内気な令嬢、冷血陛下の花嫁になる

※この話は昔小説家になろうに掲載していたものです※

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 内気な令嬢ジーン・シモンズにとって、王宮の造りは豪華絢爛すぎて目に毒だった。

 ジーンは素朴な見た目をしているものの、肩書は一応『伯爵令嬢』である。

 とはいえシモンズ伯爵の領地は王都から離れたド田舎にあり、おまけにお金になるような特産品もなかったので、家柄が特別良いわけでもない。

 どうして地味令嬢の自分がこんなことに……ジーンはいまだにこの状況が信じられなかった。


 王宮に着いてすぐ、ジーンは広々とした応接間に通された。

 会議に使う部屋なのか、ローテーブルではなく、高さのあるしっかりしたテーブルが中央に設置され、それを囲むように椅子が十脚置かれている。

 ジーンはガチガチに緊張して背筋を伸ばし、行儀良く端っこの椅子に腰かけて、その時を待った。

 やがて部屋の扉が開く音がして、ビクッと肩を揺らして顔をそちらに向ける。

 陛下がいらっしゃったのかと思ったら、違った――入って来たのは、お仕着せを身に纏ったひとりのメイドだった。

 そのメイドは美しい女性だった。年の頃は二十代半ばだろうか……自分よりも五歳ほど年上に見える。きちんとまとめていても艶やかな黒髪は見事なもので、彼女の知的な面差しによく合っていた。メイドのエレガントな身のこなしを見て、『さすが王宮勤めするだけあって、優美な方だわ』とジーンは思った。

 お茶のセットが載ったカートを押して、メイドがジーンの隣までやって来た。

 彼女ににっこり微笑みかけられ、ジーンはホッとして、子供のように気取りのない笑みを浮かべた。

 とても優しそうな方だわ、よかった……。


「ジーン様、緊張していますか?」


 メイドから率直に尋ねられ、


「は、はい」


 ジーンはかあっと頬を赤らめ、つっかえながら答える。

 スマートさに欠いた返しをしてしまったのに、メイドは馬鹿にしたりせずに、丁寧に応対してくれた。


「陛下がいらっしゃるまで、私がジーン様のお相手を務めます――メイドのマデリーンです」


「ご丁寧に、ありがとうございます」


 マデリーンのことをいい人だと思ったので、いくらか緊張が解けて、今度は滑らかにお礼を言えた。

 ジーンの在り方はとても自然だった。

 彼女の瞳には清潔感と素直さがあり、草木のあいだからひょっこり顔を出した子兎のような、無垢な印象を相手に与えた。


「美味しいお茶を淹れますね」


 マデリーンがお茶目な顔つきでそう言うのを聞き、ジーンは愉快な気持ちになった。マデリーンの余裕は、いかにも仕事ができる人、という感じがする。

 ところが……。

 マデリーンは見た目こそシュッとしているのに、意外とドジだった。お茶を零したり、スプーンを落としたりと、不器用な失敗をいくつもした。


「あの……よろしければ、私がやりましょうか?」


 ジーンは思わずそう尋ねていた。

 ドジを踏むたびにマデリーンが「しまった」とか「ああもう」とか口の中で何かを早口に呟き、顔を曇らせるので、気の毒になったのだ。

 声をかけられたマデリーンは仰天した様子で、慌てて口を開いた。


「いえいえ、とんでもないことです! 『王妃殿下』となられるジーン様に、お茶を淹れさせるなんて」


 お、王妃殿下……それを聞き、ジーンは青ざめた。

 かなり繊細な話題だが、これは何もマデリーンが特別情報通だというわけではない。このことは王都にいる人間はみな知っているのだ。

 そう――今、貴族社会で『ジーン・シモンズ』は時の人である。なぜならジーン・シモンズは、『冷血で高貴なハーヴェイ国王陛下の花嫁になる』と噂される人物だからだ。

 ハーヴェイ国王陛下は二十三歳――黒髪に青灰の瞳を持つ、とても美しい男性だという。最高権力者である上に、見た目も飛び抜けて良いので、女性に大変人気があるらしい。ただし欠点もあり、かなり難しい性格をしている、とのことだ。社交の場でもほとんど笑わないのだとか。

