第11話 大波乱

あの日から一週間が過ぎた。

ずっとお婆さんの家にいる訳にはいかないので、今は宿屋で寝泊まりをしている。

家を出た日を思い返す。

「ずっと一緒に住めばいいじゃん!!」

「すまない、俺にはやらなければならない事があるんだ。わかってくれ」

そう言って無理やり納得してもらった。ルナはかなり寂しがっていたな。

これからはレベルを上げて本格的に魔王討伐に動こうと思っている。だから一人のほうが動きやすいのだ。


この数日はレベルを上げるために地道にクエストをこなしている。

E級だったランクが今ではD級に上がった。

弱い魔物の討伐であれば一人でも行けるランクだ。

今日もギルドに行きクエストボードを眺める玲王。

「うーーむ」

ここ数日クエストをこなしていて分かったことがある。

まずレベルを上げるには敵を倒すだけが全てではないということ。

新しく経験したことや、悩んで解決した事が全て経験値として得られるようである。

その観点からより効率の良いレベルアップ方法は、沢山のモンスターを討伐するか、新しい経験をするかである。


目に止まったのは、近くの森林に生息するイノシシ型のモンスターの討伐依頼だった。そういえば俺がこの世界に来てすぐに出会ったやつか。

名前はブラックボアと言うらしい、食欲旺盛で森の食料を食い尽くしてしまい生態系が崩れる恐れがある為、間引きが必要との事だ。

ランクもD級なのでそこまでは強くないようだった。

報酬も討伐数に応じてもらえるようで、こちらとしても都合がいい。

早速クエストを受けて、近くの森林に向う玲王。


*****

森林に着き、早速ブラックボアを探す玲王

その時頭の中で女神が話しかけてきた。

「あのぉ……玲王様にお願いがあります」

「断る」

「早っ!いつも断るのが早いよぉぉぉ!!」

頭の中で喚く女神

「うるさい、でなんだ?」

「ありがとーー!玲王様優しすぎぃーー!あのね!街に売ってたクレープってやつどーーしても食べてみたいの!!」

この世界は転生者がとても多いので日本の食文化がかなり流入している。

「そうか、聞くだけでやるとは言っていないが?」

「意地悪ぅ!そんなこと言ってたら新しい情報を教えないからね!?」

最近では女神をからかうことが楽しくなっている玲王であった。

「冗談だ、このクエストが早く終われば買ってやる。」

「本当!?やったぁぁぁー!!」

クレープなんかで喜んでるのが少し可愛いな。

「で?情報ってなんだ?」

「えーっとね!サイクスから回収した魔法だけど、私の力をもっと引き出せるようになれば玲王も使えるようになるの!」

「転移か、あれは使えると中々便利だな」

「本来だったら、魔法は一人一つまでなんだよ?だから女神である私に感謝してよね!」

「ほう、俺の体を勝手に使っておいてそういう言い方をするんだな?」

言い方は静かだが威圧感がすごい。

「ご、ごめんなさい、感謝してます......!」

女神様と玲王の立場が完全に逆転してしまってるのであった。


その後夕方頃までブラックボアを探して歩いた。

ブラックボアは縄張り意識が高く、人間を見つけると体当たりをする習性があるそうだ。

肉食ではないので危険度はそこまで高くないらしく、本来なら罠を使ったり、弓矢などの遠距離で倒すのがセオリーらしい。

しかしエクスカリバーに触れるだけで大抵の弱いモンスターは消滅してしまうので、襲って来てくれたほうが楽なのであった。

結果的には5体のブラックボアを討伐したが、そのうち2体は力加減を誤り消滅させてしまった。

ブラックボアの額にある角が討伐の目印なので、消滅させずに倒すのに苦労した。


ギルドにて3体分の報酬を受け取った。

その際ギルドの職員には少し驚かれた。普通はD級がブラックボアを討伐できても精々1日に1頭くらいが関の山らしい。本当は5体倒した事は内緒にした。

むしろ玲王からすると、遭遇する方が時間がかかるし、消滅させずに戦うほうが難しいと思ったのであった。

ギルドを後にして約束のクレープ屋のある露店通りに向かった。


*****

露店通りに向かう途中に待ちきれずに女神が姿を現した。

「うーーん!やっぱり外の空気は最高ね!」

「おい、勝手に外に出るな!見られたらどうするんだ」

「大丈夫よ!今は周りに誰もいないし!さ、クレープ食べに行きましょ!!」

「やれやれ……」

マイペースな女神に振り回される玲王


露店通りは沢山のスイーツ屋さんが出店していた。

その中で目に付いたクレープ屋さんに立ち寄る。

「あ!見てみて!色んな味があるわ!!」

楽しそうに眺める女神

「どれでもいいから早く選んでくれ」

「えぇぇ!玲王様優しすぎる!!」

どれにしようか真剣に悩んでいる女神を見て、何故か懐かしい気持ちになる玲王。

女神が店員に声をかけた。

「すみませーーん!全トッピングのクレープ1つください!!」

「はーい!3千円になります!」

(高い……!)

