ある男共が酒屋で酒を飲みあっていた中、ボサボサ頭で眼鏡をかけた1人の噂好きが


「なあなあ、“2人の化け物が営む何でも屋“って知ってるか?」


と周囲へ問いかけた、同じ卓を囲んでいた数名が「そんなの聞いたことないぞ」と怪訝そうな顔をする。噂好きが若干うろたえているとそれを見かねてフードを被った少年が


「俺も聞いた事がないな、それってどんな店なんだ?」


と問いかけた。その少年は大人とも子供ともいえない不思議な雰囲気をしていて、この騒がしい酒場と不釣り合いに思える風貌だ。自分のペースを取り戻した噂好きが話を続けようとした。だがそこに噂好きの顔なじみが茶化したように少し笑って言う。


「お前の噂話か、どうせまた嘘なんだろ?この前は慰霊山に“どんな傷でも治す泉“があると言った。実際にそこに行った者たちの重症はおろか、道中につけたかすり傷すら治らなかった。もっと前の“夜に現れる古の剣士“の話なんか最高だ。切りつけられたはずの犬は結局無傷で、血だと思っていたものはトマトジュースだった!」


最後まで言い終えると辺りは笑いに包まれ「そりゃ信憑性がありそうだ、その化け物屋とやらの話も早く聞かせてくれ。さぞ面白い話なのだろう!」と、また誰かが声を上げた。酒場では他人の失敗談はかなり好かれるジャンルだ、噂好きが恥をかく様子が楽しみで仕方ないらしい。だがそんな嫌味を気にもとめず、仕切り直して噂好きは話し始めた


「化け物屋じゃなくて何でも屋だ。そこの店員はたったの2人なのに受けた依頼は全て完璧にこなす、その手際の良さはまるで化け物のようだが“化け物“と呼ばれる理由はそこじゃねぇ。人の形をしているが何年経っても姿が変わらず、何百年と生き続けているらしい。」


「何百年と?ブランコとは違うのか?」


 ブランコとはいわゆる輪廻転生者だ。だが前世から引き継ぐ記憶がまちまちではっきりしない。そんな宙ぶらりんな状態から“ブランコ“と呼ばれるようになったのだ。だがそんなブランコにもあやふやな前世を紐解く手がかりがある。


 前世で少しでも関わりがあった人と出会うと目の色が変化して過去を思いこさせる。目の色は前世の相手に対する想いに由来し、


 出会ったのが「街中ですれ違った人や若干の顔見知り程度の人」ならば目の色は“青“に「その人物とそれなりの関わりがある人や親友」であれば“黄色“に、「家族や恋人」であれば“赤色“になる。


けれどこの“赤“が厄介で、強い愛情のほかに強い憎悪にも反応して赤に染まってしまう。ほとんどのブランコはその赤色を恐れて目の色が変化しないように特殊なレンズを加工した眼鏡を付けている。目の色が変わらなければ前世を思い出すこともないし、一見すればただの人と変わらない。



 先程の「ブランコとは違うのか」という問に噂好きは待っていましたと言わんばかりに目を輝かせてまた話し出した


「そう、ブランコが輪廻転生ならそいつらは不老不死だ。差別化のために“完全なるブランコ“という意味を込めて『ブランカ』と呼ばれているそうだ。」


周囲の視線はいつの間にか噂好きに集中していた、「ほう…」と少し考え込む者や、今の話を酒の肴にして楽しそうに晩酌する者もいた


「そういえばお前もブランコだったよな」


 噂好きの顔なじみはニヤニヤしながら唐突に言い放った。噂好きが青ざめた顔でハッとそちらを振り返った瞬間付けていた眼鏡が顔なじみに振り落とされ、先程噂好きをフォローしてくれたフードの少年と目が合った。


少年はまずいと思ったのかその場から逃げ出すように走り去っていった。そのとき、噂好きの目は黄色に輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る