 私とは真逆だわ……ジーンは陛下のことを考えると、胃がキュウッと縮む。


「あの」ジーンはしどろもどろに返す。「王妃殿下だなんて、何かの間違いです」


「何かの間違い? ですが……縁談は本決まりでしょう? 今日が初顔合わせですよね?」


 訝しげに指摘され、ジーンは赤面して俯く。


「……顔合わせというか、実際は『面接』なのだと思います」


「え――面接? そんな、試験みたいなことをおっしゃって」


 マデリーンは『ありえない』と思っているようだが、ジーンは大真面目だ。


「陛下がお気に召さなければ、私はすぐに領地に返されるでしょう……これはとても難しい試験です。受かる気がしません」


「確認ですが、陛下からそういった内容の手紙が届いたのですか? 今日はあなたの面接で、気に入らなければ即刻追い返すぞ――と」


「いえ」


「ではなぜそう思われるのです?」


「陛下が私をお選びになられた理由が、まるで分からないのです。お会いしたこともないですし、私は王都まで評判が届くような美人ではありません。才女というわけでもない。たぶん……手違い、人違いじゃないかしら」


 ジーンの言葉は淡々としていて、卑屈さからではなく、冷静に自己分析している客観性があった。

 小首を傾げて話を聞いていたマデリーンは、やがて温かみのある笑みを浮かべる。


「――ジーンさんは、とても可愛らしいと思いますよ」


 マデリーンの言葉には真心があった。上辺だけのお世辞という感じがしない。

 ジーンは嬉しくなったのと、恥ずかしくなったのが半々くらいで、かぁっと頬を赤らめた。

 マデリーンがこちらの良いところをわざわざ探してくれた気がして、胸が温かくなったのだ。


「ジーンさんは、もしかして……」


 マデリーンはしばらくジーンを観察したあとで、ためらいがちに切り出した。


「陛下と結婚するのがお嫌なのかしら?」


 ジーンは仰天して、マデリーンを見返す。


「そんな、滅相もないです! ただ、なんというか……私には荷が重いように思えて」


「ねぇ、本音で話しましょう」


 マデリーンが心の奥を覗き込もうとしているかのように、慎重にジーンを見据えて告げる。


「ジーンさんが縁談を断りたいのなら、方法を考えなければならないわ――すべてを壊すために、視点を変えてみるの」


「視点、ですか?」


「たとえば、そう――今、この時間こそが、テストなのかもしれないわよ?」


 テスト……? 訳が分からずにマデリーンを見返すと、彼女が真剣な顔で続ける。


「まず、メイドの私がドジを踏みまくる――それを見たあなたがどういった行動を取るかを、誰かがどこかで、こっそり観察しているのかも」


「……なるほど」


 感心して、ジーンは深く頷いた。

 それならば筋は通る。王宮勤めのメイドが、お茶を上手く淹れられないというのは、確かに不自然である。

 しかし……マデリーンはなぜこんなことを言い出したのだろう?

 彼女が真実を打ち明けているにせよ、ただの冗談にせよ、意図が掴めない。

 ジーンが考えを巡らせていると、マデリーンがさらにこんなことを言ってきた。 


「あなたのように優しすぎる人は、上流社会には不向きね。だけど陛下にはピリッとしたところがあるから、あなたのように物柔らかな性格の伴侶を迎えることで、ちょうどバランスが取れるという考え方もある。だから、そうねぇ――さっき、ドジを踏んだ私を、あなたがしっかり罵倒していたなら、無事に落第できて、地元に送り返されていたかもしれない」


