第81話 ライセンス試験・前哨戦 Ⅲ

「さて。そろそろはじめよう」


 冷酷にも。

 ユイさんがそう呟く。


 どうやら準備する暇も与えてくれなそうだ。

 

 一瞬の隙を見て。

 隣りの星宮さんに小声で話しかける。


「(あいつらは僕が倒します)」


「(えっ)」


「(これはクリアできないように設定された戦いです。ユイさんは、最初から僕らに勝たせるつもりはないんですよ)」


「(でも・・・。それだと国崎は・・・)」 


「(ひとつ考えがありますんで、大丈夫です。ここはどうか任せてください)」


 もう話してる余裕もなさそう。


 強引に前に出ると。

 僕は二体の召喚獣と対峙した。



「ゴアァァシャァァァーー!!」「グォッグゥワァグォォォォッーー!!」



 まさか召喚獣と戦うことになるなんてね。


 しかも。

 相手は最強と謳われる二体の召喚獣。


 終末獣オプスキュリテは、冥界を守る門番の異名が付けられてて。

 七つの獣頭を持ち、各頭は吠えるたびに火を噴くって言われてる。


 ギロッとした赤い眼と。

 黒い毛並みの強靭な体躯がなんとも恐ろしい。


 当然、鋭い爪と牙による攻撃も警戒しなくちゃいけない。


 対する究極魔甲ゼウスギガは、筋骨隆々とした巨人のような姿をしてた。


 邪悪な力で強化された鎧を身にまとってて。

 巨大な魔剣と暗黒の盾を所持してる。

 

 知恵と勇気を兼ね備え、厳格さも併せ持つ強敵だ。


 LV1じゃどう逆立ちしたって勝てない。




「星宮さんはどうしたのかな?」


「僕ひとりで相手します。ユイさん、言いましたよね? これは試験前の腕試しだって。本番じゃないなら、僕がひとりで相手したっていいはずです」


「なるほど。たしかに理論は間違ってないか。それじゃ、星宮さんには、あとでべつの試練を与えるとして」


 そこでユイさんが目を細める。

 思わずゾッとするような、感情が欠落したような瞳だった。


「二体とも引き下げるつもりはないけど。それでもいいのかい?」


「はい、問題ありません。僕が二体倒します」


「・・・」


 一瞬、なにか考える素振りを見せるユイさん。


 僕があまりにも無謀なことを平然と言ってのけるから。

 少し混乱したのかもしれない。


 やがて。


「そこまで言うなら倒してみるといい。その代わり、残念だけど手加減はできない。もし、恩赦を望んでるのなら期待しないでね」


「大丈夫です。そういうのはまったく考えてませんので。ユイさんもそのつもりはないですよね?」


「ふふ。国崎くん。きみはなかなか面白い。わかった。全力でやらせてもらうよ」


 どうやら。

 それが分け目となったみたい。


 腕を振り上げると。

 ユイさんが連続で号令を唱えた。


「召喚技――百煉双式インフィニティクロス! 続けて、召喚技――転瞬の定軌スパイラルゲート!」


 その刹那。



 ズガァァァーー!! ズァギャァァーーー!!



 終末獣オプスキュリテと究極魔甲ゼウスギガから攻撃が繰り出される。


「国崎っ!?」


 星宮さんの声を背中で聞きながら。

 ひとまず、初手を回避して。


(よっと)


 当然、今の僕はLV1だから。

 一撃でも食らったらその時点で死は免れない。


 でも。

 

 僕は焦りをまったく感じてなかった。


(こんなこともあろうかと、準備しておいたんだよね)


 実はこのフロアへとやって来る前に。


 隠し持っていた遺物キューブから排出したジェムを。

 あるジェムにリライトしてたんだ。

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