第6話 結局
勢いのまま家から出て来てしまったが、何をするべきか………。
特にあてもなかったから帰ってきたっつっても、今戻った所で気まずいだけだもんなぁ。
あぁ~クソッ! なんたってマトイの奴はあんな派手な事を………。そこまでして俺に構って欲しかったのかよ?
だが………実際あの時、ちょっとばかしマトイの事を意識しちまった俺が居る。
マトイは、確かに俺の許嫁だ。20歳になったら結婚を約束している存在ではある。でも俺は、あまり乗り気ではないんだ。
だって、マトイの父親による決め事だからだ。両親を事故で亡くしてから、俺を助けてくれた人からのお願いだ。断れる訳がない。
俺だって1人の男だ。別にマトイが嫌いとかじゃないけど、結婚するなら本当に思いを寄せる相手と結婚したい。それが俺の本音だ。
「けど、もう約束しちまったしなぁ。今さら断る事なんて出来ねぇよ」
正直な所、マトイは将来俺の嫁になる存在だが、全くマトイの事など意識してなかった。考えてもいなかった。
だって、1人で送る高校生活が楽し過ぎたから。
なんなら、今日マトイが転校してくるまでは結婚の事なんてすっかり忘れていた時もあった。それだけ、高校生活を満喫していた。
そして今さっき、初めてマトイを1人の女性として意識してしまった。
「……………あぁ、クソッたれ!」
ダメだ、マトイの事が頭から離れなくなった。これは非常にいかん。
「とりあえず、何か飲もう」
一旦脳内のリセットが必要だと判断し、俺はエレベーターを使って1階のロビーへ降りる。
ロビーには自動販売機に加え、丸型のテーブルや椅子が数個設置されている。フリーで使える休憩スペース的な感じか。
自動販売機の前に移動した俺は、ズボンのポケットに手を入れながら、何を買おうか選び出す。
しかし、ポケットの中に財布が入ってない事に気がついた。
「あっ、財布………バックに入れたまんまやん」
そうだ、コンビニで飯を買った時にバックの中に入れたのをすっかり忘れていた。
マジかぁ………俺はそう深々とため息を吐くと、仕方なく再びエレベーターに乗って戻る事にした。
家を出てすぐに戻るのはどうかと思うが、財布が無ければ飲み物はもちろん買い食いだって出来ない。
外だとネットの通信料が発生するから、極力スマホを使いたくもないし。
FreeWi-Fiを使う為だけにコンビニまで行くのもさすがに面倒くさ過ぎる。
結局戻って来た俺は、玄関の扉を開いて靴を脱ぎ、そのままリビングへと歩いて行く。
どうマトイと顔を合わせるべきか………そう考えながらリビングに入る。
しかし、さっきまでソファに座っていたマトイの姿が見当たらない。
「あれ? マトイ?」
気配が全くない。
まさか、俺が出て行った後、マトイも家から出て行ったとか………?
俺は考えるよりも先に体が動く。玄関へ戻って靴を確かめるが、俺の靴ともう1つ、マトイの物であろう知らない靴がある。
どうやら、家から出ては居ないようだ。
俺がエレベーターを使っている間に、階段を使って降り、すれ違い状態になったのかと思った。
靴があると言う事は室内のどこかに居る。どこだ?
とりあえず、近くの脱衣部屋から見てみるか。
そして俺は、一番近い脱衣部屋の扉に手をかけて、ガラガラってスライドさせる。
「マトイ?」
「……………!」
脱衣部屋の扉を開くと、そこにはマトイが居た。
制服を脱いでおり、高校生のわりにはそこそこ膨らんだ胸を支えるブラジャーが露出されており、ちょうど今からスカートを脱ごうとしていた最中だった。
露出された上半身、こうして見るとすごいスタイルが良い。アイドルやモデルとしてデビューすれば一瞬で人気が出るだろう。
さすが、『神が産み出した美女』と呼ばれているだけはある。
「……………」
「……………」
俺とマトイはお互いに目をパチパチとさせながらピクリとも動かない硬直状態。
そしてマトイは、俺が帰って来てた事に気づいておらず、突然現れた俺に自身の脱衣シーンを見られた事に、顔が火照っていく感覚を覚える。
「あ、あの………」
マトイが何かを話そうとしたその時、俺は扉をバタッと閉じた。
結構な勢いだったから、閉じた時の音の大きさに、マトイはビクッと体を震わせていた。
突然扉を閉められた事に、マトイは目をパチパチとさせながら唖然とする。
その後、扉越しからマトイが話しかけてくる。
「シャワー………お借りします………」
「………どうぞ」
俺は真顔でそう返事を返す。そしてボソッと呟く。
「本当にさ、なんちゅう………タイミングやねん」
全くだ。
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