行く末の手紙
…返事がないので綺羅は真矢の顔を覗き込むと真矢は寝ており、口には書類を咥えている。よく見るとDripsへの依頼書だ。綺羅が手をこまねいて蒼を呼んだ。渋々と来た蒼は真矢の有様を見て軽く舌打ちをする。
「生活オンチも大概にしろよ」
即は口から紙をピッと抜き取ると大層嫌そうに顔をしかめる。
「綺羅の相棒だろ、どうにかしろよこれ」
「は……何もしかして」
綺羅は蒼から受け取った依頼書を改めてまじまじと見つめた。
『Dripsに御滞在の皆様、君達に依頼をお願いします。
今夜、指定の場所に来てください。さっきまで君達がいた場所、これを咥えている子の家があった場所へ。行き方は各々考えて下さい。協力も、教え合いもしないように。報酬はブランカ2人の記憶の欠片、2人に深い傷をつけ、不死という呪いを残させた時の記憶。
期限は夜明けまで。ただし君達が来るのを待てるのはそこが限界、夜明けと同時に欠片は破壊するからなるべく急いでくれると嬉しいな。
君達の親愛なる敵、結宮葵 』
…………………
「そんじゃ行くか」
何事も無かったかのように、近所のパン屋にでも行くかのように、ただただ普段通りに綺羅は空間転移の門を開いた。あまりに自然なので、蒼はそのまま行かせてしまいそうになったが何とか引き止める。
「綺羅!は、結宮葵の場所分かんのかよ、どうして……いや、なんでそんなすんなり受け入れてんだよ。罠だろ、どう考えても」
「さっきソウが言っただろ、相棒だっ……いやそこまで親しくはないんだけど…んでも、結宮についてはソウより知ってる。だから多分、俺が行かなきゃいけないんだ。そんで、俺が言えるのも多分ここまでだ。来るか来ないかはお前らの選択次第、勝手に決めろ。………マリューもな」
「…私はパスで。もう欠片も必要ないし、今の私じゃ力になれない。それにちょっと、ニーナちゃんと顔合わせたくないから…パス」
真矢は先程までとは反対方向に転がり、クッションに顔をうずめる。
真矢も綺羅もトントン拍子に話を進めていく。蒼は対応を決めきれない自分に混乱した。足場がどんどんと崩れていく感覚とはこういう事か、と思う内に綺羅はどこかへ消えてしまった。
罠だ、絶対に罠だ。俺たちと店を傷つけたの他でもない結宮葵だ。行ったら最後、敵の手中にすっぽり収まってしまう。記憶?そんなのなくたって、俺はやれる。ここは耐えるべきだ、行っちゃいけない。
その思想とは反対に、いつの間にかDripsの扉に手をかけている蒼がいた。気づいた蒼はぱっと手を離した。Dripsの扉は依頼中“その依頼に応じた場所へ“繋がっている、それ以外の時は霧のかかる街へと繋がるが、今はどうだ?結宮の真意が分からない以上、ここから出るのは危険だ。
(結宮の手紙がブランカ2人を陥れるためのものなら、この先が溶岩湖でもおかしくない。この扉は俺らより依頼主に寄り添ってる…………)
蒼が悩んでいると、隣に風が通り過ぎた。通り過ぎたかと思えば、その風は扉を開けていた。
「そんじゃ、私も行ってくるわ」
「は?」
「こっちはこっちで依頼が溜まってんの」
颯爽と駆け抜けた風は、そのままどこかへ行ってしまった。真矢は閉じた扉だけを残してDripsを後にした。
1人取り残された蒼はしばらく放心していたがようやく正気に戻ってきた。頭を整理しつつ、空間操作で夜の黒を反射する剣を取り出し、腰に着ける。そして鞘から抜いて、豪快にDripsの扉を切りつけた。2つになった扉は音を立てて床に落ち、その先にいつもの街を映し出す。
「……っクソ…もう訳わかんねぇ!俺は、俺の目標は!とにかく綺羅と真矢を失わないこと……あーもうクソが、行くぞ!」
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