ロバート殿下――その女性は娼婦ではありません、隣国の王女です。


 自分とはまるで異質な相手と対面する際に、気をつけなければいけないことはなんだろう?


 『その女性』がやって来る前に心構えをしておこうと、生真面目なロバート王子は考えを巡らせていた。



 ――まず、相手を否定しないこと、だろうか。


 今回の面談はこちらからお願いしたことであるので、話を聞かせてもらうという姿勢で臨むべきだろう。彼女の人生に対して物申したりするのは、もってのほかである。


 相手を侮っていれば、必ずそれが伝わるものだとロバート王子は考えていた。


 せっかく来てもらったのに、相手に不愉快な思いをさせることがあってはいけない。



 ――次に、知ったかぶりをしないこと。


 十八歳になったばかりの王子は、まだ年若いということもあったが、なんせ『真面目』が服を着て歩いているような堅物であったので、『そういった遊び』の経験がなかった。


 『その女性』が得意とする分野は、王子にとってはまるで未知の領域であり、正直なところ話がきちんと噛み合うかどうか分からなかった。


 しかしまぁ……経験がないものはないのだから、これに関しては背伸びをしたところでどうにもならないと思われた。



 彼はガチガチに縛られた身分社会の頂点に君臨しながらも、柔軟なものの考え方をする稀有な人物であった。

 真面目なのが彼の長所であり、その反面、堅物過ぎるのが短所でもある。


 ところでこのロバート王子――いつも小難しいことばかり考えているため、外見にもそれが滲み出ているのだろうか?

 ――いや、そんなことはなかった。


 彼の容貌にはほんの少しも欠点が見当たらない。

 金色の美しい髪は清潔に整えられ、濃い青の瞳は情感豊かで人目を惹く。そして目鼻立ちは繊細なほどに整っていた。


 彼は堅実な性格をしているわりに、容姿は大変煌びやかであるという、大変ユニークな矛盾を抱えているのだった。



***



 さて――朝も早い時刻、王宮内の居心地の良い応接室に、三人の若者が集まっていた。

 思い思いにソファに腰掛けたこの三名は全員同年代で、彼らは『完璧な王子様』が親しく付き合っている友人たちであった。


 友人たちも王子に似て、控えめで真面目な人物なのだろうか? ――実は、それがそうでもないようで……



「この中に、これまで娼婦を買ったことのある人はいますかね?」


 皮肉屋のシムがリラックスした態度でそう問いかけたので、この直接的な表現に王子は頬を赤らめてしまった。

 気取り屋のフィッツシモンズがすぐさまこれに反発する。


「シム! 下品ですよ!」


 この二人――まるで水と油というやつで、放っておくとすぐに喧嘩を始める。

 雰囲気も対照的であり、ひねくれ者のシムは凡庸な見た目をしているが、お上品なフィッツシモンズの方はいかにも貴族的で、女性的といってもいいほど優美な面差しをしているのだった。


「下品ったってね」

 シムは平気な顔で手を動かしながら、ざっくばらんに語る。


「これから『彼女』がやって来たら、自然、そういう話になるわけですから、ここで気取ってみたって仕方ないでしょう。ちなみに――僕はこういった遊びはからっきしで、これまでに女性を買った経験は一度もございませんなぁ」


「当たり前です! そんなことをしていたら、私はあなたを軽蔑していますよ」

 フィッツシモンズはカンカンだ。


 結局――三者三様に健全な私生活を送っていることが判明したわけだが、今のやり取りに若干の危惧を覚えたロバート王子は、二人に対して釘を刺しておくことにした。


「この勉強会はあくまで、こちらが話を聞かせてもらう立場だ。くれぐれも――ご本人がやって来たら、侮蔑的な発言は控えるように」


 その時ノックの音がして、事務方の取次ぎが、白く塗られた精緻な細工の扉を開け放った。



「――おみえになりました」



 殿下とその友人二名は緊張し、開け放たれた扉の方を注視する。


 張り詰めた空気の中――威風堂々たる態度で、一人の小柄な女性が入室して来た。

 若い娘らしく軽やかな足取り。彼女の視線や表情は自信に満ち溢れている。


 彼女のいでたちを見た瞬間――三人の育ちの良い青年は、あんぐりと口を開けてしまった。



***



 さてこの時――他でもないこの場所で、とんでもない取り違えが起こっていた。


 実は少し前に、隣国のエミリー・ヴェルヌ王女が遠路はるばるお越しになり、王宮内に通されたところであった。

 このエミリー王女とロバート王子は、婚約が整ったばかりである。


 政略結婚とはいえ、純粋なエミリー王女はこの結婚を大変喜ばしく感じていた。

 婚約者殿に一目お会いしたいと考えた彼女は、王族としてはいささかの軽率さでもって、突撃訪問をしかけたのだった。


 一応――数日前には訪問する旨の連絡を出しておいたのだが、運悪く、そちらが届くより先に王女が着いてしまったようである。


 手紙の到着が遅れた原因は、五日前に直撃した大きな嵐にあった。

 嵐により橋がいくつか流されたために、物流その他が乱れていたのだ。

 国賓の移動は最優先で経路を確保されるので、手紙よりも彼女の方が早く移動できてしまったというわけだ。


 だからロバート王子のほうは、彼女が来ていることをまだ知らないのだった。



 かくして――王宮に辿り着いた王女は、自国の警備兵を外に残し、お付きの者数名を連れて城内に入った。そして確認作業が終わるまでのあいだは待合室に通されていた。


 息抜きに通路に出て建物を見物していると、ちょうどそこを通りかかった事務方の役人が彼女に目を留め、声をかけてきた。


「ああ良かった、いらっしゃっていたのですね! ロバート殿下がお待ちです!」


 『娼婦』の到着を今か今かと待っていた事務方の男性は、それらしき女性を発見し、これ幸いと王子たちの待つ応接室に連れて行くことに。


 こうして――前代未聞の取り違え事件が起こり、エミリー王女は『下町の娼婦』として、王子殿下の御前に姿を現す運びとなったのである。



***



 生真面目なロバート王子は、目の前の娘のありえない風体に度肝を抜かれていた。


 まず、この国の女性は足を出すことをよしとしない。それがたとえくるぶしであったとしてもだ。

 しかし目の前の女性は、くるぶしどころか――ふくらはぎから下を大胆に露出しているではないか。


 ドレスというには心許ない軽やかな布地で作られた、変わった衣装。ふわりと広がるスカートの丈は、足首まで届かず、ふくらはぎのあたりでばっさりとカットされている。

 淡いピンクの色地は綺麗で上品ではあったものの、その形が全てを台無しにしているといえた。


 それから彼女の髪型――濃い金色の髪は緩めに結い上げられているのだが、問題は前髪だった。なんと目の上で切り揃えてふわりと下ろしてある。

 この国では前髪は長く伸ばして横分けにし、額を出すのが普通であったので、下町では随分変わった文化があるのだな……と王子は驚きを禁じえないのだった。


 とにかくなんといったらよいのか……彼女はその全てが驚異的であった。


 黒く艶めいた瞳で、物怖じせずに真っ直ぐこちらを見据えてくる。

 挑発的で、刺激的で、溌剌として、強い輝きを放っていて――

 彼女を見ていると、王子は目が回るような心地がして、強烈に感情を揺さぶられてしまうのだった。



「ごきげんよう」



 娘は瞳をきらめかせ、ふわりとほころぶように笑った。それはまるで物怖じのない、気さくで温かな挨拶だった。


 彼女は相手が挨拶を返してこないので、少々戸惑ったらしく、微かに目を細めた。

 けれどそれも一瞬のことだった。

 ……まぁいいわ、といった風情で、ツイと足を前に進め、王子の座るソファの前までやって来た。



「どうぞよろしくお願い致します」

 彼女が細く白い腕を優雅に差し出す。


 手の甲を上に向けた、キスを求めるようなその仕草に、お上品な貴公子・フィッツシモンズは思わずといった様子できつく眉を顰めてしまった。


 一方、生真面目なロバート王子は、この展開についていけず、すっかり固まってしまっていた。


 ところで――なぜ王子は、婚約者であるエミリー・ヴェルヌ王女の顔を知らなかったのだろう?

 実は、婚約が決まったあと、王子のもとには彼女の姿絵が届けられていた。


 しかしそれには少々問題があったようで……。


 あちらの国の流行なのか、絵は白黒で構図は大胆に崩してあり、あまりに先鋭的な表現方法が使われていたのだ。

 それがあまりに抽象的すぎたもので、結局王女がどのような姿をしているのか、王子には上手く伝わらなかったようである。



 ――そして肝心の、『娼婦』を王宮に呼び出した理由――

 実はこの『勉強会』、婚約者に決まったばかりのエミリー・ヴェルヌ王女自身が、そのきっかけを作っていた。


 エミリー王女はこの婚姻を通じて、両国間で有意義な文化交流が図れるようにと、あちこちの町を精力的に視察して、自国の文化を学んでいる最中だった。

 筆まめな彼女は、それらの体験談を手紙にまとめては、ちょくちょくロバート王子に送っていた。


 王子はそれを読み、彼女の前向きで陽気な性格に静かな感動を覚え――はたと我に返ったのだった。



 ……困った。私は民の暮らしをまるで知らない……。

 自分も彼女にならい、市井の暮らしを学ぶべきではないか?



 しかし王子が町に出るとなると、実際問題として、警備諸々大変な労力がかかる。

 そこでロバート王子は考えた――様々な職業の者を王宮に招いて、話を聞いて学ぶというのはどうだろう?


 初めは中流階級の者から面談を始めることにした。

 特に問題が起こるはずもなかった。王宮に呼んで話を聞くだけ――ただそれだけ、なのだから……。


 しかし皮肉屋のシムがさっそく面倒事を起した。

 はぶりの良い商人との面談の際に、手厳しく意地悪な指摘をして、喧嘩になりかけたのだ。


 貴族子息のシムに、中流階級に属する商人が逆らうというのは、本来ならばありえない事態である。しかし――相手の頭から『身分差』という強固な概念が吹き飛ぶくらいに、シムの言動は強烈だったようだ。


 もちろんシムのほうだって相手に対して怒り心頭で、「地獄に堕ちろ!」と悪態をついたので、その日の会談はすぐにお開きになってしまった。


 こちらの要望で王宮に招いておきながら、彼らが話すことにいちいち突っかかって神経を逆撫でするというのは、道理をわきまえている大人がすることとは到底思えない。


 そこで王子は、この件に関してはその場限りの出来事としておさめることとし、シムが報復を行うことを固く禁じた。


 それに反して、上品なフィッツシモンズは如才なく、優雅に誰とでも話を合わせることができた。

 そんな経緯があったもので、王子はフィッツシモンズに対してはあまり心配していなかったのだが、皮肉屋のシムが今回もとんでもないことをしでかすのではないかと、ちょっとした恐れを抱いていたのだ……。



***



「しょっぱなから随分混乱してしまったようですね」


 瞳をきらめかせ、シムが愉快そうにそう切り出した。

 彼は呆れ果てた際に、かえってそれを面白がるようなところがあった。


 さてこの身の程知らずのお嬢さんをどうしてくれようか――そう考えを巡らせながらも、まずはこの奇妙な状況を楽しむとするかと、ちょっとした悪戯心が発揮されたわけである。



 隣国の王女であるエミリー・ヴェルヌは、差し出した手を婚約者のロバート王子が取ろうとしないので、内心ひどく困惑していた。


 そもそも――どうして彼らは立ち上がり、歓迎の意を示さないのでしょう? この国は保守的で礼儀にうるさいと聞いていましたが、随分話が違うようです……。


 エミリーは、目の前のロバート王子をじっと見おろした。


 彼こそが将来、伴侶となるはずの人物である。

 姿絵を見たことがあったけれど、実物はそれ以上の麗しさで、初め、エミリーは胸の高鳴りを覚えた。


 だけど……彼は婚約者に会っても、あまり嬉しくなさそうだわ……。

 エミリーの勇気がしぼんでいく。


 そこでふと、彼女は自らの行いに思い至った。

 そういえば――彼と会えたことにすっかり舞い上がっていて、正式な挨拶を省いてしまっていたわ。


 ――ごきげんよう、だなんて親しい人にするような声かけを、初対面ですべきではなかったかもしれない。……常識知らずであると、呆れられただろうか?



「これは非公式な場ですから、無礼講でいきましょう。愛称? があったら教えていただきたいですね」



 皆がまごつく中、なんだか一人生き生きしだしたシムが、場を取り仕切るように快活な声を出した。

 ――娼婦というのは本名を名乗らず、通り名のようなものを使うのではなかったかな? シムの頭にうろ覚えの知識が蘇ったため、先の質問をしたわけである。



「ちなみに私はシムで――丸顔で口うるさいのがシム――と覚えてくださいね。それでこっちの耽美な男がフィッツシモンズ――なんだか長ったらしくて、もったいぶっているでしょう? それでこちらが――」


 シムに言われずとも分かっている。エミリーは王子の瞳を見つめ、照れたように微笑みを浮かべた。


「ロバート殿下、ですね。私、もちろん存じていますわ」



 彼女の慈しむようなその言葉の響きに、ロバート王子はなんだかどぎまぎしてしまった。

 媚とも違った、かけがえのない何か――親愛の情のようなものが確かにそこにあるような気がした。

 『こういった商売の女性』は、人の懐に入るのがこうも上手いのだろうか……。



「私の愛称は『ミミ』ですわ。親しい人しかそう呼びませんが――」


 エミリーが先ほど問われた質問に答えると、貴公子然としたフィッツシモンズが派手にむせ込んだ。

 親しい人というのは、それはつまり――肌を重ねた『客』のことだろうか――

 彼女の言うことは、なんだか妙に艶めかしくて困る。


 エミリー王女はバツが悪そうにしているフィッツシモンズを不思議そうに眺め、小首を傾げた。



「本日は無礼講なのですね? でしたらどうぞ、ミミと呼んでくださいな」

「しかしそれは――あまりにも――」



 フィッツシモンズの顔色が悲惨なことになっている。

 エミリー王女は『そんなにかしこまらなくてもいいのに』と思った。


 やはりこの国は階級にうるさいのねぇ……。王族を愛称で呼ぶなど、と遠慮深いのはよろしいことですが、そんなことよりもそろそろ椅子を勧めてもらいたいところだわ。


 するとロバート王子がさっとソファから腰を上げ――(王子が立ったので、他の二名も立ち上がった)――エミリー王女に優しい笑みを向ける。



「では、ミミ――どうぞおかけになってください」



 あらまぁ、とエミリーは顔を赤らめた。

 彼の口から零れる『ミミ』という響きの、なんと甘やかで美しいこと!



***



 全員が思い思いにソファに腰掛け、奇妙な会合が始まった。


「お客様とはどんなお話をされるのですか?」


 ロバート王子が生真面目に尋ねるのを聞いて、フィッツシモンズは優美な眉を顰めた。


 ……王子は真面目をこじらせて、どうかしてしまったのだろうか。いくらなんでも初めにこの質問は、世間知らずが過ぎやしないか。王宮のこんなに上品な一室で、猥談が始まったらどうしよう……。


「政治や経済の話ばかりをしていると思いますか?」


 ミミが悪戯に訊き返すと、王子は少し驚いたようだ。


「ええと……いいえ」

「私は人とお話するのが好きなので、話題はなんでもありですわ。冗談も沢山言います。ロバート殿下はいかがです?」


「私ですか?」

 王子は視線をさまよわせてから、少し恥ずかしそうに答えた。


「考えてみると、難しい話ばかりしています。……もしかして相手は退屈していたのでしょうか」


「そうかもしれませんわねぇ」ミミは思案し、「仲良くなるには、自分の恥ずかしい失敗談なんかを披露するとよろしいですわ」


「恥ずかしい失敗談……ですか」

 ピンとこない様子で王子が呟くので、ミミは一拍おき、瞳を大きく見開いた。


「まさか、失敗談がない?」

「えっ……どうでしょう。何かあるはずですが……ええとでも……ちょっと思いつきません」


 ミミがあまりに驚くので、王子はなんだか恥ずかしくなってきた。……こんな風にエピソードに事欠く自分は、もしかして異常なのだろうか? と考えたりもして。


「私なんて沢山ありますのに……それがあなたは、たった一つも思いつかないだなんて!」

「あなたの失敗談は、たとえばどんなものですか?」


 王子は学ぶ姿勢を見せた。具体例を聞けば、ああなるほど自分にもあったぞと、思い出すかもしれない。



「そうですわねぇ……たとえばお別れの挨拶で『ごちそうさまでした』と言ってしまったことが。他には……ああそうだわ、苺にフォークを刺して、そのまま会話に夢中になっていたら、手を動かした拍子に苺がすっぽ抜けてしまったことがありました。それでその苺が、とある紳士のかつらを弾き飛ばしてしまったのです。――以来私は、『凄腕の狩人』と呼ばれていますの」


「確かに奇跡の腕前ですね!」


 その光景を想像したのか、王子がくすくすと笑い出してしまう。



 まぁ……なんて可愛らしい笑顔なのでしょう! ミミは感嘆してしまった。

 彼の周囲を、光の欠片がキラキラと踊り、舞っているかのようだわ。

 少しはにかんだご様子なのも、見ているだけで胸にきゅんと迫るものがあって……。


 一瞬、ぽうっと意識が飛びかけたミミは、はっと我に返り、照れ隠しのように早口で付け足した。


「ええとあとは……空の澄んだ青が綺麗で、ぽけっと見上げて歩いていたら、池に落ちたこともありました。……ロバート殿下には、そういう経験はございませんか?」


 ずっと楽しそうに耳を傾けていた王子であったが、そう問われたあとに、物思う様子で視線をさまよわせてしまった。


 しばらくたってから、澄んだ瞳をミミに戻す。



「僕は……空が美しいと思って、目が離せなくなった経験すらないです。きっとあなたは僕よりずっと感受性が豊かで、心が綺麗なのでしょう」

「そうでしょうか?」

「あなたの目に世界がどう映っているのか、興味があります」


 静かな声音で心情を吐露した彼の瞳が、少し寂しそうに見えたので、ミミはなんだか自分まで迷子になったような心細さを覚えた。


 瞬きしてからそっと彼の様子をうかがうと、王子はそれを察したのか、口元に淡い笑みを浮かべてみせる。



 これを傍らで見ていたフィッツシモンズは、二人の醸し出す雰囲気に焦りを覚えていた。

 こんなことがあってはならない――非の打ち所のない我らの王子が、娼婦と心を通わすことなど――

 それで彼は、少し意地悪な調子で会話に割って入ることにした。


「ミミさん、あなたはもてなしが随分お得意なようですが、そうはいっても、嫌なお客さんが来ることだってあるでしょう? なんせ夜は長いのですから」


 ミミはフィッツシモンズの繊細な顔を見つめ返し、小首を傾げた。


「まぁそれは正直なところ、嫌なお客様もいらっしゃいますわ。ですけど私は一度に複数のお客様を相手にしなければなりませんし、いちいち細かいことを気にしてはいられません」

「えっ、複数のお相手をするのですか?」


 フィッツシモンズはしどろもどろになって、顔を真っ赤に染めてしまう。

 彼の常識では、そういった行為は一対一で行うものという認識だった。まさかこんな華奢な女性が、複数と――?


「中には下手な方もいらっしゃいますけど、幸い私が慣れていますし、初めての方にも楽しんでいただけると思いますわ」


 社交が得意でない方もいるのよねぇ……パーティに招いた口下手な客を思い浮かべて、エミリーが呟く。



「な、な、な……なんと破廉恥な!」

 とうとうフィッツシモンズが壊れたように叫んだ。



 一方、突然罵られた形のミミは呆気に取られてしまった。

 破廉恥ですって? どうして?

 こちらの国では複数の客人を招くことはありえないの?

 だけど――では舞踏会はどうするのかしら? 一対一? ずっと同じ人と踊るってこと?

 それって逆に破廉恥ではないの?



「私、理解できませんわ。だって――ロバート殿下だって、当然――複数の方としなければならないはずですし」


「お黙りなさい! それ以上言ってはいけません! いけません!」



 フィッツシモンズに怒鳴られ、エミリーはソファから少しだけ飛び上がってしまった。


 さすがに王族に対するこの暴言――これは咎めてよい行為だと思うのだが、彼があまりに赤面し、狼狽し、身悶えているので、どうするのが正しいのか、皆目見当もつかない。

 それに誰も彼の暴走を止めないし、謎すぎる……。


 これは一旦……ブレイクだわ。


 エミリーはソファからさっと腰を上げ、「お化粧を直して参ります」と早口に告げると、飛ぶような足取りで部屋から飛び出した。



 さて――これら一連の流れを黙ってうかがっていた皮肉屋のシムは、ひとり爛々と瞳を輝かせ、思わず口元を両手で覆ってしまった。

 これは……なんとも面白い展開になってきたぞ。



 そして肝心の王子であるが――

 表情が抜け落ちているので、フィッツシモンズが心配そうに彼の顔を覗き込んで尋ねた。


「ロバート殿下? 大丈夫ですか?」


 するとはっと身じろぎした王子が、空色の綺麗な瞳でフィッツシモンズを見返した。


「ああ、なんだか……途中から僕の容量を確実に超えたようだ。……意識が一瞬、飛んだ」

「それはようございました」


 かえってようございました……フィッツシモンズは「おいたわしい」と続けて、思わず涙ぐんでしまった。



***



 廊下に出たミミことエミリー・ヴェルヌ王女は、廊下の先で事務方の男性と、使用人らしき男が揉めているのに気付いた。


「迎えに行ったのですが、寝入っているのか、どうあっても出てこないのです。やはり夜遅い商売なので、朝イチの召集はキツかったのではありませんかねぇ?」


「だからさっきから何を言っているんだ? もう来ているぞ、ご本人が!」


「ええ? だけどそんなはずはございませんよ。だって私は『娼婦』を連れてきていませんからね!」


 事務方の男性がこちらに気付き、

「ああほら、あそこにいるじゃないか!」

 と指差したので、これに彼女は仰天してしまった。


 一体どういうことなの?


「ああ、本当だ!」


 もう一人があっさり納得したので、エミリーとしてはたまったものではない。


「ちょっと待って、あなた方、私が娼婦に見えて?」


「そりゃまぁ、見るからに……」


 見るからにですって?


「それはどうして?」


「だって足を出してらっしゃる。かたぎの女性は絶対に足を出しませんよ」



 なるほど……エミリーはやっと合点がいった。

 文化の違いというやつだろう。


 流石に公式行事の際は、近隣諸国の常識もかんがみて、衣装の選定には気を遣う。ところが……今回彼女は王宮を離れ、長いこと下町のあたりを渡り歩いていたので、すっかりその感覚が薄れてしまっていたのだ。


 この服は確かに、町で流行り出したばかりの最先端の形である。

 隣国の下町で流行っているデザインについて、こちらの国の、最も保守的であると思われる王宮で、その感性が通用するとは思えない。


 けれど、原因が分かったのと、納得するのとでは話が別である。


 せっかくお洒落をしたのに、それを侮られていたとは……エミリーの乙女心が深く傷付き、その傷はすぐに怒りに取って代わった。



 ……許すまじ……

 きゅっと眉をしかめ、腰に手を当てて仁王立ちになる。


 さてどうしてくれようかしら……。

 だけどここで真相を暴露しても面白くないわね……。



「ところで、どうして王子は娼婦を王宮に呼んだりしたんですの?」

「手紙にちゃんと書いておいたと思うが……ああそうか、文字が読めないのか」


 相手は勝手に納得し、説明を続ける。


「別に娼婦に限るってわけじゃない。様々な職業の者を順繰りに招いて、日々の暮らしについて話を聞いているのさ。ロバート殿下は大変な勉強家でいらっしゃるから」



 なるほどそういうことか……。

 でもちょっと待って、とエミリーはあることが引っかかってしまった。


 王子の態度は『娼婦』に対するものとしては、丁寧過ぎやしなかったかしら?

