第9話 静かなる怒り

聖剣騎士団の正門近くまで来た玲王

「ちょっとどうするつもり!?」

女神が話しかけてきた。

「普通に話をするだけだ。」

「普通って…!絶対に無理でしょ…!忍び込んだりした方が良くないっ!?」

「それだとやましい事をしたと認めるようなものだ。」

「なるほど、わかったわ!でも相手はDTで魔法使い達よ!十分に気を付けてね…!」

「あぁ。」


正門に居た兵士に話しかける玲王。

「あ、あのぅ…」

(めちゃめちゃ人見知りだったぁーーー!普段クールな分めっちゃダサいやーーつ!!!)

思わず心のなかでツッコむ女神

「誰だ貴様!」

兵士はかなり態度がデカい。

「昨日連れ去った家族を返してもらう。」

「貴様はもしかしてハジコ村の…!まさか正面から来るとはな!フンッ、貴様をサイクス様がお待ちだ。」

中に案内され、正面の一番大きい建物に案内された。

中は宮殿のように豪華で、天井はかなり高く3階分はあろうかという広さだった。

それに装飾は黄金で輝いており、かなり高価そうな内装である。

部屋の奥には少し階段があり目線よりも高い位置に玉座のような大きい椅子があり、そこには人が座っていた。

「お連れしましたっ!」

「ようこそ、我が名はサイクス。セイントナイツ序列6位だ。」

(かなりドヤ顔をしていて正直ウザい。しかもサイクスってなんだよ。元は日本人だろうが。どっぷり世界観にハマってるのがめっちゃキモい。しかも高いところから見下ろしてるのがキモい。)

「貴様、名は?」

(言い方もなんかキモい)

「玲王だ。」

「ほぅ、貴様は大罪を冒した。」

「なんのことだ?」

「我らの神聖なエクスカリバーを語った偽物めが」

「理由がわからん」

「コイツから情報は聞いている。」

椅子の影からハシコ村でボコボコにした火の魔法使いが出てきた。

「あのときは良くもやってくれたな!!俺様のイケメンがパンパンに腫れてやがる!!」

(DTの恨みはマジで怖い)

「エクスカリバーは聖剣王様に認められた者のみが使うことを許された聖剣であるぞ。偽物を名乗るとは我々聖剣騎士団の冒涜に他ならないぃぃ!!!」

(急にキレだしてめっちゃ怖いんだが。)

「貴様には消えてもらう!お、良いことを思いついた。貴様は我が兵達の見せしめにしてなぶり殺してやろう!」

「話の通じないサイコ野郎だな。」

「その余裕もいつまで持つかなぁ?この世界に来たやつはみんな自意識過剰になるんだよなー!そういうやつを制裁するのが一番気持ちいいのさ!!」

(これがやつの本性か)

パチンッ

サイクスが指を鳴らしながら言う。

「転移コロッセウム」

すると玲王の足元に魔法陣が現れる。

「!?」

瞬きをした瞬間には闘技場の真ん中にいた。

周りには満員の兵士が観客席に立っていた。

「聖剣を語る偽物ーー!」

「犯罪者!!」

「腐れDT!!」

何もしていないのに物凄い野次を飛ばされる。


空中にサイクスが現れる。

手には黄金の光り輝く片手剣が握られている。

装飾には宝石が使われており、太陽の光が剣に反射してキラキラと光り輝いている。

現れた瞬間に客席にいる兵士達からは感嘆の声が漏れる。

そして静寂の中、サイクスが話し出す。

「この者は我々聖剣騎士団を侮辱したっ!!」

「ワァーーーーーーーーーーー!!」

兵士達が呼応して声を上げる。

「エクスカリバーを語る犯罪者は今日、この場を持って神の裁きを下す!!!」

「ワァーーーーーーーーーーーー!!」

あまりにも横暴な話に玲王も我慢の限界に達する。

「お前は自分の利権の為に今までもこうやって都合の悪いやつを、犯罪者扱いして殺してきたのか?」

「我々はこの世界の秩序を守っているだけさ!!」

「何を言っても無駄か。」

(こいつはもう救えない。悪いことをしている自覚がないやつは何を言っても無駄だ。)

「粛清っ!粛清っ!粛清っ!」

客席から粛清コールが響き渡る。

「では貴様には悪いが我々の為に死んでもらうっ!!!」

そう言うと指を鳴らして消えた。

周りを見渡たす玲王。

「こっちだっ!」

背後から現れたサイクスが剣を振るう。

「わざわざ攻撃する前に声をかけるなよ。」

そう言って避ける玲王

「早く死なれてもつまらんからなぁ!」

そういってまた指を鳴らして消えるサイクス

流石は聖剣騎士団のトップにいるだけの事はある。

性格は糞でも転移魔法はかなり強い。

「どうしたどうした?逃げ回ってばかりじゃないか!」

こういう時は無闇に手札を見せてはいけない。

とは言っても俺の手札はエクスカリバーとディスペル、後は習っていた格闘技くらいか…。

決め手になるのはエクスカリバーだか、こうも転移されては狙いが定まらない。

この間にも的確に死角を突いて攻撃してくるサイクス。

「逃げ回ってばかりの臆病者が!どうせ転生前も臆病者だったんだろうなぁー!」

サイクスがニヤニヤとしながら鼻で笑う。

観客席もゲラゲラと笑う。

後ろに走りだす玲王

「怖気付いて逃げ出したか!」

サイクスや観客席が笑っている。

壁を背にした玲王

「もう逃場は無いがどうするー?」

笑いながら歩いて追い詰めるサイクス

観客席も最高潮に盛り上がる

「殺せー!やっちまえー!!」

「サイクス様最高!!」

サイクスが剣を振り上げる。

その瞬間

「ディスペル」

玲王の魔法が炸裂する。

サイクスの体が光に包まれた。

しかし何も変化はなく驚くサイクス

「ビックリさせおって!!大人しく死ねぇ!!」

「死ぬのはお前だ。……エクスカリバー」

玲王の両手が光り輝く

ざわつく場内

両手にはメリケンサックが光り輝いていた。

「エクスカリバーだっつてんじゃん!!普通は剣を出すでしょ!!」

女神が頭の中でツッコむ。


玲王はサイクスの懐に飛び込み構える。

「フッ、何かと思えば!転移!あれ?!転移!転移!!」

ディスペルの効果で魔法が使えなくなり焦るサイクス

その隙を見逃さない。

強烈なボディーブロー

(ドゴォォー)

