親愛なる君へ

真矢を城に残し、1人でDripsに戻ってきた結宮は店内を見渡してから静かに蒼の部屋に向かう。


2階にある左の扉を開くと物が少ない部屋の中に男が2人転がっている。真新しい傷は先程まで戦っていた事を顕著に示している。


蒼と綺羅が眠っていることを確認してから結宮は1階に降りてDripsの扉を開けた。再び開いた扉は街と繋がっていて、あの大仰な城の痕跡すらない。


外に出た結宮は建物の上を素早く、着実にジャンブで乗り継ぎ、一直線にある方向へ向かっていく。


─────────────────────


着いた先は荒れた山だった。山の中腹より少し上、結宮は着地した後少し歩いて立ち止まる。足で土を退けていくとある箇所の地面が銀色に光る。


結宮はそこで立ち止まり、しゃがみこんで草むらに潜んだ取っ手を引いた。これは地下への扉であり、中はひたすらに鉄梯子が続いている。


梯子を下る音のみが響いて数分、やっと“そこ“に辿り着いた。結宮が梯子から降りると同時に背後から声がした。



「──27000番、計画は順調か?」


振り返るとまず大量のモニターが目に入る、少し下に視線を移すと結宮と同じ白衣を着た大人の男がひたすらにキーボードを打ち付けていた。


「はい、マリューはDripsの外、どこかの城で眠りにつきました。ソウも制約により起きる様子はありません。今なら、2人を捕らえられます」


「……早く行け」


「分かりました、先生」


そう言いながら結宮は壁の端末を片手で操作し、地下通路を出現させた。早足で通路を進んでいくと途中で壁の質感が変わる、これは明かりのない夜でも通路の終わりを認識する為のものだ。


通路から出た結宮は荒れた山の地表に出た、振り返ると無骨な通路が洞窟の様に見える。しかし結宮は知っている、ここがただの洞窟なんかじゃない事を、この先には地獄の体現者がいる事を。


冷たい空気を吸い込み、ぱっと周囲を見渡した結宮は洞窟の脇にあるいくつかの木の幹に触れる。数本の木を触っていくと表面がボロボロと剥がれ落ちたが、ある1本の木は違った。それは見た目こそ朽ち果てているが、やけに頑丈で、重厚な雰囲気を持っている。


「…あった」


その木の幹を押し込むと、低い音を立てて洞窟の出口が機械的に塞がる。結宮は完全に閉まったのを確認してから山頂へと向かう。


「綺羅が居れば楽なんだけどなぁ…」


─Dripsは願いと対価を持つ者の前にのみ現れる─

この条件を常に満たすのは難しい


「私は対価なんて持ってないし、転移も使えない、あるのは無駄に年月を重ねて得た知識だけ。まぁ…お陰でこの場所も割り出せたんだけどさ」


山を登っていくと開けた場所に出る。その先にはボロい板が立っていた


「…あの扉が壊れるまで、あと3回。……私が転生出来る回数も…残り3回…」


結宮はゆっくりと扉まで歩いて、その前で止まった


「大丈夫、私が居なくなる前に全部決着を付けるから。だから、もうちょっと忘れたままでいて、真矢。」

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