再開
「ニーナちゃんは、ずっと独りだった私に寄り添ってくれた家族みたいな人だった。そr………」
言葉を止めた真矢は虚無を見つめながら細い息を吐いた。これ以上余計なことを話さないよう慎重に言葉を選ぶ。
「………………そうね。これ以上私のつまらない話を聞いても意味が無い、こんなもんでいいでしょ?」
「情報は多くて悪いことない。…が、まぁうん、もういいだろ。うん、もう十分だ」
蒼はここで追求するのが悪手だと分かっていたものの、自白剤の効果で口が先に動いてしまった。焦って訂正したが手遅れだ
「“情報は多くて悪いこと無い“なら、あんたこそ追ってた結宮葵と綺羅の事、もっと詳しく話しなさいよ。居場所の手がかりになる事言ってたかもしれないでしょ?」
手遅れも手遅れ、蒼は自分の口を呪ってやろうと思いながら話す。
「そうだな……結宮葵は誰かに指示されてここを訪れた口ぶりだったな。あと、綺羅は何か言ってたか。そうだ、結宮葵に向けて2700番とか声かけて……」
真矢は“2700番“と聞いてバッと立ち上がった。話が中断され、蒼はそこで話をやめた口を「よくやったぞ」と心の中で褒めてやる。
──────────────────────
真矢が放心している内に蒼は仕方なく書類を取り出し、まとめた文章の名称部分を黒で塗りつぶしていく。全て塗り終え、片手で書類を机に置いた蒼はコーヒーを飲みにカウンター席に向かう。
「ほら、お前の分もやっといたぞ。そろそろ戻ってこい。つまり、ニーナと結宮葵…2700番か?が同一人物ってことか?」
すとんと椅子に座った真矢はまだ状況を飲み込めていない。
「……そう、なんだけど…瞳の色が……」
『ニーナを呼んだのは君かい?』
気配がしなかった。2人はこの感覚をついこの間経験したばかりだ、誰かなんて見なくてもわかる。──────結宮葵だ。
蒼は結宮を警戒しつつ、余裕をもって振り返った。
「はっ、今度は堂々と店の中にご登場かよ」
見えたのは空間を跨いで店に侵入してきた結宮葵。それから、その後ろでため息をついてる綺羅だった。蒼の瞳孔は狭まり、嘲笑気味の笑顔が張り付いて動かない。
「ほっ」と着地した結宮がキョロキョロと店内を見渡すと真矢が居ないことに気がつく。
「お客様、今回はどんなご依頼でしょうか?」
声は上からだった。真矢が水泡で浮かんで結宮達を見下ろしている。綺羅も店に侵入してくると疲れた表情で全員をなだめる。
「えーと真矢さん?でしたっけ?そんな警戒しないで下さいよ。蒼も葵も、とりあえずこっち来い。」
だが誰も集まらない。綺羅は「クッソ、この個人主義者共が」という言葉を直前で飲み込んだ。カウンター席に向かい、蒼の隣に座る。
「依頼、というより協力したい事がある。葵が“誰か“に言われてここを訪ねたのは知ってるよな?…そいつを殺したい」
話す綺羅の首には剣が突き付けられていた。
「物騒だな、今は死にたくないんだ。これ下ろせよ」
「お前は質問に答える義務がある、答えろ。“お前は誰だ“」
唐突な質問に綺羅はふっと笑って答える
『綺羅だよ』
「…………例えば、お前が綺羅の名を騙る偽物なら俺は容赦なくお前を切る。…でも、もしも本物なら、俺は惜しまず綺羅に協力する。」
沈黙の後、蒼は真矢に向けて言う
「お前はどうする」
真矢は蒼の問いには答えなかった。くつろぐ結宮葵を上から見下ろす眼差しは怒りと軽蔑を含んでいる。
「…私も、あいつと同じ質問をしていい?“貴方は誰?“」
『あなたの家族だったニーナ。今は結宮葵って名乗ってる』
なんて事ない風に答える結宮を見て、真矢は歯噛みして大きく息を吸った。
「知ってると思うけど、ブランコの瞳は前世で思い入れの強い人物が映ると色が変わるの。ニーナちゃんは私の家族、あの子の瞳は赤だった。」
結宮はようやく上を向いて真矢と目が合う。笑う表情を見せる結宮の瞳は橙色をしていた。
「もう一度聞くけど、貴方は誰かしら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます