第10話 トカゲのしっぽ

そんなやり取りをしていると、後ろから声をかけられた。

「神宮寺玲王様、数々のご無礼を働いたこと誠に申し訳ございません。」

驚いて後ろを振り返るとそこには黒いタキシードにマントが付いた服装の男が深くお辞儀をしていた。

気配がなく全く気づかなかった事に驚く玲王


客席がざわつく

「ワタクシは聖剣騎士団の枢機卿を務めさせていただいていますオネイロスと申します」

そう言いながら男は顔を上げた。

目元には仮面を着けており顔は伺えない。

「そんなお偉いさんがわざわざなんの用だ」

何故俺の名前を知っている?どこかで見ていたのか?

警戒し構える玲王

「貴方と事を構えるつもりは毛頭ございません」

口調が丁寧ではあるが、かなりの余裕が伺える。

「本日こちらに伺ったのは、セイントナイツにあるまじき行為が発覚したからであります。サイクスは自分の地位を使い、本来ならば我々が守る立場にある民から金を搾取したり、気に食わないものを処刑していたとの情報が入ったのです。ですので枢機卿であるワタクシ自らがサイクスを処罰しに来た次第でございます」

女神が話しかけてくる。

(めっちゃ怪しい人来たんですけど!?)

(間違いなく裏があるな)

「ワタクシが駆けつけるのが遅くなったせいで玲王様には大変ご迷惑をお掛けしました。聖剣王に変わりワタクシが謝罪をさせていただきます。」

(絶対にタイミング見計らってきたよね!?)

(見てただろうな)

「只今を持ってサイクスはセイントナイツ及び聖剣騎士団から除名とします。また悪事に加担をしていた者もワタクシ直々に処分させていただければと存じます」

玲王に向かってまた深々と頭を下げるオネイロス

まるでサイクスの悪事は独断で、聖剣騎士団は悪くないと主張をしにきたようにしか見えない

だがそんな事を言い合った所で証拠も無いし水掛け論にしかならないだろう。

聖剣騎士団が悪事を働かなくなるのであれば悪いことではない。

「わかった」

そう一言だけつぶやく玲王。

「貴方様の寛大なお心に感謝いたします。どうぞ今後とも友好な関係を築いていけたらと存じます。」

そう言いまた深々と頭を下げた。


「玲王さーん!」

後ろを振り返ると闘技場の出入り口に、ハンスさんとお婆さん叔母さんが立っていた。

「無事だったか」

みんな少し汚れていたり目に隈があるが大事はなさそうであった。

ハンスさんは抵抗したのか殴られたような跡があり服も少し破けていた。

「私は最後まで玲王さんについての情報は漏らしませんでした!」

だから殴られたのか。

「巻き込んでしまって悪かった」

玲王が謝る

「何言ってんだい!悪いのは全部あいつらだよ!」

お婆さんが気を使ってくれたのか玲王を励ます。


枢機卿オネイロスがまた家族達に向けて深くお辞儀をする。

「すぐに帰りの手配と今回ご迷惑をお掛けしたお詫びとして謝礼をお渡しさせていただきます。」

「こういう事はもう二度とごめんだよっ!」

お婆さんの一言で家族も納得した。


宿にルナを迎えに行くと、無事に帰ってきた玲王に全力で抱きついてきたルナであった。


後日、お婆さんの家の壊れた家具や服は全て新調されていた。それでも余りあるお金をもらったということで、お婆さんは高そうなお酒をいくつも買っていたようだった。


夜にみんなでパーティーをしようと誘われ、それまでは宿で1人休憩する事にした玲王。

1人でこういう時間を過ごすのが妙に久々な気がした。

「お疲れ様!」

「あぁ」

横を見ると女神が立っていた。

「えっ!?!?!?」

流石に驚く玲王

「ジャーーン!サイクスを倒したらすっごくレベルが上がったから、実体化出来るようになったのっ!!」

そう言いながら嬉しそうに自分の身体を懐かしむ女神

「これでやっとトイレも覗かれずに済みそうだ」

「まだ2~3時間くらいだけなの……」

「は?」

「実体化には凄く力を使うから2~3時間くらいしか出来ないのーー!!」

「そのまま消えてくれ!!」

「絶対に無理ぃぃーー!!入らせてーーー!!」

左目を押さえて絶対に入らせないようにする玲王

玲王の腕を掴んで絶対に入ろうとする女神

かなりの死闘が繰り広げられたのであった。

「隙ありっ!!」

なんとか隙間を見つけて入る女神。

「もうここは私のプライベートルームなんだからね!!」

「勝手に部屋にするなっ!!」

「あ、ポスターとか貼ってもいい?」

「おい!!人の目の中で何してるんだ!!」

「あ、電波が!……プツンッ!」

電話が切れるようなモノマネをする女神

「おい!おい!!」

返事が無くなった。

「あいつマジかよ……。」

当分1人の時間はありそうにない玲王であった。

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