黒猫探し3

夜が明け、蒼は朦朧とした意識のまま目を開けた。不機嫌そうな顔で昨日の事をぼんやりと思い出しながら立ち上がる。


「久しぶりに倒れるように寝たおかげで体のあちこちが痛たい……あとで元凶まやに治して貰おう…」と考えながら小さなお客様を迎えるためゆっくりと店の扉を開けた。


そこには黒猫が1匹、ちょこんと座っている。そう、かなり脱線していたがこれは元々黒猫を捜索する依頼を引き受たという話だった。昨日蒼と真矢が街に捜索に出た際、ただ無意味に飛び回っていた訳では無い。あの時に“仕掛け“をしていたのだ。


蒼が店の入口に座っている黒猫を抱きかかえ、店に入ると床から声が聞こえてきた。


「いらっしゃーい」


寝た時の体制のまま、起き上がる気配を微塵も見せない真矢の声だ。


「…起きてたんならお前が出ろよ」





「この子やけに大人しいわね、仕掛けを撒いといたおかげ?このまま欠片取り出せそうじゃない?」


「めんどくさい事押し付けといて簡単そうに言うなよ」


蒼は作業に取り組んでるところに口を挟んできたのに苛立ちを感じつつだるそうに返事を返した。ため息をついて軽く肩を落とすと、それを見て真矢は首を傾げながらふっと笑う。


「あんたは戦闘担当、私は補助担当だから。この猫が凶暴化した時、私じゃ対処出来ないでしょ」


対処できない、蒼はこの言葉に笑ってしまいそうになるのを抑える。俺と出会う前、1人で依頼をこなし、信頼を得てきたのは誰だったか。しかも最近は過剰治癒も実践でも使えそうな段階まで練り上げてきている、こいつに「できない」事なんてあるのだろうか。どうせこの作業も真矢がやった方が早い


「…てか、まだ取り出せてないの?私ならとっくに終わってるんだけど」


(言った、こいつ言ってきたぞ。自分で押し付けといてそれ言うのか。だったらお前がやれよ)蒼は心の中で愚痴を吐いた。また口喧嘩するのは非効率的で時間の無駄だからだ。


「だったらお前がやれよ」


声に出てた。

真矢の顔が臨戦態勢になる前に、蒼は持ち前の瞬発力と対応力で「別に俺がやるけどさ」と即座に付け加えた。止めかけた手を動かし作業を再開させる。



作業を初めてから約1時間。蒼は慎重に記憶の欠片を取り出し、それを机に置いた。その瞬間、蒼と真矢の視線はその1点に注がれピクリとも動かなくなった。


角度によって4色に光って見えるその欠片は小さいが無造作に置いただけでも存在感があり、それは恐怖すら感じそうな程である。2人は欠片を見つめ続けたがしばらくして蒼が口を開く。


「ハズレだな」


「当たりでしょ」


即座に正反対の答えを出した真矢は更に続ける。


「今回のこれは私の記憶らしいわね、わざわざ頑張ってもらったのに…悪いね」


絶対に悪いと思っていないしたり顔で真矢は謝った。蒼は心の中でいつか見返してやると誓った。

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