 なんてことかしら……ジーンは前のめりになった。


「まだ遅くないかもしれません。陛下が入っていらしたら、私、頑張って、『マデリーンさん、あなた、ドジね!』って怒鳴ってみます」


「え、できるのぉ?」


 疑いの目で見られ、ジーンはふたたび赤面した。


「ええと、正直、自信はないです……棒読みになってしまうかしら」


「じゃあ、もう諦めるしかないわね。あなたって性格が素直だから、陛下を前にして、反抗的でふてぶてしい態度とか、取れないでしょう?」


「それは難しいです」


 眉尻を下げるジーンの肩を、マデリーンが優しくさすってくれる。


「あのね……私、あなたのことを知っているのよ」


「え」


 意外な言葉に、ジーンはマデリーンの美しい顔を見上げた。

 ずっと田舎から出なかった私のことを、王都勤めの華やかな彼女が、なぜ知っているのだろう?


「あなたのお父様の領地に、ワイリー君、ていう子がいるでしょう? 十歳の男の子」


 ワイリー君――意外な名前が飛び出した。


「はい」ジーンは頷いてみせた。「ワイリー君はとても頭がいいんです。生まれつき体が弱いけれど、彼は負けていない。私よりずっと人生に前向きで、尊敬しています」


「実は私ね、彼と文通友達なの」


「そうでしたか」


「数カ月前、近くに行く用があったので、ついでに足を伸ばして、ワイリー君に会いに行ったのよ。彼、ベッドで寝ていたんだけれど、掛布団カバーにとっても素敵な刺繍が施されていて……本当に見事な細工で、見惚れてしまった。それを褒めるとね、彼はこう答えた――ジーン・シモンズ伯爵令嬢――つまりあなたが刺繍して贈ってくれたのだと。ふたりはお友達なんですって?」


「ええ、ワイリー君は色々なことを知っているし、話していると楽しいです」


「彼、あなたのことをたくさん話してくれたわ。それでなんていうか……エピソードのひとつひとつは、なんてことないものなんだけど、聞いているうちに、胸がポカポカしてきてね。いつの間にか、私はあなたのことが好きになっていたの」


「マデリーンさん……」


「あなたは真っ直ぐな人だわ――お友達に親切にできる人で、見返りを求めない。素敵な人だと思う」


 そうかしら……。


「たぶん語り手のワイリー君が素敵だから、話題に出された私がいい人であるかのように思えたのではないかしら」


 ジーンははにかみ、そう返した。


「それもあるかもね」


 マデリーンも同意し、柔らかに微笑む。彼女はもう一度、ジーンの肩を優しく撫でた。


「ハーヴェイ国王陛下に、縁談が重荷なら、素直にそう言ってみたら? でもね、これだけは忘れないで――あなたがもしも、ワイリー君と接するみたいに心を開いて、陛下に偏見を持たずに向き合えたなら、良い関係が築けるかもしれない。すべてはあなた次第よ」


 ――扉が開き、陛下が部屋に入って来た。

 ジーンは慌てて立ち上がり、彼を迎えた。

 メイドのマデリーンはカートを押し、しずしずと扉のほうに向かって行く。

 彼女が陛下とすれ違う際、意味ありげにアイコンタクトをした。

 それに対し陛下が小さく「姉上」と呟いたことに、ジーンは気づかなかった。


   * * *


 挨拶を終えると陛下がすぐに、


「待たせてしまい、すまなかった」


 と詫びたので、ジーンは意表を突かれた。

 陛下はいくらだって目下のジーンを待たせる権利があるし、待たせたとしても詫びる義務はない。

 そして先ほどメイドのマデリーンは、「陛下にはピリッとしたところがある」と言っていたのだが、実際に対面してみると、どうもそんな感じがしないのだ。

 ジーンの目の前にいる陛下は、獅子のような気高さはありつつも、瞳は穏やかで、怖い感じがまるでない。

 ジーンは数秒のあいだ陛下を見つめたあとで、理由のよく分からない安堵を覚え、肩の力を抜いた。


「お気遣いありがとうございます。待つ時間も楽しかったです」


 そう答えると、陛下が複雑な表情でこちらを見おろしてくる。


「……あのメイドと……話をしていたのか?」


「はい、マデリーンさんが私の緊張をほぐしてくださいました」


「どちらかというと彼女は、他人を緊張させるのが得意なのだが」


「え?」


 目を瞠ると、陛下が気まずそうに咳払いをする。


「ああ……まったく姉という存在は厄介なものだ。どこへでも鼻先を突っ込んでくる」


 どういう意味だろう……ジーンは不思議に思った。

 先ほど陛下は「待たせてしまい、すまなかった」と言っていたので、ここへ来る前に姉君に引き留められた……とかかしら?

