第4話
俺の学校生活というものは、順風満帆ではなかったけれど、それなりに満足していた。友達だって居たし、好きなことを学ぶというのはとても楽しかった。ただ、それだけで十分だったはずなんだ。
確か、あれは入学して2ヶ月が経とうとした時。明るくて、面白い女の子が俺に言ったんだ。「私、あの人が嫌いなんだ」って。あの人っていうのは、その女の子と俺と駅まで一緒に帰っていた男の子。俺自身がコミュ障だったのもあって、当時喋るほど仲が良かったのはその二人と、もう一人の女の子(結局、その子もそいつのことが嫌いだった)くらいだった。けれど、なんとなく分かってはいた。その女の子……Aさんとしよう。
「別に隠す必要なくない?」
「……」
女の子の名前は遥っていうんだけれど、遥はそいつの遊びの誘いには絶対に乗っからなかったし、どこか距離があるように感じていたんだ。だから、言うほど衝撃ではなかった。ああ、やっぱりそうなんだって思っただけ。
それから、俺たちはそいつから離れて別の人と絡むようになった。今にして思えば、正しい選択だったと思う。実際にそいつはヤバい奴だったし、そんな面を見て俺も段々と嫌いになっていった。先の件で見方が変わってしまったのかは知らない。でも、きっかけの一つにすぎないと思う。多分、時が経てば自然と嫌いになってたんじゃないかな。
次は秋くらいの頃。その時期はさっきの二人の女の子を含め、新しく三人の男子、遥斗、彰久、海斗を加えた六人でよく絡んでいた。特に男子とはよく一緒にゲームをしたり、どこかに出掛けたりするくらいの仲で、関係はとても良好だったと思う。もちろん、人間だから苦手に思う部分もあった。例えば、彰久はすごくよく話すしうるさい陽キャというやつ。でも、根は良い奴なのであまり気にしなかった。海斗はいろいろ頼りになるし、面白い奴。けれど人を見下すような発言も少なくなかった。そういう面はどうしても好きになれなかった。むしろ嫌いだ。そういえば、その時期は遥斗とは二人で話すことはあまりなかった。席が離れていたのと、お互いに人見知りしていたとかもあるんだろう。遥斗と話す時はあと一人誰かを交えることばかりだった。今は二人で出かけるぐらいの仲なんだけどね。
そんな感じで何がきっかけでそうなったのかはよく覚えていないけど、遥ともう一人の女の子、あと遥斗と放課後に回転寿司へ行った日があった。なんでだっけ。とにかく、その時だった。三人から彰久と海斗の話を打ち明けられたのは。彰久は女の子が大好きで、よく平気でセクハラ紛いなことをするやつだった。中学ぐらいから成長していないのかもしれない。そんな時、俺はどうしてたんだっけ。ただ、傍から見ていたり、笑っていただけだった気がする。いや、そうだった。間違いない。本当に最低だ。あの時、少しでも止められれば遥が傷つくことは無かったかもしれない。そんなことがあった訳だから当然、遥は彰久のことが嫌いだ。その時の俺はそんなこと知らなかったわけだけれど。次に海斗。こいつは端的に言えば思ったことを隠さない奴なんだ。だから、遥や遥斗なんかに平気で暴言を吐いたことだってある。笑いながら。二人の話だと、俺が知っていることよりもひどいことを言われたんだと。その話を聞いて、俺は印象通りの男だったんだと海斗を嫌った。その感情は今でも変わらない。
おそらく、その時からだ。俺は、嫌われた方にも、嫌った方にも不信感を抱いた。……いや、訂正させてくれ。やっぱり嘘だ。嫌われた方と、自分自身に不信感を抱いたんだ。俺も、あいつらみたいに嫌われてるんじゃないか?って。他人の心情を理解することは出来ない。だから、不安でたまらなかった。
だってそうだろう?カエル化だのなんだの言って、本当になんてことの無いたった一つの行動で愛が冷める人達がいるくらいだ。人を嫌いになる要素がどこにあるかなんて分からない。もしかしたら、自分の直しようのない癖とかかもしれない。既に嫌われている可能性だって無いなんて言いきれないんだ。不信感が募り、それは俺の心を黒く染め始めた。
ともかく、彰久と海斗は嫌われるに値することをしでかした。そうなれば信頼は地に堕ちる。火を見るより明らかだ。それ以来、彰久との関係はあまり変わらなかったけれど、海斗とは少し距離を置いた。具体的には自分から話しかけることは減った。
次に話を聞いたのは確か……そうだ、冬だったかな。クリスマスに遥と遥斗が付き合い始めて、それから少しの間遊ぶことは無くなって。久しぶりに四人で集まったんだっけ。その日はいろんなところに行ったんだ。そして、遥が海斗にいじめ紛いのことをされていると知った。その時のショックは大きかった。まさか、そこまでするような奴だとは思っていなかったから。そして、それに気がつけなかった自分にムカついた。
でも、こうも思った。俺には相談してくれなかったんだって。少しガッカリしたというか、寂しかったというか。なんかそんなモヤモヤした感情が胸中にあった。頭の中で理解はしていた。俺なんかよりも頼りになる人は沢山いる。だから、当たり前のことだって。でも、四人の中で俺だけが知らなかったのにはすごく疎外感を感じたんだ。また、不信感が募った。
その頃になると、俺は遥斗の高校や中学の頃の友達とも一緒に遊んでいた。とても良い人達だったし、遥斗の過去を知れたのも良かった。けれど、何故か次に現れたのは羨望と嫉妬。自分でもよく分からない。だけど、抑えられないんだよ。高校まではこんなこと無かったのに。なんでなんだろう。
それらがさらに酷くなったのは春休みの頃から。別に何かがあったわけじゃない。ただ、小さな思いつきとか、理由がなかったりもする。でも、一人の時、ふと脳裏に過ぎるんだ。あの人は俺の事を嫌いなんだろうって。そうして、妄想でその人の俺を嫌う理由が積み上がっていく。忘れられるのは、人と遊んでいる時くらい。酷いと、そんな楽しい時間ですら侵食してくる日がある。
俺はこんな自分が大嫌いだ。
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