三槍の出会い
「だからと言って、記憶を取り戻すっていっても俯瞰で見るだけじゃ他人行儀すぎない?今回の記憶って私まで一緒に見る必要あった?」
「まぁ、マリューと出会ったのはこの後の記憶なんだけどさ?ただそん時、急に昔の俺らが登場しても着いてけないだろうって思って。今回のは状況を分かりやすくする為の下準備ってこと」
綺羅は作業の手を止めて言った
「ほら、ご所望のマリューと俺らの記憶。調整し終えたぞ。」
「……調整し終えた、とかよく言えたわね。私が手伝ったからどうにかなったようなもんじゃない?」
蒼と真矢の手に指輪が置かれる。はめ込まれた赤い石は以前と全く同じ輝きを放っていたが、どことなく嫌な雰囲気を纏っている。
蒼は指輪を見つめて、綺羅を見つめて言った。
「これ、もう使うのか?」
「蒼の調子が良くなり次第、すぐにでも」
「…分かった、もう行ける」
それを聞いて綺羅の目の奥に青い光が灯った。綺羅は鼻から冷たい空気を吸い込み、真矢と蒼の周辺に危険がないか確認する。
真矢はソファで寝ていて、蒼はそのまま地面に転がっている。うん、大丈夫。今ならいける。
綺羅はまた親指で首を切り、一筋の赤を作った。
──────────────────────
「─ぃ──ぉーい!──────おーい!」
目が覚めると髪の長い少女がいた。これは神様か?いや、どちらかと言うと女神様か。
「あの!大丈夫ですか…?」
「…あ、俺は大丈夫」
どうやら俺は死んだ訳では無いらしい、という事に気がついて正気に戻る。体を起こして寝かされていたベットの縁に座り、俺がここに来た目的をじわじわと思い出した。
「…………あいつは…」
「…っすみません、何とか頑張ってはみたんですが……」
──絶望、俺はこれを見せないように何とか笑ってみせる。
「いや、いいよ。一端の兵士なんてそんなもんだし、むしろ俺まで治療してくれてありがとうな」
しかし、少女に俺の感情が隠せる訳もなかった。
「…あの、ここまで登ってきた人間は貴方が初めてなんです。…もし疲れてたら、ゆっくり休んで下さい。お父さんとお母さんには私から伝えておくのでリラックスしていて下さい」
「……ありがとう」
俺は布団を眺めて言った。少女が奥の部屋に向かう足音が聞こえ、まだ聞いてないことがあるのを思い出した。
「ごめん!……あの、あいつ、俺と一緒に来た兵士は今どこに…いますか」
振り向いた少女は少し唇を震わせ、眉を下げて笑って言う
「この部屋を出て右の部屋です。ぜひ顔を…」
その時、少女の後ろに人影が見えた。そいつは混乱したように笑って言いのけた。
「あの…これはどういう状況なんだ……?」
死んだと思っていた戦友が、死亡を確認した患者が、そこに立っている。少女と俺は顔を見合わせて頷いた。
「何者だ!」「何者ですか!」
「ぇっ…いやちょ……」
狼狽える奴を見て俺は更に畳み掛ける。怒りでこれまでに無いくらい声を荒げ、奴の首元を掻っ切る勢いで剣を向けた。
「あいつは戦場で治療不可能な傷を負ってる!俺の親友を装ったって無駄だ!」
「そうです!いくら何でも酷すぎます!こんな……立派に戦った人に対して………あなたは誰ですか…!」
少女は涙ながらに叫んだ。奴の首元に血が滴り、力を込めすぎだことに気がつく。緩めるつもりは無い。
「んぇっと…誰って言われても……隊長補佐としか」
「名前は?」
「…名前って言われてもさ、名無しなのはソウが1番知ってんだろ…?
何も言わず、じっと見つめ続けらると、奴は諦めたようにため息をつく。
「……名無し、00番、副隊長……ミデン」
まだ目は逸らさない。嫌な居心地になって奴は上を向いて「うぁ〜」と言った。そして頭を掻きながら半ばキレて話し出す
「正直さぁ、ミデンとか呼んでる奴ソウくらいだからな?いや、俺も悪かったけど、ミデン(何も無い)とか俺以外だと普通に侮辱だぞ!」
ミデンが口をモニョモニョと動かしながら困ったような怒ったような顔をコロコロと変化させていたが、ソウの鋭いい視線は変わらない。ただ少し、口元が緩んだ。
「僕をソウと呼ぶ無礼な奴もミデンくらいだろ?お互い様だ」
「お前途中から遊んでただろ!無礼度、いや人の心がない度でいえばお前の方が上だからな!!あーーくそっ」
急に和やかで険悪な雰囲気になり、少女は構えてきたフライパンをどうすればいいのか困ってしまった。
「えっとその、つまり…?」
「こいつは本人だ。どんな生き返り方したのかは知らないけどな」
「……………よかった……っ!」と少女がソウに飛びつくとソウの体の傷がどんどん治っていく。少女は気づいていないが、ソウとミデンは固まって傷と少女とお互いの顔を見回した。ミデンが言う
「そんで……その子は…何?」
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