 それが彼の善良性を示すものだとしても、婚約者の立場で考えると……ちょっとだけ複雑な気持ちになる。


 ハンサムな上にあんなに親切だったら、彼と会った女の子は、皆彼を好きになってしまうわ。

 エミリーは考え込みながら、元の部屋に戻った。



***



「ロバート殿下はそんなふうに誰にでも気さくにお話されるのですか?」


 席に戻ると、さっそくエミリーはチクリとやった。

 問われた内容が意外だったのか、王子は一つ瞬きしてから、戸惑った様子で答える。


「気さく……ですか。僕は穏やかな性分だと言われますが……いかんせん面白みのない人間で、どちらかというと相手を緊張させてしまうことが多いようです」


「そうですの?」


 今度は彼女が驚く番である。


「あなたはとても親切で、話しやすい雰囲気だわ……」



 エミリーが王子に対して『あなた』と砕けた言い方をしたことに、フィッツシモンズはピクリと反応したものの、先ほど女性を怒鳴りつけてしまった気まずさもあって、ぐっと言葉を呑み込んだ。


 エミリーはしばし考え込んでから、王子に尋ねる。


「ロバート殿下には、そのぅ……親しくされている女性はいらっしゃらないんですの? たとえばそう、婚約されている方……とか」


「ああ、エミリー王女」


 王子はエミリーの名を口にして、優しく瞳を細めた。

 声音がこれまでの感じと明らかに違う。


 それは甘くとろけるようで、彼の幸せそうな微笑を目の当たりにしたエミリーは、かぁっと頬に熱が集まるのが自分でも分かった。


 彼が『娼婦』に対して気のある素振りをした……などと、とんだ思い違いであったと気付く。

 ロバート王子は本気を出したら、こんなに甘やかな空気を出せるのだから!


 若干混乱する彼女をよそに、王子が続ける。



「実はこのように民の暮らしを学ぼうと思ったのは、彼女がきっかけなのです」

「そうなのですか?」


 あまりに意外な話である。

 エミリーは息を止めるようにして、彼の話に聞き入った。


「エミリー王女は勉強家で、素晴らしい方です。まだ直接お会いしたことはないのですが、お手紙のやり取りで、僕は彼女の人柄を知りました。王女はあちこちの町を回って、自国の文化を学んでいるそうです。ところが僕は……民の暮らしについて、あまりに無関心であったし、無知であったと気付いたのです。彼女は僕とはまるで正反対で――僕が難しいと感じているようなことを、いとも簡単にやってのけてしまう人なのです」


「あなたにも難しいと感じることがあるのですか? エミリー王女があなたより優れている点とはなんですか?」


 ロバート殿下はなんでも容易にこなしそうに見えますのに……。

 当の本人がとんと見当もつかないのに、彼は確信を持って彼女を褒めるものだから……。


 小首を傾げるエミリーに、王子が楽しげに答える。


「彼女は素晴らしいユーモアのセンスをお持ちなのです。僕は彼女の手紙を読むと、いつもクスクス笑ってしまいます」



 え、ええー……。

 エミリーはがっくりきてしまった。優れている点ってそこなの? もっと何か……溢れ出る教養とか……(いやまぁ……そのようなものは、元よりないですけれども……)。


 エミリーが脱力していると、慌しいノックの音が響いて、返事を待たずに事務方の男性が入室してきた。


 男は青ざめた顔でエミリーの方を一瞥し、さらに顔色を悪くしてから、王子に歩み寄り小声で何かを告げた。


 彼が差し出した手紙を見て、エミリーは『やっと届いたのね』と思った。

 あれはエミリー自身がしたためた、訪問する旨を記した手紙である。


 王子は困惑した様子で中をあらためた。そして視線が下までいった際に「えっ!」と驚きの声を上げた。




『 親愛なるロバート殿下


 あちこちの町を視察で回っていましたら、気付けば国境付近まで来ていました。

 川を渡ったらすぐそちらの国です!

 もうすぐそこにあなたがいる――そう考えてしまったら、私、いてもたってもいられなくなってしまいました。


 そこで突然の申し出となりますが、これから会いにうかがってもよろしいでしょうか?


 こういった思いつきで行動する衝動的な性格を、いつも父に叱られるのですが……お優しいあなたのことですもの、きっと笑って許してくださると信じていますわ。


 ……このお手紙を、足の速い私が追い抜いてしまわないとよいのですが。

 ではまたあとで!


