038 監察官(6)わたしの前に連れてきてくれ

 モンテマニー侯爵は、メクバール執事と医者を呼んで、良太郎さんの治療ちりょうをしてベッドに寝かせてくれた。


メクバール執事

「ルナ殿たちが、モンテマニー侯爵様こうしゃくさまとびらまえにいた不思議ふしぎさはいません。

 モンテマニー侯爵様が寛大かんだいな方であることを、かみ感謝かんしゃしてください。」


ルナ

「ええ、モンテマニー侯爵様とメクバール執事が”こころが広い方”であることを感謝しています。」


メクバール執事

「わたしのことはいいのですよ。」


 そうは言いつつも、うれしそうだった。





モンテマニー侯爵

「そうだったのか。

 これで納得がいったな。」


 モンテマニー侯爵は、メクバール執事を見ていった。


メクバール執事

「仕事は良太郎殿がされていたのですね。」


 ボクが疑問を持っていると、メクバール執事が解説してくれた。


ルナ

「すると、名誉めいよ手柄てがらを錦野町長が手に入れて、実際じっさい業務ぎょうむは良太郎さんが処理しょりされていたのですね。」


モンテマニー侯爵

「だから、発覚はっかくおくれたのだ。

 信頼するメクバールの言葉とは言え信じられなかった。

 いや、信じたくなかったのだ。」


メクバール執事

「良太郎様は、モンテマニー侯爵の唯一ゆいいつのご友人なのです。」


モンテマニー侯爵

「良太郎は、わたしのようなチビでデブスなわたしとも仲良くしてくれたからな。」



良太郎 《回想》

「あなた個人には魅力みりょくを感じます。

 しかし、お金持ち貴族の御子息のを振りかざす貴方には魅力を感じません。」


モンテマニー侯爵 《回想》

「わたし個人に魅力を感じるだと?」


良太郎 《回想》

「そうです。 あなたはボクが苦手なことを得意としているじゃないですか?」


モンテマニー侯爵 《回想》

「わたしと友達になりたいか?」


良太郎 《回想》

「あなた個人となら、喜んで。」



モンテマニー侯爵

「ルナ殿、赤いプレート。

 モンテマニーの紋章は持っているな。」


 ボクは、カードを取り出して見せた。

 それを見たモンテマニー侯爵は、大きくうなづいて満足そうだった。


モンテマニー侯爵

「ルナ殿、紅丸殿、黄庵殿、青兵衛殿。

 わが友、良太郎をこんな目に合わせた錦野町長を生きたまま、わたしの前に連れてきてくれ。

 邪魔じゃまするものがいれば、この世から退場させてもかまわない。」


 こんなにもおこっている彼の顔は初めて見た。


ルナ

「わかりました。

 多少の怪我をさせても構いませんね。」


モンテマニー侯爵

「ああ、だが、わたしが尋問じんもんできるようにしてくれ。」


紅丸

「手加減はします。

 ルナ様、行きましょう。」


 彼の【怒気当て】にされて反応が遅れたボクの代わりに、紅丸が返事をしてくれた。





 ボクたちは、キータムアンの町に戻って、町長の家を訪問した。

 門番の目を盗んで、屋敷に忍び込むと、容姿ようしが美しい女性たちをはべらして、酒盛さかもりをしていた。


錦野町長

「中立の騎士様、あなたのおかげで、良太郎は従順じゅうじゅんになりました。」


中立の騎士

「あれは、わしのことを信じ切っているからな。」


錦野町長

「真実の瓦版かわらばん様、お力添ちからぞえありがとうございます。」


真実の瓦版かわらばん

「気にするな。言うこと聞かなかったら、頭がおかしいと怒鳴どなりつけてやればいい。」


錦野町長

熱血教師ねっけつきょうし様、あなたのおっしゃるとおりでした。」


熱血教師ねっけつきょうし

「錦野さんは、人を見る目がある。 人づきあいが上手なわけだ。」


 うすい白い紙が張られた障子しょうじに彼らの姿が影絵かげえとなって、うつし出されていた。


ルナ

「紅丸、障子しょうじだけって。」


紅丸

「はい、ルナ様。」


 斬り倒された障子がバタンバタンと音を立てた。


ルナ

「錦野町長、いいご身分だね。

 良太郎さんに仕事を押し付けて、ご自分は宴会えんかいですか?」


錦野町長

「これは、ルナさんとお兄様方、ご一緒いっしょされませんか?」


 この状況でよくもまあ、笑顔をふりまけるな。ボクはあきれた。


黄庵

「良太郎さんが、ふらふらだった理由が良く分かりました。

 昼間はみなさんと同じ仕事をして、夜は町長の仕事をしていた。


 そりゃあ、睡眠時間すいみんじかんって、身体からだ不調ふちょうをきたすでしょうね。」


錦野町長

「なんのことでしょうか?

 もしかして、彼は残業していると?

 不思議ですね。」


青兵衛

「そして、中立の騎士様は彼のこころをへし折って、精神的な抵抗力を奪ったのだな。」


中立の騎士

「わしは、あくまで公平に中立にを心掛けているぞ。」


青兵衛

「二枚舌でだますことを中立と呼ぶのか?」


熱血教師

「わたしの善意ぜんいを理解しなかった彼が悪い。」


紅丸

「善意とは人前で尊厳そんげんを無くすまで怒鳴どなりつけ、悪口をつくり広めることを言うのか?」


真実の瓦版

「きみたちは、あたまがおかしいな。

 ここから出て行け。」


紅丸

「ルナ様。」


ルナ

「ああ、紅丸。

 あなたたち、これを御覧ごらんなさい。」


 ボクは赤いプレートを空にかかげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る