第57話 キレキレSide その2

「消えたままじゃわからなかったですよね」


「な、な、なっ・・・」


 驚きのあまり言葉が続かない。

 たかしは、思わずその場で尻もちをついてしまう。


 だが、相手はとくに気にしていない様子で。


「突然、姿を見せることになってすみません。でも、これでおあいことさせてください。さっきはやられてちょっと驚きましたから」


「て、てめえ・・・! どうしてここに!?」


「スタイルを暗殺者アサシンに変えたんです」


「暗殺者だぁ・・・?」


 言っている意味がわからない。

 

(スタイルを変えた、だって?)


 エデンが冷静であることもあいまって、たかしはますます混乱する。


「また槍士ランサーにチェンジしましたけど。もともと僕のスタイルは暗殺者って言って姿が見えなくなるんですよ。このスタイルは透明化するんです」


「は、はぁ? 透明・・・?」


「だから、さっきの罠もノーダメージで通過できました」


 エデンが口にする言葉の意味は飲み込めないながらも。

 ひそかに悪知恵は働き続けていた。


 それをどう利用してやるのかも。


 たった数秒のやり取りの中で道筋を見つける。


 これこそが。

 たかしが迷惑系ダンチューバーとして名を馳せてきた所以でもあった。


「それじゃ、先を急ぎますので。このあたりで失礼します」


 相手が一礼するのを確認すると。


 ガシッ。


 たかしはエデンの腕を掴んでいた。


「待てよ」


「はい?」


「もう少し説明してくれたっていいだろ? あんた、スタイルを変えたって言ったよな? どうやったんだ?」


 一瞬、エデンは目を細める。


 すでに一度騙されているのだ。

 警戒して当然の状況だったが。


 あっさりと手のうちを明かす。


 その素直さがあるから甘いんだよ、とたかしは内心ほくそ笑んだ。




 ◇◇◇




「ある力を使ったんです。リライトって呼んでまして、物質や事象を書き換えることができるんですよ。アニメやラノベで登場するスキルみたいなものですね」


「リライト・・・」


 スキル、ギフト、天賦、異能、特殊能力。


 言い方はさまざまある。

 端的に言えば、その者だけにしか使えない特別な力のことで。


 たかしにはわかっていた。


 これまで数多くの探索者を見てきたが、そのような力が使える者などひとりとして存在しなかったことに。


 ダンジョンに潜った探索者は遺物キューブを使うことでしか、自らの力を発揮することができない。

 キューブに依存しており、とても限定的なのだ。


 だが。

 エデンの口ぶりだと、彼の特別な力――リライトは、キューブを介する必要がない。


 まったく異なるベクトルの力を有していることになる。

 

(んだよ。ただのズルじゃねーか)


 ダンジョンやエネミー、魔法や召喚獣なんていう非現実なものがこの世界に存在しているのだ。

 今更、異なるベクトルの力を有した探索者が現れても驚きはない。


 問題は・・・。


「なあ。悪りぃんだけど、ちょっとだけ見せてくんない?」


「また透明になればいいんでしょうか?」


「いやいや。それはもう見たし。ほかにもなんかできんだろ?」


「はい。できます」


「それ見たらさ。国崎君の前には二度と現れねぇーから。な? めったに見られるもんでもねーんだし。たのむよ~」


「では、そういうことでしたら一度だけ」


 亜空間からホルダーを呼び出して展開すると。

 エデンはストックされたジェムをひとつ取り出す。


 それを手にかざして。


「我が手に託されしは叡智の神儀。星辰せいしんの輝きを超越する軌跡で、再構築の糸を紡ぎ与えん――リライト」


 キィン!


 ジェムが光とともに変化し。

 それはまったくべつのジェムに書き換わった。


(おいおい、マジかよ!? ジェムを変化させただとぉ・・・!?)


 信じられないことだったが。

 目の前で目撃したたかしにとっては信じざるを得ない状況だ。


「これでどうでしょう?」


「・・・」

 

 ふつうなら拍手でも送って、その力を称えるようなところだったが。


 すぐに口元をニヤリとさせるたかし。

 これは利用できると、頭をすぐに切り替える。


 すばやくエデンの腕を掴むと。

 たかしは高らかにこう宣言した。 


「はーい。現行犯逮捕ー!」

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