第4話 物語がある世界
コトノハ教授がまた、変わった映像を見ている。
子供達が輪になって座り、熱心に見ているのは何だろう?
教授と僕は再び、映像の世界に飛び込んでいった。
子供達の視線の先では、台の上に額縁のような物が載っていて、その中の絵には不思議な場面が描かれていた。
大きなカブをひっぱっているおじいさん、おばあさん、女の子、犬、猫、ネズミ……?
大人がひとり、絵を見せながら読み上げている。
「……カブはとても大きいので、全員でひっぱっても、なかなか抜けません。うんとこしょ、どっこいしょ。なかなか抜けないねぇ。みんなで応援してくれるかな」
「うん、いいよ」「いいよ!」「はーい!」
口々に子供達が言う。
「せーの! うんとこしょ、どっこいしょ!」
「うんとこしょ! どっこいしょ!」
「うんとこしょ! どっこいしょ!」
何度もその変わった掛け声を繰り返す子供達。
絵が取り替えられて、新しい場面に変わった。
「ついにカブを抜くことができました! みんなの応援のおかげだね」
「わーい! やったー!」「スゴイね!」「大きなカブだねぇ」
子供達は手を叩いて喜んでいる。
「みんなで楽しく共感する体験が素晴らしいじゃないか。実に興味深い」
教授がこの様子を見ながら言った。
「これは『物語』というものですか」
「そうだよ。子供達はこの物語を通して、感じたり、考えたり、いろいろなことを学ぶんだ」
「でも、こんな犬や猫やネズミと一緒にカブを引っ張るなんて、現実にはありえませんよ。大きなカブは、遺伝子操作で作られたのでしょう。空想の話じゃないですか。ここから何を学ぶというのですか」
「そうか。君は『物語』を知らない世代なんだね」
僕達の世界には、物語やフィクションは存在しなくなっている。
現実では起こりえない創造された物語は、もう必要とされていない。
今、実際に起きていることだけが全てだから。
これは、紙芝居というものらしい。日本独特のものだということだ。
* * *
作者注:「おおきなかぶ」はロシア民謡のひとつ。翻訳家・内田莉莎子氏による独特のかけ声が定着しています。
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