第29話 雨宿りする2人
ザーザーと一向に弱まる気配のない大雨の中、ずぶ濡れ状態の俺とマトイは、何もする事が出来ずただ雨宿りをしているだけ。
髪の毛の先や、服の袖などからポタポタと雫が垂れる。そんな中、俺はバックを開いてある物を探していた。
「………はぁ、こんな大雨じゃ、こいつもあんま意味ねぇな」
俺が取り出したのは、黒い折り畳み傘。一応大きめのサイズではあるから、2人程度ならスペースに問題はない。
だが、今目の前で降り注ぐ雨は、まるで
「困った困った。こちとらずぶ濡れ状態………このまま雨が弱まるまで待ってたら、間違いなく風邪引いちまうなこれ」
「仕方ありません。お父様に連絡して、迎えを手配してもらいましょう」
バックの中からスマホを取り出し起動するマトイ。手慣れた手つきでスマホを操作すると、スマホの先端を耳に近づける。
「もしもし、お父様………はい、マトイです。すみません、大雨警報が出てる事に気がつかず、瑞希さんと学校に来てしまいまして。傘も無いので、動けない状態なのです………はい、お願いします」
スマホを耳から離し、スリープ状態にする。
「今から迎えの車を手配してくれるそうです。ただ、お父様の居るメイン屋敷からなので、早くても30分は掛かるとの事です」
「30分かぁ、その間このままって訳ね」
長い………けど、いつ弱まるか分からないまま待ち続けるよりはよっぽどいい。
時刻は朝7時21分。まぁ、早ければ8時には帰れるって訳か。
「これじゃあ体温奪われるばかりだな。自販機で温かい物買おうにしても、運動場付近まで行かねぇと自販機ないしな」
「……………」
俺が頭を悩ませていると、マトイは軽く周囲を見渡す。そして、一歩俺との距離を縮めた。
だが、ちょうどマトイから視線を逸らしていた俺は、マトイが一歩距離を縮めてきた事に全く気がつかなかった。
「あっ!? いっけね!? スマホポケットに入れっぱなしだった!? 大丈夫かこれ!?」
ふと思い出した俺は、びしょびしょになったズボンのポケットに手を突っ込む。そしてスマホを取り出して、電源ボタンを押した。
幸いにも、スマホは普通に起動した。もしかしたら水に濡れて壊れてんじゃないかと焦った。
スマホが無事だった事に、ふうっと一安心する俺。
すると、マトイは再び一歩俺との距離を縮め、互いのブレザーの袖が触れ合うほどまで近づいてきたマトイは、緩く俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
「お、おいっ、マトイ?」
腕を絡めてくるだけでなく、マトイは俺に寄りかかり、自分の身を預けてくる。
「マトイ………あの、外ですけど」
「………今は、誰も居ないようですし、何より暖を取らなければ体温が奪われるだけでしょう?」
「それはそうだけど………」
人肌で暖を取る………確かに、何もしないよりかはお気持ち程度にマシではあるが、お互いに触れ合っている所が極一部。
だがしかし、マトイに向けた視線を少し下にずらした時、俺はある事に気がついてしまう………。
☆☆☆
迎えを待つ事およそ15分。
お互いに腕を絡め合って以来、何も喋る事がなくとにかく沈黙が続いていた。
「………ヘックチュッ!」
「………?」
突然隣でマトイが可愛いらしいくしゃみをした。
「大丈夫か?」
心配になった俺は、マトイにそう問いかける。
「………はい、心配をかけてしまいすみません。ですが、さすがにちょっと………寒気がしてきたもので」
マトイはもう片方の腕も絡めてくる。そして、可能な限り体を俺に密着させる。結構長い間ずぶ濡れの状態で居るからか、さすがに体温が下がってきているのかもしれない。
少し寒そうにするマトイを見て、俺は一旦マトイから腕を引き離す。
「………?」
腕を引き離されたマトイは、少し驚いた表情をするが、やがて小声で「ごめんなさい」と謝ってくる。
どうやら、腕を引き離された事によって、鬱陶しいや邪魔などの迷惑をかけてしまったと思わせてしまったのかもしれない。
「いや、別に迷惑とかじゃないぞ。ただ………」
俺はバックを地面に置いて、自分のブレザーを脱ぐ。そして、脱いだブレザーをマトイの背中からそっと着せた。
「………!」
ブレザーを着せられたマトイは、目を大きく見開く。そして、俺の目に視線を向けた。
「寒そうだったから、ブレザーを脱ぐ為に腕を引き離した。それだけ。濡れてて申し訳ないが、それ着てろ」
「……………」
その言葉を聞いたマトイは、俺のブレザーを片手でギュッと握る。そして、ブレザーの襟元で自分の口元を隠すと、ほんのりと笑みを浮かべる。
「あと、ブレザーの下………結構透けてるから目のやり場に困る」
「………っ!?」
その指摘を受け、マトイは自分の胸元を見る。すると、ブレザーの下に来ている白いシャツが透けており、マトイの胸上の肌が浮き出ていた。
それを見たマトイは、顔を赤らめその場でバックからもう片方の手を離し、両手で即俺のブレザーを使って体を覆い隠した。
「………こんな状況でも、女の子の胸を見るなんて………エッチですね」
「うっせー」
顔を赤らめたまま、マトイは俺に鋭い眼差しを向ける。
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