第44話 自宅 その1

「そういえば陽子さん。お腹の具合大丈夫ですか?」


「ふぇ? あっーー! 思い出したら急にお腹が空いてきましたわぁ~~!?」


「そういうことでしたら、ご一緒にお食事いかがでしょうか? お兄さまの分と一緒に、実は陽子さんの分も作ってましたので」


「えっ、よろしいんですのっ!?」


「もちろんです♪」


「そうですね。ぜひ食べて行ってください」


「おふたりとも、誠にありがとう存じますわぁっ! では、お言葉に甘えさせていただきますわ♡」


「どうぞこちらへ」




 ◇◇◇




 そのあと。

 3人でわいわいと食事した。


 その間、紫月しづきは楽しそうに陽子さんにあれこれと質問してた。


 思い返してみると。

 こうして誰かを交えて食事したのは何年ぶりだろう。


 両親を交通事故で失ってから。

 僕らはずっとふたりで暮らしてきた。


(久しぶりだよね)


 なんかとても温かい気持ちになる。

 紫月が嬉しそうでほんとよかった。




「ふぅ〜。美味しゅうございました。紫月さん、とても素晴らしいご夕食をご馳走いただき、ありがとうございましたわ♪」


「お口に合ったようでなによりです。ふだんはおうちでとても豪華な料理を食べられてると思うので、実は緊張してたんですよ」


「なにをおっしゃいますの! うちのシェフが作るディナーなんかより、100倍は美味しかったですわ♪ なによりこちらのご夕食からは温かな愛情を感じましたの、わたくし♡」


 そんな風に盛り上がってると。


 かーん、かーん。


 時計が鳴る。

 時刻は19時を指してた。


「あら。もうこんなお時間ですわ」


「今日もホテルにお泊りなんですか?」


「いえ。本日はまだ予約しておりませんでして」


「明日は日曜日ですし。陽子さんさえよければ、今日はうちに泊まっていきませんか?」


「さすがにそこまでご厚意に甘えるわけには・・・」


「さっき紫月と話したんです。今から新幹線で東京に戻るってなると、遅くなっちゃうと思いますし」


「遠慮せずにどうぞ」


「優太さま、紫月さん・・・。お気持ちはとても嬉しいのですけれど」


 少しだけ表情を曇らせると。

 陽子さんは、静かに事情を説明してくれる。




 実はダンチューバーをやってることは、親父さんに反対されてるらしく。


 ここへ来るにあたっても。

 当てつけのように内緒で大屋敷を抜け出して来てしまったみたい。


「言えば、ぜったい反対されるに決まっておりましたので。どうしても、優太さまに直接お礼を伝えたかったんですの。ホテルもあのあと急遽予約しまして・・・。親にちゃんと断ってきたなんて嘘をついてしまって、本当に申し訳ございませんわ」


「なるほど。そうだったんですね」


 でも。

 そうまでして、僕に会いに来てくれたんだ。

 

(ぜんぜん陽子さんの気持ちわかってなかったな)


 今回のコラボ配信にしても。

 僕のペースでずっと振り回しちゃってたし。


 自分ひとりで突っ走りすぎちゃったなって、反省だ。


「ですがっ。まだお父さまのもとへは戻りたくありませんの。優太さまと紫月さんがご迷惑でなければ。また、ご厚意に預からせていただきたいのですが・・・いかがかしら?」


「もちろん大丈夫ですよ」


「ぜひ泊まっていってください。お兄さまも私も。その方が嬉しいので」


「! おふたりの優しさには感激ですわっ! あぁ、なんとお礼を申し上げればよろしいのでしょうっ。心から感謝いたしますわ♪」


 と、話がまとまったそんなタイミングで。



 ピンポーン。



 チャイムが鳴る。


(なんだろう?)


 こんな時間に誰か来る約束をした覚えはないんだけど。


 配達の人かな。


「すみません。少し席を外してもいいですか?」


「どうぞどうぞっ」


 陽子さんに断りを入れると。

 紫月にも声をかける。


「ちょっと見てくるよ」


「はい。よろしくお願いします、お兄さま」


 不思議に思いながらリビングを出て。

 そのまま玄関へ。

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