夜の始まり
その頃、一足先にDripsを出立した綺羅が結宮と合流を果たそうとしていた。“基地“のある枯れ山の頂上に小さな時空の裂け目と、そこから出てくる合計10本の指があった。裂け目の両端を掴んだ指は力を込めて空間をこじ開ける。
「…っっは〜。やっぱここ転移に向いてないなー。座標はズレるわ、力の流れも気持ち悪い……なぁ、これって俺対策って事なのか?…葵?」
綺羅が右に顔を向け、木にもたれかかっている結宮と目を合わせる。深夜、色を失った山の中ではお互いの顔なんて見えやしない。せいぜい人が居るという事実の確認程度しかできない程の深夜だ。それでも確かに、2人には目を合わせたという認識があったのだ。
「良かった、君がちゃんと単独で行動してくれて」
「それじゃ俺がぼっちみたいじゃねぇかよ。やめろよ」
いつものように少しおどけて言ってみせた綺羅だったが、結宮は表情一つ変えない。
「……言い方を変えますか。どうせ最後だし。ずっと手のひらの上で踊ってくれてありがとう。君は、大切な大切な私の駒でした」
演技ったらしく「大切」なんて言う結宮に綺羅は苦笑いすら出てこない。
「ひっでぇ、でも俺は確かに駒だわな。そんでも、これから踊るのは俺らじゃない。」
綺羅は腰から剣を抜き取り、近くの木を切り倒した。そして地面に剣を突き立てて言う。
「覚悟しとけよ27番、 俺はランドリュー・ヴィズリオを討つ」
──────────────────────
「ヴィズ」
「ランドリュー・ヴィズリオ」
まぁ分かっていた事だけど、私の義父は庶民の出ではない。そもそも、捨てられる寸前とはいえ王族の子を匿うなんて只者で無かったのだ。
「それがまさか騎士家系の、しかも蒼の実の親と。……さて、この縁は本当に偶然かしらね」
依頼がない限り、ブランカは街から出ることが出来ない。だからこそニーナちゃんは脅迫じみた手紙を通して“依頼“してきた。ニーナちゃんが提示してきた『不死という呪いを残させた時の記憶』私はこの報酬が心から要らない。返却したいくらい要らない。だって私はとっくにこの記憶を思い出しているから。だから、私こと真矢は両手を広げて街の上空を1歩ずつ歩いている。
1つづつ整理しよう。
王族が授かりし第1子、その子は治癒の力が飛び抜けていた上に頭に奇妙ものを付けていた。恐れられた子供は災いの子とされ、赤子ながらにスラムに落とされそうになっていた。そこで蒼の父親、ランドリュー・ヴィズリオは故意か偶然か私を拾った。
それからしばらくは王都で暮らしたが私の頭についている兎の耳のようなものを気味悪がられて居場所を失い、逃げるように山頂付近の小屋に居住を移した。
ヴィズは王宮の研究員を自称していて、私にメカニカルの分野のあれこれを教えてくれた。引き抜いた頭の右耳の代わりに機械の補助機をつけてくれたのもヴィズだった。
人のいない山奥の生活に慣れた頃、蒼と綺羅くんが現れた。見せてもらった記憶の通り、治癒能力を見せてしまった私は綺羅くんに密告される。
「こっからが私の不死の呪いと関連するお話」
密告の後、私は前線に駆り出され、負傷した戦士の治癒を行わさせれた。私という化け物には監視官がつけられた。監視官は蒼、優秀で歳が近いから選出されたらしい。決して仲が良いとは言えなかったが、きっと、戦友ではあった。
戦場も、最初はまだマシだった。ソウ・ゼロ・マリューの3人で3槍なんて呼ばれたりもした。上手くいくと思っていた。
痛みに耐える絶叫、治療という名の地獄への片道切符。私は治療に意味が無いと気がついた。その時、大気が震え、音が消えた、目を開けると歪んだ大地と少し前まで兵士だった死体達のみがそこに広がっていた
──過剰治癒──やはり不死の原因は、私のこの力と関連があると考える。周辺一帯を消し飛ばすような衝撃の中で生きていられたのはまさにこの時、私が不死者になったからだ。
ここまで分かれば、私が街の上空を歩いている仕組みも理解出来るはず。
ニーナちゃんの依頼は私の家があった場所へ来ること。私の家は王宮であり、王都であり、山全体にある。もはや街1つと言っても差し支えない。その街はちょうど、Dripsが囚われている街の風景を1000年程昔に巻き戻した姿と一致する。
この「私の家があった場所へ行け」という依頼の達成条件は「この街にいること」だ。でも私のみが報酬を要らないと判断し、依頼を拒んだ。するとDripsは他2人の依頼を続行させつつ、私が破棄した依頼を達成させない為に私を囚われの街から追い出した。
つまり、依頼時に限られた場所にしか出られなかった私が街の外を調査し放題って訳
「厄介2人組は任せたから、こっちは任せてよね。ニーナちゃん」
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山底のブランカ 高間 哀和 @takamaaa
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