第6話 家族の温もり

ドミール街に着いたのは夕暮れ時だった。街に入ると大通りの露天エリアは人で溢れていた。

流石に寝起きでここを通りたくはない気分ではあったが、幸いにもルナの親族の家は端の方にあったので大通りを避けて歩くことが出来た。

先程とは一転して、裏路地は逆に寂しささえも覚えるほど静かであった。

入口から程なくしてルナの親戚の家に着いた。

ルナが扉を開けてお婆さんを呼んだ。

「おーい!おばあちゃんいるー??」

中からは60〜70歳くらいのお婆さんが姿を表した

「おや、ルナじゃないか!元気だったかい?」

ルナを見て笑顔で話しかけるお婆さん

「うん!!今日は泊めてもらいにきたの!!」

「おぉ、お父さんは一緒じゃないのかい?」

「うん!玲王お兄ちゃんに連れてきてもらったの!!」

後ろにいた玲王を自慢気に紹介するルナ

「あらあら、ハンサムなお兄さんだねぇー!」

「えへへっー!」

何故かルナが得意げにしている。

「そうだ、お礼も兼ねて丁度ご飯を作ってる所だから食べていきな!」

「いや、俺は大丈…」

「もう出来るからとっとと入りな!」

強引に手を引かれる玲王

意外と押しに弱い所がある玲王であった。


家の中にはお婆さんの他に、ルナの母親の姉が料理をしていた。ルナの叔母に当たる人だ。だか見た目は30歳ほどに見えるので叔母さんと言うには少し躊躇いが残る。

叔母さんは玲王を見るとお婆さんと同じようなリアクションをした。

「あらあらあら!凄いハンサムを見つけてきたわねー!ルナも隅に置けない年頃かー!」

マイペースな所がルナとも良く似ているように感じた。

叔母さんはテキパキと料理を作ってはテーブルに並べてくれた。どうやらかなりの家事スキルを持っているらしい。

そしてお婆さんはその間にお酒を準備しだした。

「ほら、あんたも飲めるだろ?」

「いや、俺は遠慮しておく」

玲王も勧められたが断った。

しかしお婆さんもしつこかった。

「もう余命幾ばくかのこの老いぼれの頼み!最後の思い出として、ハンサムな男の人と一緒に飲ませておくれ……」

悲しげな顔をするお婆さん

「わかった、一杯だけいただこう」

仕方なく玲王は一杯だけ付き合うことになった。

「ヒャッヒャッーー!ええのぅ!若くてお肌がプルンプルンじゃわい!」

程なくご飯が出揃った。

お婆さんはお酒が入りかなりテンションが高かった。

「こんなハンサムひっさしぶりに見たわー、

私があと40歳若ければのー!ルナには勿体ないのー!ヒッヒッヒッ」

「もうやだおばあちゃんったら!」

照れるルナ

無言の玲王

「そうだルナ、ママの体調はどうなの?」

妹の心配をする叔母さん

「まだ村の病院で入院してるよ!ちょっとずつ元気にはなってきたみたい!私の薬草のお陰だってママは言ってたよ!!」

どうやら森に薬草を取りに行ってたのは母親が理由だったようだ。

その後、玲王はお婆さんが酔い潰れて寝るまで絡まれた。それを見て笑うルナと叔母さん。


その晩はなんだかんだで割と楽しかった。

こんな風に喋りながらみんなで食事をするのは何年振りだろう。

ふと昔の記憶が蘇ってきた。

そういやいつも親父に言われて会社の事ばかりに追われていたな。

親父と会う時は会社の進捗報告ばかりで家族らしい会話をした覚えがない。子どもの頃は何故あまり家に帰ってこないのか、家族の事が大事じゃないのかと恨んだ時期もあった。

だが今ならわかる。親父は神宮寺グループのトップでその下には5万人の社員を抱えていた。

その人達の生活を守るというプレッシャーは想像を絶する事だろう。

母親は唯一俺に優しくしてくれた。俺がネジ曲がらずに大人になれたのは母親のお陰と言えるだろう。

お婆さんに半ば無理やり飲まされた一杯のお酒で、どうやらセンチメンタルな気持ちになったようだ。


その夜は好意に甘え泊まることになった。


客間で横になっている玲王

「もしもーし、女神でーす!朝は途中までしか喋れなかったからずっーーと空気読んで待ってたんだよ?」

「はぁ、やれやれ」

最早怒ることにも疲れた玲王はこの状況を受け入れ始めている。

「いつも迷惑かけて本当にごめんね。あともう少しレベルが上がると私も出来ることが増えるの!そうしたらもっと役にも立てるし、サポートも出来るようになると思うのっ!」

「少しは悪いとか思ってるんだな。わかった、明日からはもう少し動いてみるよ。」

そう言いつつ眠りに落ちていく玲王であった。

ルナの家族の優しさに触れた玲王は、感化されたのか少し優しくなっていた。

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