鈍い音が場内に響き渡る。

「おぇぇぇぇぇぇ」

ゲロを吐き散らしうずくまるサイクス

静まり返る観客席

「我々に楯突いてタダで済むと思うなよ……!」

睨みつけるサイクス

「本当に救えないやつだ」

呆れ果てる玲王

この世で一番タチの悪いものは、自分が正義だと思っている人間だ。何を言っても正当化し話し合いにすらならない。

「き、貴様は必ず殺してやる!あの家族諸共な……!!」

それは玲王を怒らせるのに十分な一言であった。

「俺のことはいい。だが俺に優しくしてくれた人達に危害を加えるというのなら容赦しない。」

「だったらなんだ!?俺を殺すのか!?」

「そんなことはしない。だか…もしかしたら死よりも辛いかもな」

そういってサイクスの顔に手を当てた

「ディスペル」

光りに包まれるサイクス

「うわぁぁぁぁぁぁぁあ、な、何をしやがった!!」

客席からどよめきが起こる。

挙げ句には悲鳴まで聞こえる。

まさに兵士たちは戦々恐々としていた。

サイクスは何が起きたのか理解していない。

「お前の自慢の剣で顔を見てみろ」

光り輝く剣は鏡のようにサイクスの顔を写した。

「ぎゃぁあああああああああああああああああ」

イケメンだった顔が、前世のDTだった頃の顔に戻っていたのだ。

「あぁぁあぁああああああ」

駄々っ子のようにうずくまって泣きじゃくるサイクス

「もう悪いとこはしませんから許してくださいぃぃぃ」

あまりにも哀れだ。

後悔先に立たず。因果応報、自業自得。その全てを体現されていた。

「俺の人生が目茶苦茶だ……!よくもやってくれたな!!」

「お前は今まで他人の命をどれだけ奪ったんだ?自分の地位を守る為にどれだけの汚い事をした?いくら容姿が良くなろうが魔法が使えようが、根が腐ってれば意味はない。むしろ周りを腐らせるだけタチが悪い。」

「黙れ!黙れ黙れ!!!俺に説教すんじゃねぇよ……!!」

最後まで非を認めないサイクス。


玲王と女神が頭の中で会話する。

(おい、女神。こいつから魔法を消し去ることはできるのか?)

(ええ、元は私の魔法の一部だから回収できるわ)

(では回収してくれ)

(わかったわ、サイクスに手をかざして)

手をかざす玲王

「な、何をする気だ……!」

怯えるサイクス

かざした手が光りだす。

するとサイクスの体から光の玉が浮かび上がる。

そしてその光の玉は玲王の左目に宿った。

(これでサイクスはもう魔法が使えないわ)

「お前はもう魔法も使えない。これに懲りたら悪いことは二度とするな」

全てを失ったサイクスが放心状態でへたり込む。

「……もう殺してくれ」

そこに兵士達が数名降りてきた。

「サイクス様!」

「おい、安全なところにお連れしろ……!」

肩を抱き運ぼうとする兵士達

こんなやつだったが、慕ってくれる人はいたのだろう。

「待て、サイクス」

呼び止める玲王

力無く反応し耳だけを傾けるサイクス

「お前が改心した頃にまた来る。もし改心していたのなら元の姿に戻してもらえるように女神に頼んでやる」

「うぅぅぅ…」

返事はせずに泣き声を押し殺しながらまた歩き出すサイクス。

サイクスの光り輝く黄金の剣を回収に来た兵士を呼び止める玲王。

「ルナの家族はどこだ」

「は、はい!地下の牢獄に幽閉されております……。すぐに連れて参りますのでお待ち下さい!!」

サイクスがやられて、兵士達も従順になったようだ。

玲王は観客席で呆然としている兵士達を見渡して叫んだ。

「お前達、よく聞け!!」

「ハイッッッ!!!!」

一斉に返事をする観客席の兵士達

先程まで野次を飛ばしていた観客達に戦慄が走る。

「俺の周りの人達に危害を加えてみろ。どうなるかわかっているな?」

冷静に淡々と話す玲王が逆に恐怖心を煽る。

理想の容姿や魔法を与えられた転生者にとって、その全てを奪われるということは死よりも苦しいものだと理解しているようだ。

「ハイッッッ!!!!」

最早、頷く以外に何も出来ない兵士達


女神が頭の中で話しかける

(よくこの大勢の前で緊張しないわね)

(親父の命令で社員5万人に向けてスピーチとかやらされたからな)

(へぇーー、でもさっきの門番に話しかけるのには緊張してましたよね?)

照れて耳が赤くなる玲王

(か、会話は苦手なんだよ……)

(意外と照れ屋さんなんだねぇ)

女神がニヤニヤしているのがムカつく

(帰ったら絶対に眼帯を買うからな!)

(いやぁーー、ウソウソ!ごめんなさぁい!!)

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