黒猫探し2

昼から一転、この街は暗闇に包まれ裏世界とも思える異様な空気を放っている。明かりは一切なく、人は路地裏にたむろする治安の悪い連中くらいしか居ない。


捜索にあたり2人は家々の上を飛んで行くとこにした。別に歩いてもいいのだが疲れるし、万が一でも人に見られると後処理がかなり面倒になる。


蒼は空間操作で足元に透明な箱のような空間を造り出し、その上を歩いたり飛び跳ねたりして進んでいる。その後ろを真矢がシャボン玉のような丸い球の中をでゆったり座って追いかけている。


この水泡は真矢にも何なのかはよく分かっていない。どんな衝撃を与えたところで中からも外からも破壊できないのだが、真矢が元々付けていたネックレスの飾りを球の表面に当てるとパンっと弾けて割れるのだ。



蒼も真矢も色々な能力を使いこなしているが本来それを“いつ、何のために使っていたのか“すら思い出せていない状況だ。ここ数十年より前の事はまばらにしか覚えていない。


蒼は自衛として咄嗟に空間操作を使えたが、それに対し真矢は「引きこもっていたい」と強く思ったらいつの間にか絶対防御の水泡の中に居たらしい。しかもその中に居た期間いうのが本人曰く3年だそうだ。ブランカだろうと飲まず食わずで狭い場所に3年も閉じ込められていれば気も狂う。が、真矢は3年くらいなら瞬きの間に過ぎてると言うのだ。



飛ぶ鳥を追い越す速さで夜を駆ける2人の間に会話は無い。これで捜査が成り立っているのは嫌いなのと同等にお互いが信頼し合っているからだ。


小一時間捜索したが手がかりすら見つけられず、2人は最後に街を大きく1周飛び回ってその日の捜索を終えた。


◾︎

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黒猫という情報しか与えていないので捜索が難航しているだろうか?まぁどうせ明日にでも捕まえてくるだろう、いつらは優秀すぎて嫌になる。さて、そろそろ私の時間だ。


準備を続けよう。


◾︎

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店に戻った蒼と真矢は今までに完遂した依頼の資料制作をしていた。少し前までは何でも屋らしい“普通“の仕事が多かったのだが、最近になって「記憶の欠片」関連の依頼が多くなりデータとしてまとめることにした。


「ってか俺らの記憶が結晶化してちりじりになってんのも謎だけど、何だよ、他者が取り込むと凶暴化するって…誰が考えた設定だよ。そもそも記憶の欠片とかいう安直な名前もどうにかならないのかね」


作った資料をホチキス止めしながら蒼は文句を言い続けている。ちなみに名付けたの真矢だ。そして、その真矢は「口動かす暇があったら手を動かせよ、手を!ぶん殴るぞ」と視線で訴えかけていたが蒼はあえて無視している。真矢に気を配るなんてそれこそ時間の無駄だ、と思っていたら


「この前の“古の剣士“の資料はもう出来てる?それは私に渡してよね」


と、真矢は表情も変えずに言った。蒼は怒りやら羞恥やらで目を白黒させながら真矢の方をばっと振り向いた。なるべく冷静になろうとしたが怒りが勝った


「なんでお前がそれ知ってんだよ!」



この事件は蒼がこの店に来てすぐ起きた事だ。人通りの少ない路地で剣の練習をしていたら、タイミング良く野犬が飛び込んできてそのまま切りつけてしまった。


この時、綺羅の死をずっと恐れ囚われていた蒼の何かがプツンと切れる音がした。蒼の「死」に対する恐怖心が最高に達したのだ。


「お前なら治せるだろ?僕が切ったんだ!…違う「俺」がだ。っ頼む、こいつを治してやってくれ。」


犬をだき抱え店に戻った蒼は真矢に懇願した。少し驚いた顔をした真矢はその犬に手をかざし傷を完全に治癒し、傍らにあった欠片を拾った。これは蒼が綺羅と過ごした路地裏での詳細な記憶を有した記憶の欠片だったのでかなりの収穫だった。

これを機に蒼の言動は多少落ち着いたもののこの時の蒼は違った。


蒼が犬を切る現場を通行人に目撃されていたので隠蔽工作の必要があることが判明し、真矢は蒼にその任務を一任していた。そこで蒼は犬が怪我をしていた部分にケチャップをかけた上で大道芸人の振りをした。犬を切ったのは通行人の見間違えだったという事にしようとしたのだが、あまりにも効率が悪い上に滑稽なので蒼の中では黒歴史となっている。



居酒屋で情報収集していた際、この話題が出てきた時には押し黙ってしまった。脚色されてる上に「古の剣士」とか変にかっこつけた名称に血の気が引いたからだ。


(真矢には絶対言わないようにしていたのに何でこいつはこの話を知ってるんだ?)


蒼が怒りで手を出さないよう、必死で自分を抑えていると真矢がにやっと笑った。


「不快だ、やめろ、そして忘れろ」


纏めていた資料を机に叩きつけてその場を離れようとしたがそれより早く真矢が口を開いた。


「本当に私があんたを自由にしとくと思ってんの?」


「は?」


「帽子の裏」


1秒の沈黙の後、蒼は即座にコートを脱いでフードの裏を確認した。そこには小型のマイクのようなものが付いている。これを見た瞬間、蒼の心臓は鼓動を早めたが怒りによるものなのか驚きによるものなのかは分からない。


これは依頼で何度も使った事のある代物なので蒼が見間違えるはずが無い。


音声複製機、つまり盗聴器だ。

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