最終話 霧払い
霧がさらに濃くなり、美月の視界をほとんど奪っていた。彼女は、屋敷の中を手探りで進んだ。壁に沿って歩き、階段を見つけると、ゆっくりと上がり始めた。階段はきしみ、各段が彼女の重みでうめき声を上げた。上の階に着くと、彼女は長い廊下を見つけた。廊下の突き当たりには、半開きの扉があり、その向こうから微かな光が漏れていた。
美月はその光に引かれるように扉に近づいた。扉を押し開けると、そこには広々とした書斎が現れた。部屋の中央には大きな机があり、その上には古いインク瓶と羽ペン、そして散らばった紙の束があった。壁には書棚が並び、無数の本が整然と並べられていた。美月は机の上の紙を手に取り、その内容を読み始めた。
紙には、屋敷の歴史と、そこに住む家族の物語が記されていた。家族は代々、この地域を治める豪族であり、多くの財を築いた。しかし、その富は彼らに不幸をもたらした。羨望の目と敵意を持つ者たちによって、家族は呪いをかけられたのだ。その呪いは、家族がこの屋敷に住む限り、彼らの魂は霧の中に閉じ込められ、永遠に解放されないというものだった。
美月は、紙を一枚一枚めくりながら、家族の運命に心を痛めた。そして、最後のページには、呪いを解く方法が記されていた。それは、家族の末裔が真実を受け入れ、霧の中で家族の魂と対話することだった。美月は、運命に導かれるように、部屋の中央にある古い絨毯の上に立った。彼女は、絨毯の模様が徐々に動き始めるのを見た。それは、家族の歴史を象徴する複雑な紋様で、美月の足元で生き生きと踊り始めた。その様子から美月は、自分がその末裔であることを悟った。彼女の家族が何世紀も前にこの屋敷を建て、そして、彼女がその秘密を解き明かす運命にあることを。
彼女は深呼吸をし、書斎の窓を開けた。霧が部屋の中に流れ込み、美月はその中に立った。彼女は目を閉じ、家族の魂を呼びかけた。
「私は美月です。私はあなたたちの末裔です。私は真実を知りたい。私はあなたたちを解放したい」
と彼女は囁いた。
すると、霧の中から声が聞こえてきた。それは、彼女の先祖たちの声だった。
「私たちの魂は、この屋敷に縛られ、霧の中で彷徨っていた。しかし、君の勇気と愛が、私たちを解放する鍵となる。」
美月は、先祖たちの声に耳を傾けた。彼女は、家族の魂が自由を求めていることを知り、その願いを叶えるために、自分ができることをする決意を固めた。
「私は、あなたたちの末裔として、この呪いを解き放つ。私たちの家族が再び自由を得るその日まで、私は研究を続ける。」
その言葉を発した瞬間、部屋は明るい光に包まれた。霧は徐々に晴れ、美月の周りには、先祖たちの姿が現れ始めた。彼らは、美月に微笑みかけながら、彼女の周りを温かい光とともに舞い上がった。美月は、家族の魂が解放される瞬間を目の当たりにし、深い感動と共に、彼らの旅立ちを見送った。
そして、屋敷は再び静けさを取り戻した。霧が晴れ、月明かりが屋敷を照らし始めた。美月は窓から外を見た。屋敷の周りには、美しい庭園が広がっていた。彼女は、家族の魂が自由になったことを感じ、心からの安堵を覚えた。美月は、この屋敷とその歴史を守り続けることを誓った。そして、彼女は新たな一歩を踏み出す準備ができていた。彼女の研究は、まだ終わっていなかった。
霧の中の囁き 追求者 @pursue
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