 エミリー・ヴェルヌ ――【ミミ】より 』




 王子の隣に腰掛けていたシムは、ちゃっかり横から手紙を覗き込んで、「やはりねぇ」と一人頷いていた。


 『ミミ』という愛称を聞いた時、隣国では名前の中から一文字を取り、それを繰り返して『愛称』にする習慣があったなぁと、ふと思い出したのである。


 隣国の女性という目線で観察してみると、わが国では奇抜に思えるあのドレスの丈も、あちらではありえそうである。


 何しろ、かの国はエネルギーに満ちている。

 皆が自由で何ものにも縛られない。

 女性は生き生きとして、誇りを持って暮らしている。


 それから『ミミ』は娼婦にしては上品過ぎた。ちょっとした仕草や姿勢から、育ちの良さを感じさせる。


 確かに少々型破りで、元気いっぱいなお嬢さんのようであるが、それでもかなりの教育を受けた女性であろうとお見受けした。


 これらの断片を繋ぎ合わせ、シムはひとつの結論を導き出した。


 そうだ――ロバート殿下の婚約者の名前は『エミリー』――それで『ミミ』――つまり、目の前のこの女性こそが、隣国の王女なのではないか?


 けれどシムは楽観的だった。

 なんらかの原因で取り違えが起きたとしても、すぐにそうと気付くであろうと思ったのだ。


 しかし意外にも話が噛み合って(?)、そのまま破綻せずに話がどんどん進んでいくので、途中からなんともいえぬ面白みを感じてしまうことに。

 果たしてどこまでこのボタンのかけ違いが続くのか、最後まで見てみようと、彼の悪い癖が出てしまったのである。


 王子はいつも女性に対し、一定の距離を保っている。だというのに、なんだか今日はいつになく砕けた、それでいて真摯な態度を取るもので、もしかして相手がエミリー王女だと気付いているのか……? と訝ったりもした。


 けれどそうではなかったらしい。


 いやはや、なんとも貴重な体験をさせてもらった……とシムは深く息を吐いた。




 一方――『ミミ』を『娼婦』だと思い込み、色々失礼な態度を取ってしまったフィッツシモンズは、穴があったら入りたい心地だった。


 彼は自分が紳士の中の紳士であり、礼儀の行き届いた、ご立派な人間なのだという思い込みがあった。


 それがこのていたらくである。


 隣国の王女に、なんという無礼を働いてしまったのだろう。

 彼にとって今感じている以上の羞恥を味わった経験はなかった。




 そして肝心の王子であるが――

 彼が手紙から視線を上げた時、エミリーがじっとこちらを見ているのに気付いた。


 ソファに腰掛けている彼女は、いまや物言いたげに腕組みをして、くっと片眉を上げている。

 全身から『怒っているわよ』と言いたげな空気を発散しているのに、それでいてどこかユーモラスで、チャーミングな仕草であった。


 王子はそれを見た途端――口元がほころぶのを止められなかった。



「まぁ、ロバート殿下……お笑いになっていますの?」


 エミリーが呆れて問うと、ロバートはくすくす笑い出してしまう。


「すみません、だけど……ミミは僕らの勘違いに気付いていたんですね?」


「ええまぁ、途中でね」


 エミリーは軽く顔をしかめて見せる。

 対照的に、王子は笑いの発作が止まらなくなったらしい。


「ああ可笑しい。だって……あなたが複数のお客様を相手にすると言った時、ここにいるフィッツシモンズはすっかり取り乱してしまいましたよ」


「ロ、ロバート殿下!」


 フィッツシモンズが上ずった声を出す。


 それがあまりに慌てた声音で、なんだか憐れを誘うものであったので、


「彼をからかうものではないわ」


 エミリーが呆れてたしなめると、ロバート王子はソファから立ち上がり、彼女のもとまでやってきて片膝をついた。


 そうして彼女の白くたおやかな手を取り、口付けを落とし、慎重な口調で尋ねる。



「ミミ……怒っていますか?」

「ええ、私、怒っているわ」



 そう答えるミミの顔は真っ赤で、言葉とは正反対の内心を表していた。

 ロバートが立ち上がり、手を引くようにしたので、エミリーも立ち上がって、二人は近しい距離で向かい合って立った。


「どうしたら機嫌を直していただけるでしょう?」


 星が瞬くように、彼の瞳の中に、光が優しく輝いている。

 それをぼんやりと見上げて、エミリーは小声で返事をした。



「私の国では……親しい相手に、頬にキスをして挨拶する習慣があるのです。私たち……挨拶がまだですわ」

「……こうですか?」



 彼が身をかがめ、彼女の肩を抱きながら頬に優しくキスを落とす。

 慣れていない割に、身のこなしが綺麗で、洗練された動作であった。



「では私も」

 うっとりと呟き、エミリーも背伸びをして彼の頬にキスを返す。



 するとロバート王子にふわりと抱きしめられた。



「あなたの国の習慣が、僕はとても好きになりそうです」



 彼がそう呟くのを、エミリーは至近距離で聞くこととなった。



 彼女は頬の熱が引かぬまま、

「……それは大変結構でございました」

 と、なんとか答えるのが精一杯だったのである……。



***



 さて――二人が出会ったあの日、エミリーはロバート殿下に対し「ハンサムな上にあんなに親切だったら、彼と会った女の子は、皆彼を好きになってしまうわ」という、ちょっとした不安を抱いたのであるが、実際のところそれはどうだったのだろうか?