 事情はよく分からないものの、美しく高貴な陛下が姉の愚痴をこぼすのを聞き、なんだか親近感が湧いた。


「陛下――私にも姉がおりますが、やはりとてもお節介です」


「そうか」


 陛下が興味深そうにこちらを眺める。


「どこも同じだな」


「どこも同じです」


 ふたり、なんとなく笑みを交わす。

 ジーンは楽しげに続けた。


「一度、『そんなに構わないで』とお願いしたら、すねてしまって大変でした」


「すねたのか……どんなふうに?」


 尋ねられ、ジーンは一瞬『正直に答えるべきだろうか?』と迷った。

 家族の恥……とまではいかないけれど、詳細は、さすがに陛下にお話しして良い内容ではない気がする。

 けれど姉の悪口を先に言い出したのは陛下のほうで、彼は「どこへでも鼻先を突っ込んでくる」とまで言ってのけたのだから、ジーンだけが家族の恥ずかしい部分をごまかすのはズルイかもしれない。

 まあいいか……嫌われたら嫌われたで、故郷に返されるだけだものね。

 ジーンはひとつ深呼吸をして、素直に語り始めた。


「姉はツンケンしながら言いました――『ああそう、あなたは私を邪魔に思っているのね、よく分かりました。ひとりっ子ならよかったって、そう思っているのね? ええ、いいですとも――そんなに構われたくないのなら、あなたの望みどおりにしてあげます。もう二度と構いません。今後は、あなたが川でおぼれているのを見かけても、私は助けてあげずに無視しますからね』と」


 陛下がそれを聞き、くすりと笑みをこぼす。


「まるで子供だな」


「まるで子供です」


「君はどう返したんだ?」


「別に助けてくれなくてもいいけれど、私はお姉様が川でおぼれていたら、一応助けてあげます、と答えました」


「そうしたら?」


「何よ、そうやって寛大さを見せつけて、私が子供じみていると責めるのね――とさらに怒ってしまって」


「どうしろと言うんだ」


「姉は半日ほど怒っていたのですが、夜になったら、『来月は絶対に新作のオペラを一緒に見るのよ、約束よ』と話しかけてきたので、私は寛大に許してあげました」


 それを聞き、陛下が楽しげに笑う。


「では――君を見習って、私も姉を寛大に許すべきかな?」


「おそらくですが、陛下はそれができるはずです」


「なぜ?」


「私の馬鹿話をそんなふうに笑って聞けるのですから、陛下は寛大だと思います」


「――相手が自分にだけ特別親切だと解釈しないところが、君の美点でもあり、欠点でもあるかもな」


 陛下にそう返され、ジーンは驚いた。

 先の言葉はからかうような口調ではあったけれど、芯の部分に本音が隠れているように思えたからだ。


   * * *


 それから席に着き、ふたりで色々お喋りをした。

 ジーンは陛下と話していると、よく晴れた日に、登山をしているような気分になった。自然は畏怖の対象でもあるけれど、雄大で、美しく、澄んでいて、心を動かされる。そしてありのままの姿でそこに存在する。

