ショーマストゴーオン!(2)
その後も数時間見学し続けた。立ち位置の確認や大道具の確認、照明や音響の調整など、演劇はたくさんの仕事がある。
椿さん以外にも、花組にはたくさんの上手な人がいた。まだ小学生くらいなのに私より上手に踊る子もいる。
優菜ちゃんとふたり、ただ見続けた。
数時間後、スターダストの副団長さんが私たちの元へ来た。
「こんにちはっ。私、スターダストの副団長を務めています、
幼い顔立ちと高い位置で結ばれたツインテールが『可愛らしい』という印象を強く残す。
私たちも挨拶を交わした。
「百仁華ちゃんとお呼びくださいませっ!」
「えっ、百仁華ちゃん…?」
「はい!私も下の名前で呼ばせていただきますねっ、花歩ちゃんっ!」
「なんでわかったんですか!?」
「なんとなくですよぉ〜。それで…いかがです?スターダストは。素敵でしょう?」
「はい!」
「望めば誰でも入団することができますが…どうします?」
「入りたいです!」
「私も…。」
「そうですか!嬉しいですっ!ではこちらにサインを。」
少し真面目そうな書類を渡され、すぐさま名前を書く。
サインされた紙を2枚受け取った百仁華ちゃんは嬉しそうにニコッと笑った。そして、次はセリフの書かれた紙を配布する。
「それでは、組み分けしたいので、それを花歩ちゃんと優菜ちゃんで演じてください。」
「えっ、今日ですか!?」
「はいっ!あ、覚えなくて大丈夫ですよ〜。配役は相談して決めてください。そちらは差し上げますのでご自由にどうぞ。えーと…では、今から10分後。ちょうど花組が練習を終える頃なのでそれまでに準備してください。それでは…どうぞ。」
いきなりテストのようなものが始まってしまった。さすがスターダスト…じゃない!早く配役を決めてイメージし始めないと!と、台本を読むと、つい硬直してしまった。
これ、知ってる。
タイトルは、『アラビアンナイト』。俗に言う、『アラジン』。少しアレンジは加えられているものの、大体同じだ。
登場人物は、『アラジン』と『ランプの魔人』。アラジンがランプを擦り、ランプの魔人と対面するシーンだ。アラジンの不安さ、ランプの魔人の奔放さが求められている。そして、ランプの魔人の見せ場でもある。
優菜ちゃんは真面目でおとなしそうな子だ。私がアラジンをやるべきだろう。そう思って話しかけようとすると…驚きのひと言が聞こえた。
「…私、『ランプの魔人』やってもいいですか?」
「え、いいけど…。じゃあ私が『アラジン』ね。」
不安な中、台本を読むこんでいく。優菜ちゃんに『ランプの魔人』は似合わない。大丈夫なのだろうか。いや、自分のに集中!私はアラジン。ランプの魔人に振りまわされる男。不安そうで、驚いていて、それでいてどこか希望を持っているような男…。
♢♢♢
花歩ちゃんがアラジン、優菜ちゃんがランプの魔人ですかぁ〜。素敵ですね〜。どうなるのでしょう。
私・百仁華は観客席に座って練習風景を眺めていた。
そして、花組の練習が終わる。よし、いよいよだな。
「それでは二人とも、舞台に上がってくださ〜い!」
花組は観客席あたりで荷物をまとめるように言った。椿ちゃんがタオルで汗を拭いながらこちらに来る。
「あの、ふたり。どういう子たちなの?」
「さあ?分かりません。」
気づけば、優菜ちゃんはロングスカートからショートパンツになっている。あの子…仕込んできたんだろうな〜。花組の音響・照明スタッフを位置につかせた。あの子なら、やるかもしれない。
「…それではお好きなタイミングでどうぞ〜!」
花組の全員が見る中、二人が空気を作った。
『お前が…ランプの魔人なのか?』
まずは花歩ちゃん。素直にアラジンを演じ、不思議な空気を演出する。
「あの子上手ね。」
「ですね。」
隣に座っている椿も微笑んでいる。だが、ここからが問題だ。優菜ちゃん。あなたはどう来る?
