暗夜行路

今にも壊れそうな木の扉はDripsの裏口に繋がっていた。


結宮は高まる鼓動を押さえつけようと大きく息を吸い、白衣の中から3種の試験管を取り出した。


それを勢い付けて地面に叩きつけるとパリンッと割れ、零れた中身それぞれが反応し合って煙が立ち上がる。そこに紫色の液体を数滴落とした所でタイムアップ。予想通りのお客様が現れた。


「綺羅、君に構ってる時間は無いんだ。今夜中に片付けたい仕事があってね」


「へぇ、俺にも手伝わせてくれよ。仮にも仲間だろ?寂しいじゃねぇか」


「……気づいてる癖に」


綺羅に気づかれないよう、小声でそう言った。結宮はわざと薄気味悪い笑顔を作ってさらに続ける


「私は裏切った、こんな茶番に付き合ってる暇はないよ。早く蒼を出して」


「…狂ってるな、あんな奴の言う事を信じるのかよ」


「信じる信じないじゃない、私がそうさせた。生憎、先生とは長い付き合いでね」


「蒼を連れていけばマリューの安全だけは保証するって?」


結宮は突き刺されたかのように目を見開いた。少しの間の後、強ばった肩の力を抜き、視線を逸らして素っ気なく言う


「…まぁ、綺羅にも似た話はしてるか」


綺羅に向き直った結宮は眉をひそめながら笑った


「だったら分かるでしょ?私は意地でも蒼を連れて行くよ」


ばっと右手を広げた結宮の後ろに無数の矢が現れた。その矢じりは全て綺羅に向いている。異様な程静かな時間が流れたあと、綺羅が剣を取り出したと同時に矢が放たれた。


綺羅はいくつかの矢を避け、避けられないものは剣で切り、どんどんと蒼の部屋の方へ向かっていく。攻撃の手を緩めない結宮が綺羅に追いつきそうになった時──


──目の前に草原が広がっていた。綺羅が直前に転移を発動させたのだ。


結宮は前を向いてから少し口角を上げる。剣を構えた綺羅は言った


「俺が相手してやるよ、過保護野郎」


「何それ、自己紹介のつもり?だとしたら下っ手くそ。あの子、今頃火の中だよ。……さっきの薬品は煙の発生がメインの効果じゃない、むしろ煙はおまけ。」


「それがどうした、蒼はブランカだ。脅す相手を間違えたな」


「…あれ?もしかして知らない?あの子は確かに死なないけど、傷の回復は出来ないこと。真矢に治癒してもらわないと、回復までかかる時間は普通の人間と対して変わらない、痛みも苦しみも損傷が大きければその分だけ増してく」


「不死身だから大丈夫とでも思った?そんな訳無い。…あの子は欠陥品なんだよ」


綺羅は剣を下ろした


「俺にそんな話して大丈夫なのかよ。」


「1人だけ何も知らないってのもフェアじゃないからね。模倣品君への情けってとこ」


飄々と言う結宮に綺羅は諦めたように目を伏せた。


「お気遣いどーも……………でも、その欠陥と模倣こそが──俺たちの力だ」


しっかりと結宮を見据えた綺羅は瞬時にその場から居なくなり、それと同時に結宮もDripsへ転移させられる。結宮が次に見たのは目の前に突きつけられた2つの刀身だった。


濡羽色の剣を辿ると、見慣れた顔が何かを必死に耐える顔をしている。ブルーブラックの剣の持ち主は火傷でボロボロ、軽蔑の眼差しを向けてくる


「…真矢をどこにやった。あいつは──」

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