 彼は確かに非凡で、美しい容姿をしている。少し野性味がある部分と、優美さのバランスがちょうどいい。しなやかで、鮮烈だった。

 けれど、そんなことより、なんだか……嘘のない人だな、と思って。

 出会ったばかりなのに、そう感じたのだ。


「長旅で疲れただろう」


 ねぎらいの言葉をかけられ、ジーンは微笑んだ。


「半月ほど馬車に乗りました。こんなに長い旅は、生まれて初めてでした」


「移動ばかりで退屈したのでは?」


「窓から外を眺めていると、景色が変わって……同じ晴れの日でも、場所によって、空の色が違うのです。退屈しませんでした」


「それならよかった」


「ありがとうございます」


「故郷はどんなところ?」


「素晴らしいところです、と言いたいところですが……普通ですね」


 ジーンは素直にそう答えた。計算も何もなく、気が利いた答えでもない。やはりまだ少し、緊張が残っているのかもしれない。


「普通なのか」


 陛下がくすりと笑みをこぼす。ジーンは『意外とよく笑う方だわ』と再確認して、愉快な気持ちになった。彼の柔らかな笑みにつられ、ジーンも口元に笑みを浮かべる。


「故郷は、私にはちょうど良いところです。普通で、ホッとします」


「そうか……そう聞いてしまうと、君を王宮に入れるのは、なんだか申し訳ないな。窮屈な思いをしないで済むよう、約束する――と言いたいところだが、嘘は言えない。もちろん、努力はするけれど」


「陛下は正直な方ですね」


「正直……そんなことは初めて言われたぞ」


 たぶんこの時にはもう、ジーンの心は決まっていた。

 平凡な自分に務まるかは分からないけれど、陛下のように立派で優しい方が「努力する」と言ってくださったのだから、私も頑張ろう。


「私も――陛下にはなんのお約束もできませんが、努力いたします」


「それなら、おあいこだ」


 ふたりは視線を交わし、穏やかに笑いあった。


   * * *


 ハーヴェイはジーン・シモンズ伯爵令嬢と会ってすぐに、『初対面という感じがしない』という感想を抱いた。

 まあそれはそうだろう――なぜなら姉のマデリーンが、このところジーン・シモンズ伯爵令嬢の話ばかりしていたのだから。

 変わり者の姉には、変わった文通相手がいる。相手は遠くに住む十歳の少年で、その少年の友人が、ジーン・シモンズ伯爵令嬢とのことだった。

 姉は直感で、ジーン・シモンズ伯爵令嬢しかいない! とひらめいたそうである。

 そんな訳で、今回の縁談は姉がまとめた。

 ハーヴェイは政治的な事情で近日中に婚約する必要があった。ところが彼は結婚に対してなんの期待もしていなかったので、「堅実な女性なら、誰でもいい」と考えていた。そこで姉が「じゃあ私が決めてあげるわ」とお節介を焼き、今回の話がまとまったのだ。

 しかし縁談をまとめるだけでは飽き足らず、顔合わせの前に臣下を使ってハーヴェイを狡賢く足止めして時間を稼ぎ、自分が先にジーン・シモンズ伯爵令嬢と会うなんて、そこまでするとは思っていなかった。


 ハーヴェイは少し不機嫌な気持ちで、対面の場所にやって来た。

 姉がどんなに乗り気でも、こちらの心が動くことはないぞ……そんなことを考えながら、ジーン・シモンズ伯爵令嬢と会い――……。


 これはあとで、姉にからかわれるに違いない。

「縁談をまとめた私に感謝なさいよ」――と。


 悔しいけれど、ハーヴェイは心から姉に礼を言う破目になるだろう――なぜなら女性と話していても和やかに笑ったことのない自分が、ジーンの前ではあのとおりだったのだから。


   * * *


 一年後、ふたりは夫婦になった。

 それで……どうなったのか?

 意外にも、大きな変化はなかった。

 というのも婚約期間中もジーンは故郷に帰らず、王宮で生活していたので、ふたりが仲睦まじく会話をしている場面を、多くの人間が目撃しており、結婚してからもそれは変わらなかったからだ。

 唯一変化したところを挙げるとするなら、結婚後はふたりの何気ない触れ合いが、もう一段階甘く、艶っぽくなったことくらいだろうか。




   * * *


 内気な令嬢、冷血陛下の花嫁になる(終)

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