友達との時間
結宮が手を伸ばして呼んだ
「真矢、待って……」
城へ向かおうとしていた真矢が止まって振り返る。すると結宮は白衣の裾に手を突っ込み、慌てて訂正する。
「いやいやごめん!真矢さんの貴重な時間を私に使わせるなんて、まさかまさか…あはは…」
結宮は笑ったが真矢は何も言わない
あの時、「頼って」と言った真矢の言葉が結宮の頭の中を何度も駆け巡る。真矢の瞳に宿る熱い熱が、視線が、揺れた体が、全てがそう主張しているようで、結宮はとうとう押し負けた。
「……でももし…もしも、真矢に友達と過ごす為の時間が余ってるなら、その…なんていうか……」
それを聞いた真矢は嬉しそうに地面に降りてきた。
「大丈夫、私はニーナちゃんの不安が消えるまでここに居るよ。依頼の期限は今日までって事だったから、どうせ時間は余る予定だったの。せっかくだし、色んな話をしましょうよ。」
それから2人は空が暗くなるまで話し込んだ。出会いたての蒼は今よりもっと無口だった事、綺羅が結宮の研究を台無しにした事、それから過去の思い出について──
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空の檻の中、私は少しづつ変わりゆく景色をずっと…もう何年か分からないほど眺め続けた。
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「“カンっ“って音が鳴ったと思ったら下で子供が弓矢構えてるのよ?得体の知れない恐怖に300年は悩んだわよ」
「いやだって、新種の鳥だと思ってたし、まさか空中に人がいるなんて思わないって」
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ニーナちゃは転生しても前世の記憶を“完全に“覚えているらしい。何度か転生を繰り返していた時、ふと思い出して私の水泡の研究に着手した。
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「でも研究がなかなか上手くいかなくて、もうやけになって適当な石を改造したのが大正解だった。気晴らしに矢に括り付けて弓で打ったら…“パリンッ“。」
結宮はぱっと手を広げて水泡が割れた様子を表した。その手に真矢の人差し指と親指が触れ、離れたと思ったら下に移動した
「そしたら私がヒューンって落ちてった。割った本人も、落ちてる私も状況理解してなくてずっとぽかーんってしてたわよね」
結宮は「そうそう」と笑った。そしてそのまま真矢の胸元を指差す。
「そのネックレス、やっぱあの時のやつ?」
「そう。ニーナちゃんが放った矢の矢じり。今でもこれでしか水泡が割れないの。ニーナちゃんとの記憶を取り戻す前からずっとこれだけは無意識に付けてて……無くさなくて本当に良かった」
「じゃあこれからも無くなさないようしにてよ。私の痕跡をもうずっと忘れないで。」
それから結宮は立ち上がって言う
「っで!そろそろ真矢は依頼の制限時間がギリギリになってない?私は先に店に戻ってるから、早めに終わらせてきてよ」
「もうそんな時間?!ありがと、分かったわ。食べ物とか生活必需品?ってやつは適当に漁ればどっかから出てくるはずだから、好きなようにして!じゃあまた!」
真矢は城に向かって凄いスピードで飛んで行った。残された結宮は半笑いで呟く
「その辺漁ってとか、流石にもうちょっとさぁ…」
結宮は耐えきれなくなって「あはははは!」と笑った。「真矢は変わったなぁ…」と言って歩き出す。
「もうちょっと生活能力を身につけさせてあげたかったなぁ………残念」
結宮の足がDripsの扉を跨いだ時、なりかけの夜が深みを増す。静かに閉まった扉は不気味な程に景観に馴染んでいて、それでいて異質だった。
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