理想の下記、手。

恐ろしいほどに鮮やかな白黒の世界

理想の下記、手

 彼は素晴らしい人だ。品行方正だ。努力家だ。奇策妙計だ。英華発外だ。

 彼のところには沢山の人が集まる。誰も彼もが、彼を称え、 敬愛し、憧れる。

 彼は、

 』

 

 キーボードで文章を打ち込んでいた中年女性は、手を止める。

 「はぁ。私もこんな人だったら……。」

 

 彼女は一般女性だ。長所もあれば短所もある人だ。作家と兼業でパートを行っている。作家としての腕はまぁまぁだ。名が売れるわけでもなく、打ち切りも時々あるくらいだ。

 

 ありえないものだと知ってながら理想を書く。私だってそんなふうになりたいと思ったし、そんなふうに振る舞ったこともある。でも結局は空回ったり萎えたりして、直ぐにだめになる。

 手を見る。

 なんてしがない手だろう。

 

 彼女は、理想はただの作り物として、また普通の人のように過ごす。

 

 何処へ行ってしまったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

理想の下記、手。 恐ろしいほどに鮮やかな白黒の世界 @Nyutaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説