 結論を言えば――その不安は単なる杞憂に終わった。


 エミリーを花嫁に迎えた彼は、雰囲気が大分柔らかくなり、同性の友人は確かに増えたようである。


 以前は『ミスター・パーフェクト』と呼ばれ、あまりに隙がなく、とっつきにくい感じであったのだが、エミリーと一緒にいる王子は、よく笑い、照れたように赤くなったりしたので、人間味がぐっと増して、話しかけやすい雰囲気に変わった。


 しかし……彼女以外の女性に対しては、相変わらず礼儀正しく、必要以上に親しみやすさを表すことはなかったので、エミリーがやきもちを焼くような事態にはならなかった。


 その代わりに――エミリーが他の男性と楽しく会話をした時などは、彼の方が可愛らしいやきもちを焼いたものだ。


 そんな時、彼女は決まって愛おしげに彼を見上げたので、それですっかり二人は元どおりになり、喧嘩に発展するようなことはなかったようである。




 気取り屋のフィッツシモンズが、その後どうなったかを語っておこう。


 もともと彼には、気立ての良い聡明な婚約者がいた。


 以前の彼は気取って独善的なところがあったので、婚約中の女性に対し、至らない点をつぶさに挙げてしまうような、悪い癖があった。

 彼女は彼に相応しい女性になろうと頑張り過ぎたために、しまいには、彼と一緒にいると息苦しく感じるようになっていた。


 ところが――

 エミリー王女が電撃訪問したあの日以来、彼は劇的に変わった。


 大失敗を経験したフィッツシモンズは、自身が(自分で思っていたほどには)完璧ではなかったことを、身をもって知ったのだ。結果、他者に対する思いやりの心を学んだ。


 そして婚約者に対し、ある気付きを得たのである。


 ――色々と欠点のある自分を献身的に支えようとしてくれる彼女は、なんと素晴らしい人なのだろうか。


 彼が彼女を慈しみ、愛するようになったので、もともと善良で聡明な彼女は、全身全霊をもって愛を返した。


 その後二人は結婚し、幸せに暮らした。


 つまり――あの大失態は、彼にとっては大変良い結果をもたらしたわけである。




 皮肉屋のシムは、その後、自身の斜に構えた態度を少しだけ反省することとなった。


 というのも――友人のフィッツシモンズが、あの件で随分狼狽し、傷付いてしまったので、あとになってから『もっと早く真実を教えてあげれば良かったなぁ』と思い至ったのだ。


 しかし彼の良さは、その皮肉さと表裏一体になった、変わったものの見方にある。


 幸い、彼自身のその特性が、反省を機にまるでなくなってしまったわけではなかった。

 機知に富んだ資質は損なわずに、彼は少しだけ思いやりを学んだ。


 その後――国一番の美女とうたわれる侯爵家の令嬢と熱烈な恋に落ち、恋愛結婚に至ったのだから、人生とは不思議なものである。


 丸顔で冴えない容姿をした彼であったが……実は、侯爵家のご令嬢の方が彼にぞっこんだったという話だ。




 最後にもう一つ。


 エミリーが輿入れしたあと、爪先の露になった華奢な靴と共に、ふくらはぎまでの丈のドレスが大流行することとなった。


 笑顔が魅力的で、気さくで、健全なエミリー王女はすぐにこの国の人気者となり、彼女が身につける衣装を皆がこぞって真似したためだ。


 ロバート王子はエミリーの肩を抱き、いつもの優しい瞳で彼女を見つめて語った。


「女性が元気な国には未来がある。君のおかげだよ、ありがとう」


 これにエミリーは瞳をきらめかせ、

「それはロバート殿下のたゆまぬ支えがあったおかげですわ」

 と小生意気な軽口で返した。


 けれどロバート殿下は彼女の本心を知っている。というのも、以前彼女が侍女に向かって、「文化の違いで迷惑をかけることも多いけれど、彼を精一杯支えたいわ」と真摯に語っているのを、偶然耳にしたことがあったためだ。


 彼女のこういうところが、ロバートはたまらなく好きなのだった。



 エミリーは多くの変化をこの国にもたらした。

 人々の顔を見ればそれは一目瞭然であろう。


 ――今、女性は自らのためにお洒落をして。

 生き生きとした表情で町を歩いている。


 はしたない、と眉を顰めるような連中は放っておけばいい。



 なぜならば――この国の王子が、この変化を大変喜ばしく思っているのだから。




   * * *


  ロバート殿下――その女性は娼婦ではありません、隣国の王女です。(終)


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