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「おい、待て!」


結宮葵が住宅の屋根を踏み台しにてどんどんと速度を上げて逃げようとするのを蒼は必死になって追いかけていた。


『そんな殺意むき出しの相手を前にして止まれる度胸はないよ、それともこの男に見覚えでもある?』


「お前こそ、そいつの何を知ってるんだ」


結宮葵は声を荒らげる蒼から距離をとる為、空に向けて弓を引き矢を放った。そして自身も上方向に飛び跳ね、放った矢を踏み台にして更に速度を上げてにげた。だが蒼は結宮葵の後ろを着いて離れようとしない。


『あのね、私は何も知らないよ。

………………ある人に合流しろって言われちゃってね。この人も来るよう言われてるはずなんだけど全然来なくて』


「…………来るって、そいつが、か?」


写真を見ながら言った結宮葵の言葉は後半になるにつれてか細くなっていたが、蒼はそれを一言たりとも聴き逃してはくれなかった。ここまで知られてしまっては隠す方が面倒だと思った結宮葵は諦めて情報を吐いた。


『そう、この写真の男』


蒼は俯いて一瞬止まった。それから息を吐き、ばっと顔を上げて結宮葵を追う速度を更に早めた。


『え、ここれ私には無理っ…』



『あ、死ぬなこれ』そう思った結宮葵は覚悟を決めて目を閉じた。しかし蒼に追いかれるあと一歩の所で2人の間に黒いモヤが現れ、そこから人が飛び出してきた。蒼はその人物に見覚えがある、それは何度も会いたいと望んだかつての相棒の姿によく似ていた。情報の洪水で蒼は無意識にその名前を呼ぼうとしていた。


「き……」


『2700番ってお前か?!』


突如現れた人物は切羽詰まった様子で結宮葵に向けて声をかけた。結宮葵は咄嗟にその人物が現れたモヤへ飛び込み、蒼の目の前から消えてしまった。そこに残ったのは蒼と、静けさを告げる空だけだった。





────────────────────────




「…ッ!……う、ぅ」


蒼と結宮葵が飛び出し、店に取り残された真矢は耐え難い頭痛に苦しんでいた。


蒼と結宮葵が飛び出し、店に取り残された真矢は記憶の復元によって耐え難い頭痛に苦しんでいた。たった今、記憶の欠片が大きな反応を示したのだ。


結宮葵が入ってきた時、真矢は記憶の欠片が淡く光っていたのを確認した。これは欠片に内蔵される記憶と関連のあるものが近くにある証拠だ。


“”真矢の過去の記憶に結宮葵が関連している“”。それはきっと過去に2人が出会っているということなのだろう。真矢の記憶てはここ500年、結宮葵に会った覚えがない。


ならば500年以上前の記憶が欠如している期間に、結宮葵の前世と関わりがあったのかもしれない。…なんて推測もすぐに砕かれた、いざ確認してみると結宮葵の瞳の色は変化していなかった。ブランコである結宮葵が前世で出会った人と再開すれば赤・青・黄色のどれかに瞳の色が変化するはずなのに、結宮葵の瞳は依然として淡いオレンジであった。


まぁ、記憶の欠片には不明な点が多い。「過去に出会った」というほど親密に関わりが無ければ記憶の欠片が反応しないというのも、ここ数十年で解明したばかりの事実だった。


真矢は今回の記録を元に、結宮葵も同伴させてこの記憶の欠片を再調査しようとしていた。だが長年の調査から得られたものは片手で数える程しかない。だから、「どうせまた記憶の欠片が誤作動を起こしただけなんでしょうけど」うなんて気楽に構えていた



「なのに何で、あの子との記憶が溢れてくるんだろう。……違う!あの女性とは今日初めて会ったんだ。忘れるもなにも無いはずだ。」


でも──────




あの子は あの女性は








誰だ

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