄ちゃん誤解してしまってごめんなさい」
さっきまでの尋問の空気も消え、和解が出来たようだった。
「誤解が解けたのなら問題ない」
ようやくいつもの雰囲気に戻ってきた。
その夜はルナがどうしてもというので、また泊めてもらった玲王であった。
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