第42話 結果の報告

「やっべ………ちょっとのぼせたかも」


 顔を赤く染め上げた俺は、タオルで髪を吹きながらリビングへと戻ってくる。


 マトイの事を考えていたら、いつの間にか30分程度湯船に浸かっていた。

 

 頭がクラクラする。何か、飲み物を………。


 キッチンに行って頭にタオルを被せたまま、食器棚からコップを取り出し水道水を注ぐ。

 コップ1杯に溜まった水道水を口から胃に流し込んだ。


「くぅぅぅ………! 生き返るぅ!」


 あぁ、喉が渇いた状態で飲む水と言うのは、どうしてこうも美味なのだろう。


 もう1杯~。

 俺は再び水道水をコップに注いだ。


 水道水入りのコップを片手に、俺はソファへ向かう。

 ダイニングテーブルの横を通り過ぎようとした時、テーブルの上にある食器に視線が向く。


 俺がマトイに作った夜食が、綺麗に無くなっているではないか。


「………マトイ、食べてくれたんだな」


 風呂に入る前、マトイに夜食の事を言った時の反応からして、食べてくれなさそうな気がしてたんだが。

 まぁ、寝てたみたいだから、寝起きであんまり活気がなかっただけかもしれないけど。


 それでも、ちゃんと食べてくれた事に俺は自然と嬉しさが込み上げてくる。


「………手紙は、見られてないっぽいな」


 だが、残念な事に、俺がマトイに書いた手紙は気づかれなかったのか、お皿の下に挟まれたままだ。


 堂々と手紙を置いていたら、それこそご飯を食べてもらえないと思ったから、あえて見ずらいように手紙を添え、気がついて読んでくれればいいと思っていた。


 読まれてないなら、それはそれで仕方ない。


「とりあえず、まずは片付けるか」


 俺は水道水をグイッと飲みほすと、お盆の上に乗せてまとめてキッチンへ持って行った。


☆☆☆


 夜19時。

 ソファに座って天井をじっと眺めながらボーッとする俺が居た。


 弱まっていた雨も、だんだん強くなりだし、雫が叩きつけられる音が響き渡る。


 そんな中、俺はふとある事を思い出して、目の前のテーブルからスマホを取ると、電源を入れる。

 そして、メールアプリを起動させ、三坂さんとのメールのやり取りを開く。


 そこには、三坂さんからある1本の動画が送られてきていた。


「……………」


 俺はその動画の再生ボタンを目の前にして、動きを止めた。


 


 時は遡り、朝11時頃の事。

 マトイが寝室に籠って、俺はマトイのお父さんに電話をかける。


『あぁ、瑞希君。どうだったかね?』

「はい、一応理由は聞けましたが………逆にマトイを怒らせてしまったようです」

『マトイを怒らせた………? まぁ、それは後で聞こう。理由を聞かせてくれたまえ』


 俺はマトイとの出来事について、一部を除いてありのままマトイのお父さんに伝える。


『なるほどな。瑞希君の話が本当なら、マトイは勘違いをした事になるな。だが、瑞希君が悩み事をしていて、マトイがそう勘違いすると言う事は、マトイから見て瑞希君から出ている雰囲気が暗く見えたのだろう』

「……………」

『そして、マトイが怒ったと言う件についてだが、話を聞く限り、1つしかないな。これに関しては、瑞希君も分かっているんじゃないかな?』

「………はい」


 あの時のマトイの言葉が脳内を横切る。


(『私との許嫁関係は、『ただの』許嫁関係だって。』)


『瑞希君は、マトイがどれほど努力を積んできたか分かっていない。正直、私も少し君にガッカリしているよ』

「……………」

『瑞希君。君宛てに三坂君の電話番号を送ろう』

「えっ? 三坂さんの?」


 三坂さん………その人は、マトイの教育係を請け負っているメイドさんだったかな。

 マトイの別荘で生活していた時は、とてもお世話になった人だ。


『あぁ、彼女はマトイが産まれた頃から教育係として任せてあったからな。マトイの事をよく知っている。彼女に話を聞いて、君はマトイの努力を知らなければならない』

「……………」


 確かに、別荘を離れて1人暮らしを始めてから、俺は自由気ままに過ごしてきた。

 そんな中、マトイは目の見えない所でとてつもない努力をしていたのは知っているが、詳しくは知らない。


『私もまだ仕事があるのでね。今回はここまでにしておこう。電話を切ったら電話番号を送る。瑞希君、くれぐれも………よく考えてくれたまえ』


 そして、マトイのお父さんは電話を切った。


 それから1分も経たない内に、俺宛てに電話番号だけが書かれた1本のメールが届く。


「これが、三坂さんの電話番号………」


 このメールアプリは、電話番号だけを書いて送る事で、その電話番号をタップすると直接電話アプリが起動し、自動的に電話をかけてくれるシステムである。


 この電話番号をタップするだけで、三坂さんの携帯に繋がる。


 俺は少し躊躇したが、人差し指で電話番号をタップする。

 すると、電話アプリが自動的に起動し、俺はそっとスマホの先端を耳に当てる。


『はい、もしもし? どちら様でしょうか?』


 スマホから久しぶりに聞く女性の声がする。


「もしもし、三坂さん。お久しぶりです。瑞希です」

『えぇ!? 瑞希く………じゃなくて、瑞希様!? お久しぶりです! お元気でしたか?!』

「はい、ですが………今はちょっと」

『あら、どうかされましたか?』

「あの………実は」


 そして俺は、三坂さんにマトイとの出来事を今度は全て話すのであった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2人の時は超デレデレ、複数人の時は超塩対応な財閥令嬢に、今日も俺は悩まされる。 雪椿.ユツキ @Setubaki_Yutuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