#8

 ドラゴンは目が見えないこともあって大暴れ。爪や尻尾を振り回しブレスも短めに放ってくるが、どれも見当違いな咆哮に放っていることもあり全て回避。たださすがに洞窟の崩落が危険だ。岩肌が削れ、大きな落石をかわすのに注意を削がれる。その上、ドラゴンが地団太を踏むように地面をドンドンするものだから、揺れに足を取られそうになる。


「うわっ!?」

「晴日、危ない!」


 たたらを踏む私の頭上に大きな岩、慌てて回避したせいで転びかけた私を雨月が支えてくれる。


「ありがとう」

「気にしないで。それより、弱点はやっぱり首だね……」

「でも、包丁じゃ届かないか。ドラゴンキラーが元の姿に戻れれば……」


 かつて折れてしまったドラゴンキラーを打ち直したのがこの包丁、打ち直しでそのくらいサイズが変わったかまでは分からないけれど、剣だった頃ならドラゴンの首を落とすこともできたのだろう。


「グルルルルゥウウウッ!!」


 ドラゴンは喉の奥底から絞り出すような声で吠える。手負いの獣は危険だって言うけれど、ドラゴンも当てはまるのだろうか。これがゲームなら残りHPとか見られるんだけど、こっちにはそんなチートはない。


「エレノア、時間操作とかできないの?」

「そんな高度な魔法は無理ですよ!!」


 戦闘開始直後は頼れるお姉さん感マシマシだったエレノアも、支援魔法をかけ終わった後はひたすら自分の身を守るのに精一杯って感じで、なんだか可愛くも思えてくる。まぁ、こんな化け物相手によく一緒に来てくれたとは思うし、感謝もしてるけど。

 とはいえ時間を巻き戻せないのならこの包丁をドラゴンキラー本来の姿にするというのは無理っぽい。となれば……。私は頼りになる半身にこの状況を打開する策がないか尋ねる。


「この状況、雨月ならどうする!?」

「こういうのは、どう!!」


 そう言って雨月は包丁から光り輝く刃を打ち出した。


「え……!? なんか出たんだけど!!」


 どうやら近接攻撃ばかりの私と違って雨月はマジカルな技を体得したらしい。私も包丁にぐっと力を籠めるが……


「ちょっと伸びた……だと?」


 三徳包丁サイズだったものが、光をまとった牛刀のような形になった。振り下ろしても光は包丁にまとわりついたままで、雨月と違ってこれを放出するのではなく斬りつけて使うタイプらしい。暴れるドラゴンの尻尾をかいくぐって脚を斬りつけると、これまでより深々と切り裂けたように思えた。


「それだよ晴日!! もっと大きくして首を落とすんだ!!」


 光の刃を飛ばしながら雨月が珍しく大きな声を出す。言われて私は包丁にもっともっと力を籠めるが、うまく包丁の形を維持できない。頑張っても中華包丁みたいな刃の厚みが増していくだけで、刺身包丁のような刃渡りが伸びていかないのだ。


「ハルヒ、危ないです!」


 包丁に意識をもっていかれすぎて、ドラゴンの尻尾に気付くのが遅れた。幅広になった包丁の刃でなんとか受け止める。剣としてより盾として活躍させてしまった形だ。


「エレノア、晴日の魔力操作を手伝いたい! どうしたらいい!?」

「私だってなんでも知ってるわけじゃないんですけど!! ……えっと、あ! 粘膜接触です!!」

「もっと分かりやすく!!」


 ドラゴンが地面をズシンズシンするせいで大声じゃないと会話が成立しない。


「もう!! キースー!!」

「「キスゥ!?」」


 私と雨月のハモリが洞窟内にこだました。

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