質疑応答

『あれ、説明不足だったかな。私は結宮葵であり、2700番であり、ニーナでもある。私が誰かなんて自分じゃわかんない、それは真矢が定義づけて』


真矢はしばらく黙っていたがパンッと水泡を割り、片足で着地する。物が散乱した店内を器用に歩いて、店の中央にある机の椅子に手をかけて言う


「…とりあえず話し合いたいから、全員こっちのテーブルに来て。なるべく早く」


真矢の怒りゲージが上がっていくのを感じた蒼は黙って真矢の隣に座った。その後に綺羅も続いて対面に座る。自分以外の全員が中央テーブルに座ったので結宮葵も「やれやれ」と席に腰掛けた。


「貴方達には質問に答えてもらいたい。もちろん、嘘なんかつかないでね。まず、あなた達の目的を教えて。」


『オレはさっき言った通り、オレを奴隷みたいに使ってくる男を殺したい』


『私も同じく』



綺羅と結宮が思いのほかスっと答えたので、今度は蒼が質問する


「それは何でだ?」


『オレはもう何度転生しても逃げられない、あいつの奴隷だ。そろそろ解放されたいんだ』


それを聞いた蒼は下を向いたまま「わかった」と小さい声で言った。


隣の真矢がずっと結宮を見つめていたので『はいはい、私も答えればいいんだよね。』といって結宮も椅子を回転させながら話しだした。


『私は転生周期が長いからアレと出会ったのは今世が初めてなんだけど、嫌な契約交わさせられちゃって…それを破棄するためにアレを殺したい』


「じゃあ、これが最後の質問。“あなた達は私達の何なの?“」


『私、蒼とは会ったこと無いかな…でも私が真矢の何かって聞かれたら親友か家族としか答えられないと思う。真矢は私の大事な人だから』


この言葉を聞いて、真矢はもう結宮葵をニーナとして認識してしまいたくなった。だが

結宮は橙色の瞳を見せていた、家族の赤でも友達の黄でもなく他人の青ですらない、観測するだけでも異常な橙色だ。今すぐ駆け寄って結宮を抱きしめたい衝動を理性が警戒しろと止めてくる。



隣に座る蒼も落ち着かない様子で綺羅に聞く


「…綺羅はどうなんだ。」


綺羅は“自分が蒼達にとって何なのか“という問いに言葉が詰まる。蒼と真矢を見つめ、意を決して手を強く握った。


『お前らが俺の事を思い出してないなら、オレからそれを言う事は出来ない。でも、敵じゃないのは断言する』


「待て綺羅。こいつにも、会った事があんのか?」


『だから、オレからは何も言えな………っ!!…痛ったいぞ蒼!』


蒼は机の上に乗り綺羅の髪を掴んで、そのまま真矢の目の前まで持っていった。蛮族のように綺羅の顔を覗き込み「黄色…」と呟いてから蒼は綺羅を投げ捨てた。


怪我まみれの綺羅を真矢がノールックで治癒してやる。


迅速な対応のおかげで綺羅の毛根以外に被害が出なかった。だがやけに静かだ、Dripsドリップスがここまで地獄のような空気になった事はな……いや、よくあるが。



『お前らは知らない事が多すぎる、オレらも別にタダで人を殺してくれなんて言わない。お前らの記憶を戻す手助けをさせて欲しいんだ』


投げ飛ばされたままの姿勢の綺羅が言った。起き上がろうとするも頭が抜けないので、結宮が綺羅の体をまさぐり記憶の欠片を取り出した。


『これ、見覚えあるよね?協力してくれるなら、君たちにこれをあげる』


「分かったわ、一旦考えさせて。だから明日以降いつでもいい、適当な日にまたここに来て。それからまた話し合いましょう」


『了解、いい返事待ってるよ。じゃあ綺羅、行こうか』


結宮葵は店の床に頭が突き刺さったままの綺羅を引っこ抜いた。くるっと回って「またね」と言うと同時に綺羅も消えるようにその場からいなくなってしまった。

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