通貨自体はこの世界独自の物だが、単位は日本に合わせているらしくわかりやすい。

しかし全部乗せは高い!

ブラックボアの報酬が3体で3万円に対しクレープで3千円だと……

約束した手前、仕方なく支払いをする。

「毎度ありーー!」

女神は色々なフルーツと山盛りのクリームが入った大きなクレープを受け取ると嬉しそうに眺めていた。

「早く食べたらどうだ」

「嬉しくって目に焼き付けてるの!!」

「……」

いつものように軽くからかってやろうかとも考えたが、素直に喜んでいる女神を見てからかうのをやめた。

女神がクレープに大きくかぶりついた。

初めてのクレープに、食べ方の要領がわからないのか口の周りや鼻にクリームが付いていた。

「んーー!!あまっ!!おいひーー!!」

あまりの美味しさに女神は目を輝かせる。

「玲王も食べてみて!!めっちゃ美味しいよ!!」

マリアはこの感動を共有したく強引に玲王の口元に差し出す。

「ま、待て!そんなことより鼻にクリームが付いてるぞ!!」

今までの人生で女性に食べさせてもらうことなんてなかった玲王は恥ずかしさで必死に話題をすり替えようとする。

あまりにも強引なので仕方なしに一口食べようとしたその時......

「レお兄ちゃん……その女誰……?」

そこには買い物帰りのルナとお婆さんが立っていた。

ルナの目は底の見えない海の様に暗い。

「待て!誤解だ!」

「レお兄ちゃんのやるべきことって、他の女とクレープを食べたりイチャイチャすることだったの?だから私を置いていったの?ねぇ?ねぇ?ねぇ?」

抑揚の無い淡々とした喋り方で玲王を問い詰める。

ルナの目が怖すぎて見れない。何もしていないが何かしたような気持ちになってしまう。

こういうのはしっかりと話せばわかってもらえるはずだ。

「わしと添い寝したのは遊びじゃったの?」

お婆さんも会話に加わってきた。

「婆さん今は黙っていてくれ!マジでややこしくするな!」

「その女だけじゃ飽き足らずおばあちゃんにも手を出したの!?最低だよっ!!」

ルナの目が薄っすらと潤んできている。

「待て待て、そんな話を信じるなっ!!おい、女神お前も何か言ってくれ!」

「はじめまして!私は玲王の女神です。今は身も心も1つになって一緒に冒険をしているわ!!」

間違ってはいないが説明の仕方は大いに間違えている。

「身も心も……?」

ルナは目を見開いて今にも刺してきそうな目で玲王を凝視している。

「おい、クソ女神!誤解を生むような言い方をするな!!」

この場にはバカしかいないようだ……。

とりあえず一旦落ち着かせるしかない。

「ル、ルナもクレープ食べたくないか?」

ジト目で玲王を見つめながら考えているルナ

「…………食べる」

(よ、よかった一旦落ち着いたか?)

「お、おう、好きなのを選んでいいぞ」

「私も全部トッピングにするっ!」

「わ、わかった」

とんだ出費だ。

「婆さんは?」

「わしは甘いものはいらん!お酒がいい!」

「クレープ屋に酒なんか売ってない!」

舌打ちするお婆さんだった。

「はい、全トッピングおまちーー!」

受け取る玲王

「ほら、ルナ」

受け取らずにジッと見つめるルナ

「あーーん、して?そうしたら許してあげる」

それでこの場が収まるのならと、仕方なく食べさせてあげる玲王

「一口だけだぞ」

「んんーー!!おいひぃーー!」

さっきとは打って変わって上機嫌になるルナ

「ふぅ」

場が収まったようで一安心する。

「レお兄ちゃん、その女の人のことちゃんと説明してくれるよね?」

まだ全然収まっていなかった。

「わかった。ここじゃなんだしあとで家に行くからそこで説明する。」

説明すればわかってくれるだろう。

話が長くなるので家で話すことにした。

「絶対だよっ!!」

「あぁ、一旦宿に荷物を取ってから行く」

そう言ってルナ達と別れ、宿に向かって歩いていた。

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