第5話 相手してくれないから

「ねぇ~あなたぁ~、ねぇ~え!」


 昼食を終えた俺は、ソファに座ってスマホゲームをする。だが、マトイがくっついてくる上、俺の体を揺さぶってくる。全く集中出来ない。


 こんなはずじゃなかった。本当なら、静か空間の中ダラダラとゲームしたりアニメ見るつもりだったのに。


 正直に言って、かなり邪魔だ。


「ねぇ~あなた! 構って!」

「嫌だよ。俺は俺の時間を過ごしたいんだ。邪魔しないでくれ」

「邪魔っ………!?」


 邪魔と言う言葉が胸にグサッと刺さったマトイ。

 腕を握る力が弱まり、魂が抜けたかのようにコテッと俺の肩に倒れてくる。


「邪魔って言われた………ミズキに邪魔って言われた………もう死んでもいいかな」

「………はぁ、悪かったって」


 ドヨーンと落ち込むマトイにため息を吐きながらも、俺はマトイの頭を撫でる。

 頭を撫でられたマトイは、瞬きする間に明るく元気な表情に戻り、また抱きついてくる。


「へへっ、えへへ~っ、ミズキだぁい好きぃ!」


 本当になんなのだこの変わりようは。全部演技なんじゃねぇのか?

 そう疑ってもおかしくないくらい、マトイの感情の変わり具合は激しい。


 そして、当たってる。いや、当ててきている。女性特有の柔らかいものが。


「なぁ、いい加減離れてくんね? ゲームに集中出来ない」

「むっ! ゲームと私、どっちが大切なのっ?」

「ゲームだろ」

「即答………っ!?」


 ゲームだろと言う言葉が胸にグサッと刺さったマトイ。

 腕を握る力が弱まり、魂が抜けたかのようにコテッと俺の肩に倒れてくる。


 ………あれ? デジャブを感じる。


「ゲームって言われた………私なんかよりゲームの方が大切だって言われた………将来ミズキのお嫁さんになるのにゲーム優先って言われたぁ………」

「………あーはいはい。悪かったって」


 ドヨーンと落ち込むマトイに少々呆れながらも、俺はマトイの頭を撫でる。

 頭を撫でられたマトイは、瞬きする間に明るく元気な表情に戻り、また抱きついてくる。


 うん、デジャブだ。


「へへっ、えへへ~っ、ミズキだぁい………」

「はいはい。大好きチュッチュッね。分かった分かった」

「………むぅぅぅ」


 眉間に眉を寄せてぷっくりと頬を膨らませる。


 マトイは全く相手にされない事に諦めがついたのか、俺の腕に抱きつくのをやめて離れる。


 お? ようやく分かってくれたか。これでしばらくは気楽にゲームが出来る。そう思っていた。


「ねぇ、あなた」

「瑞希って呼んでくれ」

「ねぇ、ミズキ」

「なんだ?」


 何やら真剣そうな顔をするマトイ。もしかしたら、ちょっと怒ってる?

 さすがに、少しは相手してやった方が良かったか。自分より他を優先されたら………確かに複雑な気持ちにもならなくはないもんな。


 俺はマトイに対して素っ気なかった事に反省する。


「ごめんマトイ、ちょっと冷たくしすぎ………」


 マトイに謝ろうとしたその時、マトイは横向きスマホを持つ俺の両手のうち、左手をギュッと握ると、スマホから引き離して引っ張り始める。


「ま、マトイ? 何を………」


 一瞬ピタッと引っ張られるのが止まったが、次の瞬間、マトイは俺の左手を持ってグイッと思いっきり自分の方へ引っ張った。


 そして、俺の左手を自分の胸に押し当てたのだ。


「…………!?!?」


 俺は思わず驚愕する。

 マトイの柔らかな胸の感情が左手からドンドン伝わってくる。左手全体が埋まるほどに膨らんだ胸の感触、服の上からじゃ分からなかった………かなりあるっ。


 ムニュッと押し込まれる俺の左手。そして、マトイの胸に左手を押し当てられている所を実際に見ている今、下半身へビリビリとした電流が流れるっ。


「………はっ!? な、ななななな何してんだお前っ!? 馬鹿じゃねぇのっ!?!?」


 とっさに正気に戻った俺は、強引に左手を引き抜き解放。そのまま少し後ろへ下がってマトイと距離を取る。


 一方マトイは、まさにしてやったぜ的な顔で俺を見つめてくる。


「だ………だってミズキが、ぜっぜんぜん私の相………手して、くれないから………! み、ミズキが………悪いんだ、もんね!!」


 私の勝ちと言わんばかりに、腕を組んで高らかと勝者気取りをするマトイだが、眉をピクピクさせながら顔は滅茶苦茶赤い。


 くっそ恥ずかしがってんじゃねぇかお前。


 だがしかし、俺も初めて触った女性の胸の感情に、顔を赤くする。

 もう触っていないのに、まだ左手からはマトイの柔らかい胸の感触を感じる。


 今のが………マトイの胸の感触………はっ!? バカ野郎! 何考えてんだ俺!? クソッ、予想外な事過ぎて頭がおかしくなっちまった。


「だぁぁぁぁぁ!! ちょっと散歩行ってくるっ!!」

「えっ? あ、うん………いってらっしゃい」


 バッと立ち上がった俺は、スマホをそのままポケットに入れて玄関へと足を運ぶ。

 マトイも自分でした事に恥をかいているのか、追っかける事などせず、素直に送り出す。


 靴を履いた俺は、何もあてもなしに外へ出ていく。


 俺が出て行くと、マトイはソファの上で真っ赤になった顔を両手で覆い隠す。


(ドキドキが止まらない………死んじゃいそう………私ってばなんて事を………)


 マトイは頭から白い湯気が出ているんじゃないかと錯覚するくらい、熱くなっていた。

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