第78話 昼休み






 そのとき。


「――っと、時間が来たみたいだね」


 チャイムに合わせてユイさんが教材を閉じる。

 

(11時45分か)


 もうそんな経ったんだ。

 途中で15分の小休憩を挟んで、計2時間2コマ分。


 集中して聞いてたから、時間があっという間に過ぎちゃってたよ。


 それは、隣りに座る星宮さんも同じだったみたいで。

 

 まだ聞き足りなそうに講義台のユイさんに視線を向けてた。


 それだけ。

 ユイさんの教え方が上手かったんだろうな。

 

「では、今回の講習はここまでとしよう。ふたりともお疲れさま。それとごめんね。一気にいろいろと詰め込んじゃって。どうだったかな?」


「めっちゃべんきょーできた気がしますっ! ダンジョンの歴史とかはじめて知ることも多かったですしっ☆」


「すごく学びがありました」


「ふふ。ふたりにそう言ってもらえて嬉しいよ。このあとは食堂に移動して昼休みとなるから」


「えっ? クランの中に食堂があるんですか~っ?」


「うちの食堂はバイキング形式なんだ。だから、好きなだけ食べてくれていいよ。午後には本試験があるからね。たっぷり英気を養っておいてくれ」


 どうやら。

 昼食はクランが無償で提供してくれるみたいで。

 

 試験を受けに来たっていうのにかなりの好待遇でびっくり。


「それじゃ食堂へ移動しようか。ふたりとも、こちらへどうぞ」


 講義台を離れるユイさんについて行く形で。

 僕たちは部屋をあとにした。




 ◇◇◇




 そのあと。


 星宮さんと一緒に豪勢な料理を好きなだけ食べて。


「ふぅ~。もうお腹いーっぱいだよぉ~~」


「僕もです」


 大満足のまま昼食を終える。

 

 バイキングは、ホテルのレストランで用意されるような本格的なもので。

 和洋中さまざまな料理を堪能することができた。


(これで午後の試験もきちんと乗り切れそうだね)


 そのまま。

 話は自然とこのあとについて及ぶことに。


「星宮さん。試験の内容についてなんか知ってたりします?」


「いーや。それがぜんぜんなんだよね~。なんかSNSやネットでも噂程度しか出回ってなくてさ。いろいろ調べたんだけどね」


 エネミーのキル数で競う、RTAで誰が最速かを決める、受験者同士でバトルする、ノーダメージクリアに挑戦する、等々・・・。


 ウソとも本当ともつかない情報が散見されたみたい。


「たしか、ここ1年くらいでライセンスを取得した探索者はゼロなんですよね?」


「そ。たぶんユイに試験官が変わったからだと思うんだよね~」


「僕も試験官が厳しい人に変わったって話は聞いたんですけど。でも、ユイさんってそんな厳しそうに見えないですよね?」


「いやいやっ。あーゆう人ほどめっちゃ怖いよっ!? ユイの武勇伝とか調べたらわんさか出てくるけど。どれも内容がエグいんだって。国崎さー。いくらお人好しだからって、簡単に人を信じちゃダメだよ? 特に女は怖いんだからねっ」


「そういうもんでしょうか」


「そうなのっ! 国崎、世間知らなすぎーっ」


 意外にも星宮さんは警戒心強めで。

 

(けどたしかに・・・。一理あるかも)


 陽子さんによると。

 今のライセンスは存在しないアンノウンって揶揄されてるみたいだし。


 それだけ試験のハードルが高いってわけで。


 講習があまりにも無風だったから。

 つい勘違いしちゃってたけど。

 

 そうじゃない。


(本番はこのあとなんだよね)


 星宮さんに忠告されたことで、改めて気合いが入り直る。




 と、そこで。


(あ、受付嬢のお姉さんだ)


 一礼すると。

 滝沢さんが食堂に入ってきた。


「おふたりとも。お食事はいかがでしたでしょうか?」


「大大大満足でしたっ~☆」


「国崎さんも?」


「はい。美味しくいただきました。ご馳走さまです」


「お口に合ったようでなによりです」


「そういえば、この料理ってどなたが作ったんですか~? なんか厨房覗いても、シェフとかいないみたいですけどー」


 その質問に。

 滝沢さんは表情を崩さず、淡々とこう答える。


「こちらのバイキングは、遺物キューブから排出されたジェムによって作り出されたものですから」


「え・・・」


「それではおふたりとも。そろそろ時間となります。本試験会場へご案内いたしますのでついて来てください」


 颯爽と踵を返す滝沢さんの姿を。

 星宮さんは、唖然としながら目で追う。


 もしかすると。

 とんでもないところへ来てしまったのかもしれない。


 これから起こる出来事を予見するような、そんな寒気に似た感覚を僕は抱いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る