『そうだよっ!何回も言ってんじゃん!』
あ。違う。空気の密度が違う。花歩ちゃんが喰われた。たった一言で相手を食った。花歩ちゃんを退けて目立った。元気いっぱいで自由奔放な魔人を構築した。
自由にくるくると走ったり跳ねたりしているその姿は、衣装や小道具がなくても、『ランプの魔人』だった。
『すごい…本当にいたなんて…!』
『んーありがとー。』
アドリブも入れてしまうその度胸、好きだなぁ。元気いっぱいだけど、どこか抜けている、不思議な魔人。
『魔人なら…あれか?魔法とかも使えるのか?』
『うん!すごいだろ〜。あ、見せてあげよっか?』
『え…いいのか?』
本来なら、このまま会話は進んでいく。だが、見せるなど言ってしまった。これは来る。手を掲げ、音響照明に合図を送る。
『それじゃあ…俺様の力、とくとご覧あれ!いくぞー!』
優菜ちゃんの掛け声と同時に、軽快な音楽が流れ出す。これは昔、花組がこれを演じたときに使ったもの。まさか…とは思っていたが、本当にやってしまうなんて。
あの時のダンスと全く同じように優菜ちゃんが踊り始める。照明や効果音。スタッフさえもうまく使い、まるで魔法がかかっているかのように演出する。あの時と同じように歌い、花歩ちゃんを巻き込む。
花歩ちゃんも素晴らしい。多分あの時の劇は見ていない。全く違う動きだ。しかし、順応能力がとんでもなく高い。打ち合わせなしのパフォーマンスについて行っている。そして、常に魔人を引き立てる動き方をしている。ここが魔人の見せ場ということを理解している。
そして、優菜ちゃんの歌やダンスは、まだまだ甘いところもあったが、照明や音響の使い方は目を見張るものがあった。
パフォーマンスが終わり、残りのセリフも繋げて、劇は綺麗な終わりを迎えた。
「お疲れ様ですっ!よかったですよぉ!」
「ありがとうございます…!」
「ありがとうございます…。」
「いやぁまさか、パフォーマンスまでやり遂げてしまうとはっ!びっくりしました〜。」
「そうだよ!本当にびっくりしたんだから!」
「すみません…。何回も見返したものだったので…。」
「それじゃあ、組み分け発表ですねっ。まず、花歩ちゃん。あなたは、風組へ行きましょうっ。あなたの持つ爽やかさや素直さを発揮してくださいね〜?」
「はい!」
「そして、優菜ちゃん。あなたは鳥組へ行きましょう。鳥組にも歌やダンスはありますし、何より演出能力が高いのでそれが最適かと。」
「はい…。」
「それじゃあ、この書類を受け取ってください。お疲れ様でした〜。」
ニコニコと手を振って二人を見送る。
あの二人…すごかったなぁと改めて感じた。
♢♢♢
「…お疲れさま!」
「お疲れ…。」
「すごかったね!ついていくのに精一杯だったよ!」
「ありがとう…。」
「私が風組で優菜ちゃんは鳥組か…。別れちゃったね。」
「また、練習で会えたらいいな…。」
「ね〜!あ〜風組についてたくさん調べないと〜。」
「…風組は、平均年齢が2番目に低くて、高校生が多い…。それと、あんまり歌とかダンスはやってなくて、本当に高校演劇みたいな感じなの…。ちなみに風組のエースは
「すごいっ!詳しいんだね!」
「スターダスト、ずっと好きだったから…。」
「じゃあ、優菜ちゃんの行く鳥組は?」
「…鳥組は、平均年齢が一番若くて、小学生の子もたまにいる…。照明スタッフが多いことでも有名。たまに劇をライブ配信してるの。エースは
「すごっ!私と大して変わらない年齢じゃん!」
ホームページに大体の情報は載っているらしい。私も後で検索してみないとな〜と思い、空を見上げると、もう暗くなりかけていた。今日はいろんなことがあったな〜。東京に来て、駅で迷って、新しい部屋に行って、また駅で迷って、入団までして。なんだかこれからの毎日が楽しくなりそうな予感がした。
続く…?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます