第2話 囁く家

 霧が立ち込める霧雨市の深夜、美月は手にしたボロボロになっている地図を頼りに、静寂に包まれた街角を歩き続けた。彼女が探し求めるのは、地図上ではほんの小さな印に過ぎない、伝説の家。かつてこの地を支配した豪族の屋敷として知られ、今は誰も足を踏み入れることのない忘れ去られた場所だ。


 美月の前に現れたのは、苔むした石垣と、朽ち果てた木の扉。扉は古びた鉄の釘とヒンジでかろうじてその形を保っており、美月がそっと触れると、軋む音を立てて開いた。彼女は息を潜め、薄暗い室内へと一歩踏み入れる。


 室内は時間が止まったかのように静まり返っていた。埃が厚く積もった床は、美月の足音を吸い込む。家具はその歴史を物語るかのように古び、しかし、その配置は計算されたかのように整然としていた。壁には、豪族の家系を示す肖像画が並び、厳かな表情で未来永劫を見つめる先祖たちの眼差しが、美月を迎え入れる。


 美月は、その肖像画の一つに目を留めた。画中の人物は、威厳に満ちた様子で座っており、その瞳は何世紀にもわたって変わらぬ智慧と力強さを宿しているように見えた。彼女は、その眼差しに引き込まれるように、しばし立ち尽くした。


 この屋敷には、まだ語られざる物語が息づいている。美月は、その物語を解き明かす鍵を握る者となるのだろうか。彼女の冒険は、ここから始まる。


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