第45話 自宅 その2

「どちらさまでしょう?」


 ドアを開けると、そこには。


(え)


 サングラスをかけたスーツの男性がふたり立ってた。


 どちらも身長は180cm以上。


 スーツ越しからでもその屈強さが伝わってくる。

 たぶん相当鍛えてるんだろう。


「国崎さまのご自宅でよろしかったでしょうか?」


「そうですけど」


「こちらにお嬢さまがお邪魔してると思うのですが、いらっしゃいますか?」


「お嬢さま?」


 僕が不思議に思ってると。


 「あっ」と、小さな声が廊下から漏れ聞こえる。

 陽子さんだ。 


 様子が気になって、リビングから出て来たのかもしれない。


「陽子お嬢さま。やはりこちらにいらっしゃいましたか」

「どうぞこちらへ」


 もうひとりの男性がうしろで手招くと。

 陽子さんは観念したように玄関までやって来る。


「どうして・・・。ここがわかったんですの?」


「申し訳ございません。スマートフォンの位置情報を開示させていただきました」

「旦那さまの許可は得ております」


 サングラスの人たちがそれぞれ口にすると。

 陽子さんは、あからさまに落胆したみたいに肩を落とす。


 ひょっとすると、以前にもこんなことがあったのかも。


「っ、ひどいですわ、お父さまも。これではプライバシーもなにも、あったものではありませんのにっ」


「それだけ旦那さまが心配されているということです」


「あの、陽子さん。この人たちは?」


「・・・お父さまのボディーガードの方たちですわ」


 どこか悔しそうに。

 言葉を絞り出す陽子さん。


「今日は優太さまのご自宅にお泊りできると、楽しみにしておりましたのに~!」


「それは認められません」

「旦那さまには、早急に戻すように言われておりますので」


「嫌ですわっ」


「そうですか。でしたら、少し強引にでも連れ帰らせていただきます」


 ボディーガードの人たちが家に上がって来ようとする。


「追い返しましょうか?」


 小声で陽子さんに声をかけつつ。

 僕はズボンのポケットに手を入れる。


 中にはひとつ。

 武器ウェポン遺物キューブが入ってた。


 これは、帰り際ダンジョンで拾ったもので――。




 基本的に。

 ダンジョンの中で拾ったキューブは、地上へ持ち帰れないって言われてる。


 でも、どういうわけか。

 僕には持ち帰ることができた。


 用心のため、帰り際に拾ったキューブはいつも持ち帰ることにしてて。


 それで。

 これがいちばん重要なんだけど。


(持ち帰ったキューブは、ここ地上でも同じような効果として使うことができるんだよね)


 これを知った時はさすがに驚いたな。

 実際に試してみたからまず間違いない。


 だから。

 ちょっと卑怯な手だけど。


 屈強な男の人たちを引き下がらせることも、今の僕には十分可能だった。




 だけど、陽子さんは首を横に振る。


「・・・いえ。本音を言えば残っていたいですけど。これ以上、優太さまにご迷惑をおかけするわけにはいきませんので」


「ですが」


「いいんですの。なんとなくこうなるってわかっておりましたから」


 そこでパッと明るく笑顔を見せると。

 陽子さんは、ボディーガードの人たちに少しだけ待つようにお願いする。


「優太さま。本日はどうもありがとう存じますわ。とても楽しかったですわ♪ またぜひ、わたくしとおコラボしていただけますかしら?」


「それはもちろん構わないんですけど。陽子さん、本当にこれでいいんですか?」


 きっと。

 まだ実家には戻りたくないはず。


 家族の問題に口出せる立場じゃないけど。


(子供の言葉も聞かず、強引に連れ帰ろうとするなんて・・・さすがに間違ってるよ)


「ご心配いただき感謝ですわ。ですが、わたくしなら問題ございませんわ。ダンチューバーを続けたいって思いは、この先もずっと変わりませんし。お父さまには、わたくしの気持ちをイヤってほどお伝えし続け、ぜっ〜たいわかってもらいますから♪」


 どこか力強く。

 陽子さんはそう宣言する。


「またどこかでかならずお逢いしましょう♡ ごきげんよう、優太さま」


 深々と頭を下げると。

 陽子さんはサングラスの人たちと一緒に立ち去ってしまった。






「陽子さん。行っちゃったんですね」


「・・・」


「大丈夫ですよ、お兄さま。陽子さんがおっしゃってたように、かならずまたどこかで再会できますから」


「うん。そうだね」


 せっかく仲良くなれたから。

 ちょっと寂しさも感じたけど。


 紫月にそう言ってもらえると、きちんと納得することができた。


 6月の夜風が吹き抜ける。


 もうすぐ夏だ。


 近いうちにぜったい。

 また陽子さんと会いたいな。

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