鳳仙花
「……………よかった……っ!」と少女がソウに飛びつくとソウの体の傷がどんどん治っていく。少女は気づいていないが、ソウとミデンは固まり、治った傷と少女とお互いの顔を見回した。恐る恐るミデンが口を開く。
「そんで……その子は…何?」
これを聞いて少女はぱっとソウから離れる。
「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね、コロネル・マリューです。マリューと呼んでくだい」
綺麗にお辞儀をしたマリューは異様な空気を感じ取った。やけに見つめられるので顔を下に向けて頬を赤らめた。
「あの…?何か間違えていましたか?私に聞きたいことでもありますか?」
おずおずと聞いたマリューは長いスカートの裾をぎゅっと握った。それを見たミデンは首を捻る。
「なんって言えばいいか………」
「これ治したの君?」
ずかずかと聞いたのは他でもないソウだ。自分の腕を指さして真っ直ぐにマリューを見つめる。マリューは引きつった笑みを浮かべながらスカートの裾をさらにつよく握る。ゆっくりと吐き出す息は震えているようだった。
「……あれ、さっきまで傷付いてたはずですよね………っあ、それをわたし、が治して………でもそんなこと…でも……」
焦点が定まらない様子のマリューを見たソウはマリューの頭に優しく触れる。
「混乱させて悪かった。…無理に聞き出したい訳じゃないんだ。傷も治ったらしいし、もうすぐ出ていくよ」
それでも震え続けるマリューの肩をミデンが引き寄せる。ソウも引っ張られ、ミデンを中心に3人で肩を寄せ合う形になった。
「なぁな、とりあえず飯食おうぜ!俺多分もう何日か飯食ってないんだよ。マリュー、なんか材料あるか?とにかく美味いもん作ろうぜ」
マリューが頷くと「よーし開始〜」と言ってミデンは部屋を後にした。取り残されたソウは色んなものから解放された安堵や不安を堪えきれなくなり、ぼすっとベットに座った。「悪い、ああいう奴なんだ」困ったように笑うソウはマリューに手招きする。
「君に僕の話がしたくなったんだ。少し聞いて貰えないかな。どうせあいつはしばらく戻ってこない」
マリューは胸の当たりにある両手をキュッと握り、ソウの隣に間を空けて座った。下を向いたままマリューは言う。
「私の話もしたいんです。この山自体、人が入ってくることが少ないので、誰か……誰かに、ただ、聞いてもらいたいだけなんです」
「いいよ。マリュー、君の話を聞かせてよ」
かつてないほどに優しい声色のソウに鳥肌が立った。マリューは震える唇をぐっと閉じ、ゆっくりと深く息を吸ってから細々と話し出した。
「………私、──の産まれで、元々治癒の力が強い────────でも私は貧民街のメーネに────で、研究──父と母──────」
…マリューの声は聞こえやしない。しばらくするとソウも話し出した。
「僕は剣士家系の産まれでさ、父はあまり家に帰ってこないけど空間操作と剣の練習は欠かさなかった」
ソウの話す内容は知っているものばかりな予感がしたので、俺はその隙に軍に提出する報告書を書いていた。しかし、話を聞いているとソウがとんでもない事を言い出す。
「──僕さ、傷が治らない体質なんだ。自然治癒力が低いらしい。…だからさっき驚いたんだ、君を傷つける意図は無かったんだ。ごめん」
盗み聞きしていたミデンは少し理解に時間がかかる。そして理解した瞬間に報告書を隠し、急いでこの家を捜索しようとした。が、急ぐあまり頭をぶつけた棚からミデンに向けて色々な物が降っていく。
「ぁだっ!…っえ、ちょま……ぅ…うわぁぁぁ」
────────────────────────
「なっつかしいよなぁ」
綺羅は足を組んでカウンターに座る。3人分のコーヒーをドリップしている最中だ。席を2つ空けて座っている蒼は大層嫌味ったらしく言う。
「何が懐かしいだ。『治癒の少女と遭遇・利用価値あり』なんて報告書書きやがって。あれがなければ全く無関係の少女が……」
蒼はそこで言葉が言葉が詰まる。綺羅は出来上がったコーヒーを蒼の前に置いた。そして言う。
「…………いい傾向だな。」
「おい…」
呼び止められそうになった綺羅は身を翻して真矢の方へ向かう。テーブルにコーヒーのカップを置きながら聞いた。
「マリューは何か思い出したか?」
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山底のブランカ 高間 哀和 @takamaaa
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